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第24話
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私は、まっすぐに広瀬さんを見た。睨んでいるわけではないが、こんなふうに真正面から見返したことは一度もなかったので、広瀬さんは少したじろいでいた。
一度だけスゥッと息を吸い、私は言う。
「広瀬さん」
大きくも小さくもないけど、毅然とした声だった。
「な、なに?」
「広瀬さんが私を気に入らないのはわかるよ。でも、ルディまで巻き込んでからかうのはやめて。これ以上無神経な質問をするなら、私、あなたを許さない」
「べ、別に私、からかってるつもりじゃ……」
「じゃあ、冗談じゃなくて、真剣に聞いてたの? ああいう質問を、皆の前で真剣に聞く方が失礼じゃない? ルディに恥をかかせることになるとは思わなかったの?」
「それは、その……」
広瀬さんは、もうたじたじだった。私が正論を言っているというのもあるが、これまで何を言われてもションボリ下を向いてるだけだった私が、猛然と問い詰めてくるという予想外の事態に、圧倒されているのだろう。
……別に、広瀬さんをやり込めることに意味があるとは思えない。私は、これ以上の騒動にならないように、なるべく柔らかい言葉で話をまとめる。
「ごめんなさい。広瀬さんを責めたいわけじゃないの。私はただ、ルディをからかうのをやめてほしいだけ。ルディは大事な友達だし、日本での短い学校生活を、なるべく楽しい気持ちで過ごしてもらいたいから」
そう締めくくったことで、広瀬さんは完全に黙ってしまった。そして、その場の空気に耐えかねたように、教室を出て行った。……私の胸に、広瀬さんの成すがままにならなかったという小さな勝利の喜びと同時に、ザクリとした罪悪感が突き刺さる。
(また傷つけたね。あなたって、本当に嫌な子)
うるさいな。
私は、内なる自分の囁きをかき消した。ルディへの質問タイムは、今の流れで自然にお開きになり、代わりに、何人かの女子が私に称賛の声を送って来る。
「すごいすごい! 稲葉さん、やるじゃん! 広瀬さんってちょっと無神経で、思ったこと全部口に出してくるところあるじゃん? 私たち、『それってどうなの?』っていつも思ってたんだけどさ、ほら、広瀬さんって背も高いし、目つきもするどくて独特の迫力あるからさ、面と向かうと何も言えなくなっちゃうんだよね」
まるで染めているかのような(うちの学校は髪染め禁止なので、地毛なのだろうけど)、明るい髪色の女の子がキラキラとした瞳でそう言った。続いて、眼鏡の女の子が二~三回飛び跳ねながら言う。
「そうそうそう! うちの強豪吹奏楽部でも、入ったばっかりの1年なのに、もうフルートのソロパートを任されてたりして、なんか『私は特別~』って空気あるからさ、委縮しちゃうんだよね。いや本当に、よく言ってくれたよ! スカッとした! っていうか、稲葉さんって気が強いんだね。もっと大人しい子だと思ってたよ」
まったく予想していなかった事態に、私は再び顔を赤くする。今度の赤に怒りの要素はまったくなく、100パーセント、恥じらいの赤だった。
一度だけスゥッと息を吸い、私は言う。
「広瀬さん」
大きくも小さくもないけど、毅然とした声だった。
「な、なに?」
「広瀬さんが私を気に入らないのはわかるよ。でも、ルディまで巻き込んでからかうのはやめて。これ以上無神経な質問をするなら、私、あなたを許さない」
「べ、別に私、からかってるつもりじゃ……」
「じゃあ、冗談じゃなくて、真剣に聞いてたの? ああいう質問を、皆の前で真剣に聞く方が失礼じゃない? ルディに恥をかかせることになるとは思わなかったの?」
「それは、その……」
広瀬さんは、もうたじたじだった。私が正論を言っているというのもあるが、これまで何を言われてもションボリ下を向いてるだけだった私が、猛然と問い詰めてくるという予想外の事態に、圧倒されているのだろう。
……別に、広瀬さんをやり込めることに意味があるとは思えない。私は、これ以上の騒動にならないように、なるべく柔らかい言葉で話をまとめる。
「ごめんなさい。広瀬さんを責めたいわけじゃないの。私はただ、ルディをからかうのをやめてほしいだけ。ルディは大事な友達だし、日本での短い学校生活を、なるべく楽しい気持ちで過ごしてもらいたいから」
そう締めくくったことで、広瀬さんは完全に黙ってしまった。そして、その場の空気に耐えかねたように、教室を出て行った。……私の胸に、広瀬さんの成すがままにならなかったという小さな勝利の喜びと同時に、ザクリとした罪悪感が突き刺さる。
(また傷つけたね。あなたって、本当に嫌な子)
うるさいな。
私は、内なる自分の囁きをかき消した。ルディへの質問タイムは、今の流れで自然にお開きになり、代わりに、何人かの女子が私に称賛の声を送って来る。
「すごいすごい! 稲葉さん、やるじゃん! 広瀬さんってちょっと無神経で、思ったこと全部口に出してくるところあるじゃん? 私たち、『それってどうなの?』っていつも思ってたんだけどさ、ほら、広瀬さんって背も高いし、目つきもするどくて独特の迫力あるからさ、面と向かうと何も言えなくなっちゃうんだよね」
まるで染めているかのような(うちの学校は髪染め禁止なので、地毛なのだろうけど)、明るい髪色の女の子がキラキラとした瞳でそう言った。続いて、眼鏡の女の子が二~三回飛び跳ねながら言う。
「そうそうそう! うちの強豪吹奏楽部でも、入ったばっかりの1年なのに、もうフルートのソロパートを任されてたりして、なんか『私は特別~』って空気あるからさ、委縮しちゃうんだよね。いや本当に、よく言ってくれたよ! スカッとした! っていうか、稲葉さんって気が強いんだね。もっと大人しい子だと思ってたよ」
まったく予想していなかった事態に、私は再び顔を赤くする。今度の赤に怒りの要素はまったくなく、100パーセント、恥じらいの赤だった。
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