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第21話
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「私、今日一日、その言葉の意味をずっと考えてた。それで決心したの。やっぱり今のままじゃいけないって。このままフルートを――音楽を捨てちゃいけないって。だから、ひさしぶりにここに来て、改めてフルートに触れて、これから自分を変えていく決意を、ルディに聞いてほしかったの。これまでの、迷いや不安と一緒に」
自分でも、驚いている。ルディと出会ってから、昨日を入れてたったの二日で、こんなに自分の気持ちが前向きになるなんて。いや、正確には、今朝ルディに言われた言葉の力で、私の意識は一気にこれからの未来に対して向くようになったのだから、ふさぎ込んでいた気持ちが変わるのに、時間なんて関係ないのかもしれない。
大事なのは、きっかけ。
そのきっかけをルディが与えてくれたと思うと、この違う世界の"得体のしれない"友達に対し、これまでに感じたことのないような親愛の気持ちがわいてくる。
友達、か。
勝手にそんなふうに思ったら、馴れ馴れしいかな。
なので一応、ルディ本人に聞いてみることにする。
「ねえ。ルディのこと、一応友達だと思ってもいい?」
「一応とはなんだ一応とは。そなたは我が友である史郎の娘なのだから、余は最初からそなたのことも友だと思っていたぞ」
当たり前のようにそう言われて、嬉しいような恥ずかしいような。なので私は、ちょっとだけ話をはぐらかした。
「そういえば、お父さんとはどういうきっかけで仲良くなったの?」
「ん? ああ、きっかけと言うほど大げさ話じゃないが、史郎が『いぎりす』でリサイタルをしていたとき、余はたまたま客としてその場にいてな。あまりにも素晴らしい演奏だったので、奏者と直接話がしたいと思い、直接控室に行って史郎と会話したのだ。それで、すっかり意気投合したというわけだ」
「よく控室に入れたね。普通は、警備の人が通してくれないでしょ?」
お父さんが、ルディと意気投合したこと自体は驚かなかった。二人ともおおらかでウマが合いそうだし、お父さんは相手が子供だからとか、突然控室に入って来て失礼だとか、そういうことを全然気にしない人だったからだ。
「ふふふ、そこはまあ、魔法を使ってちょちょいっとな」
「えぇ……。それって、魔法の悪用じゃない?」
「人聞きの悪いことを言うな。悪用というのは、魔法を用いて誰かを傷つけるか苦しめることを言うのだ。余は誰にも危害を加えず、トラブルも起こさず、スマートに史郎と話しただけだ。むしろ、魔法の有効活用と言ってほしいものだな」
「ものは言いようだなあ」
「しかし、うん……。こうして史郎と出会ったときのことを話していると、その場の情景までありありとまぶたの裏に浮かぶようだ。史郎は実にふところの深い男で、余の話を馬鹿にせず、疑ったりもせず、真剣に聞いてくれた。だから、ついつい他の者には話さぬようなことまで話してしまった」
「へえ……」
「信じられるか? 余は、初めて会った違う世界の男に対し、魔界の側近たちにすら話せなかった悩みを打ち明けてしまったのだ。……いや、そういえば、先程そなたが言っていたな。『これまでの人間関係のまったく外側にいる人の方が、気持ちを打ち明けやすい』と。あれは、確かにその通りだな」
自分でも、驚いている。ルディと出会ってから、昨日を入れてたったの二日で、こんなに自分の気持ちが前向きになるなんて。いや、正確には、今朝ルディに言われた言葉の力で、私の意識は一気にこれからの未来に対して向くようになったのだから、ふさぎ込んでいた気持ちが変わるのに、時間なんて関係ないのかもしれない。
大事なのは、きっかけ。
そのきっかけをルディが与えてくれたと思うと、この違う世界の"得体のしれない"友達に対し、これまでに感じたことのないような親愛の気持ちがわいてくる。
友達、か。
勝手にそんなふうに思ったら、馴れ馴れしいかな。
なので一応、ルディ本人に聞いてみることにする。
「ねえ。ルディのこと、一応友達だと思ってもいい?」
「一応とはなんだ一応とは。そなたは我が友である史郎の娘なのだから、余は最初からそなたのことも友だと思っていたぞ」
当たり前のようにそう言われて、嬉しいような恥ずかしいような。なので私は、ちょっとだけ話をはぐらかした。
「そういえば、お父さんとはどういうきっかけで仲良くなったの?」
「ん? ああ、きっかけと言うほど大げさ話じゃないが、史郎が『いぎりす』でリサイタルをしていたとき、余はたまたま客としてその場にいてな。あまりにも素晴らしい演奏だったので、奏者と直接話がしたいと思い、直接控室に行って史郎と会話したのだ。それで、すっかり意気投合したというわけだ」
「よく控室に入れたね。普通は、警備の人が通してくれないでしょ?」
お父さんが、ルディと意気投合したこと自体は驚かなかった。二人ともおおらかでウマが合いそうだし、お父さんは相手が子供だからとか、突然控室に入って来て失礼だとか、そういうことを全然気にしない人だったからだ。
「ふふふ、そこはまあ、魔法を使ってちょちょいっとな」
「えぇ……。それって、魔法の悪用じゃない?」
「人聞きの悪いことを言うな。悪用というのは、魔法を用いて誰かを傷つけるか苦しめることを言うのだ。余は誰にも危害を加えず、トラブルも起こさず、スマートに史郎と話しただけだ。むしろ、魔法の有効活用と言ってほしいものだな」
「ものは言いようだなあ」
「しかし、うん……。こうして史郎と出会ったときのことを話していると、その場の情景までありありとまぶたの裏に浮かぶようだ。史郎は実にふところの深い男で、余の話を馬鹿にせず、疑ったりもせず、真剣に聞いてくれた。だから、ついつい他の者には話さぬようなことまで話してしまった」
「へえ……」
「信じられるか? 余は、初めて会った違う世界の男に対し、魔界の側近たちにすら話せなかった悩みを打ち明けてしまったのだ。……いや、そういえば、先程そなたが言っていたな。『これまでの人間関係のまったく外側にいる人の方が、気持ちを打ち明けやすい』と。あれは、確かにその通りだな」
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◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
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