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第20話

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「もしかしたら、広瀬さんにとってはちょっとした悪い冗談のつもりだったのかもしれないけどね。だから、あの場で私がすぐ『全然そんなこと思ってないよ~』っておどけて言えたら、それで終わった話なのかも。千佳ちゃんっていう私の友達なら、きっと、何のトラブルにもせず、うまくその場をおさめられるんだろうな」

「しかし、その広瀬とやらの言葉には、明確なトゲを感じる。そんなことを言われて、ニコニコ笑ってやり過ごすというのも、それはそれでどうかと思うがな。だがまあ、これで話が見えてきたな。広瀬とやらがそなたを逆恨みし、やたらと突っかかって来るようになったので、吹奏楽部を休んでいるということか」

「『逆恨み』っていうのは、どうかな……。広瀬さんが私を嫌うのも、わかる気がするよ。自分の演奏の後に、技術の違いを見せつけるみたいな演奏をされたら、面白いはずないもん。自分が一生懸命努力して、他の人よりも優れてるっていう自信を持ってることなら、なおさらね」

「だから、そういうのを逆恨みと言うのだ。優れた者が実力を発揮して、未熟者がそれを妬むのはよくあることだが、浅ましいことこの上ない。未熟者は未熟者なりに、さらに修練して上達を目指すのが健全な姿だ。それなのに、あろうことか優れた者にネチネチと難癖をつけるなど、恥を知れ恥を」

「ま、まあまあ。そんなに怒らないで。……でも、うん、ルディは私のために怒ってくれてるんだよね。ありがとう、なんだか気持ちが軽くなったよ。これまでずっと誰にも言わなかったけど、やっぱり悩み事を人に話すのって、それだけでもきっと、意味があるんだね」

 本当に、随分と気分がすっきりした。悩みを話しただけで、まだ何も解決していないのに。心の中のもやもやを、ずっと一人で抱え続けるというのは、思った以上に良くないことなのかもしれない。

 私の話が一段落したところで、ルディが小さく聞いてくる。

「ひとつ聞いても良いか?」

「なに?」

「"これまでずっと誰にも言わなかった"ことを、どうして急に話す気になったのだ? それも、昨日会ったばかりの、違う世界から来たという、得体のしれない相手に」

「自分で"得体のしれない"とか言っちゃうんだ」

「少なくとも、そなたの周りの他の人間に比べれば、身元が保証されていないことは確かだからな」

「うん。でも、"だからこそ"なんだと思う」

「だからこそ?」

「ルディがこの世界の人じゃないから、逆に話しやすかったんだよ。これまでの人間関係のまったく外側にいる人の方が、『今さらになって、こんなこと言っちゃって大丈夫かな』とか、『今後のことを考えたら、やっぱり話さない方がいいかな』とか考えなくてすむから、気持ちを打ち明けやすいってこと、あると思うの」

「なるほど。確かにそうかもな」

「でも、それだけじゃないよ。ルディは今朝、言ってくれたよね。『これからどうするかはそなたの気持ち次第だが、本当に大切なものは、簡単に捨ててしまわぬようにな』って。……本当に、迷ってばかりの私の心に、突き刺さるような強い言葉だった。だけど同時に、私の道しるべになるような、温かい応援の言葉だって感じたよ」

「…………」
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