魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
上 下
17 / 63

第17話

しおりを挟む
「そうなの。……実は、うちのクラスにね、一人いるんだよ。私の話し方が気に入らないって子が。それで、何かあるごとに色々言われて、私、学校で喋るのが、あんまり楽しくなくなっちゃったんだ」

 もう言うまでもないかもしれないが、その『私の話し方が気に入らない子』とは、あの広瀬綾乃さんのことだ。少しだけ沈んだ顔になる私を見て、ルディは心の底から不思議そうに首をかしげる。

「よくわからんな。そなたのことを気に入らないという者に文句を言われて、それで何故、喋るのをやめてしまうのだ? そなたのことを気に入ってくれている者のためならともかく、最初から気に入らないという態度を取ってくる相手に合わせる必要など、まったくないだろう」

 ぐうの音も出ない正論だった。あるいは私も、広瀬さんから単純に難癖をつけられているだけなら、ルディのような考え方になったかもしれない。でも……

「まあ、そうなんだけどね。その子は単に私に嫌がらせしてるってわけでもなくて、問題は複雑っていうか、いや、本当は単純な話なのかな。私も、そろそろ今のどっちつかずな状況を変えなきゃ駄目だって思ってるんだけどね」

「どっちつかずな状況?」

「朝に言ったでしょ? フルートのことで少し前に失敗したって。それも絡んでる話なんだ。……私も広瀬さんも、同じ吹奏楽部なんだよ。私は今、休部してるけど」

 休部していなければ、当然こんなに早い時間に帰宅はできない。うちの吹奏楽部はかなり本格的で、毎日みっちり夕方の6時まで練習するから。

「そうか。だんだん話が飲み込めてきたぞ。そなたの抱える悩みとは、フルートと吹奏楽部。そして、その広瀬という娘との関係についてなのだな」

 私は頷いた。いつの間にか、私たちは自宅の前まで来ていた。





 鍵を開け、うちの中に入る。今日はお母さんは仕事でいない。私は、制服を着替えるのももどかしく、地下にある演奏室に向かった。お父さんがプロのピアニストなので、我が家には深夜でもご近所のおうちに迷惑をかけずに楽器の練習ができる、そういう部屋があるのだ。

 演奏室に行くのは久しぶりだ。地下への階段を踏みしめるうちに、広瀬さんに言われたことを自然と思い出す。

『そりゃ、あの稲葉史郎の娘だもんね、やっぱり練習環境からして特別なんだ。私たち一般市民とは全然違うね』

 そして、演奏室に入る。窓のないその部屋(地下なので当たり前だけど)の広さは15畳ほどで、中にはお父さんのグランドピアノだけでなく、ドラムセットもある。これは、お母さんが趣味で叩いているものだ。お母さんは学生時代にバンドを組んでおり、その腕前はプロ顔負けである。

 っと、今はそんな話をしている場合じゃない。私は棚から愛用のフルートを取り出し、演奏前の準備をする。しばらく使っていなかったが、演奏後は必ずお手入れをしているので、まったく問題はない。

 美しく輝くフルートに触れ、持ち、構えると、自分の体の半分がひさしぶりに戻ってきたような感覚で、心が高揚した。それから私は夢中で演奏し、気がつけば二時間近くが経過していた。練習と演奏に没頭したときに起こる、完全なる時間の忘却。本当にひさしぶりで、心地よい感覚だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クール天狗の溺愛事情

緋村燐
児童書・童話
サトリの子孫である美紗都は 中学の入学を期にあやかしの里・北妖に戻って来た。 一歳から人間の街で暮らしていたからうまく馴染めるか不安があったけれど……。 でも、素敵な出会いが待っていた。 黒い髪と同じ色の翼をもったカラス天狗。 普段クールだという彼は美紗都だけには甘くて……。 *・゜゚・*:.。..。.:*☆*:.。. .。.:*・゜゚・* 「可愛いな……」 *滝柳 風雅* 守りの力を持つカラス天狗 。.:*☆*:.。 「お前今から俺の第一嫁候補な」 *日宮 煉* 最強の火鬼 。.:*☆*:.。 「風雅の邪魔はしたくないけど、簡単に諦めたくもないなぁ」 *山里 那岐* 神の使いの白狐 \\ドキドキワクワクなあやかし現代ファンタジー!// 野いちご様 ベリーズカフェ様 魔法のiらんど様 エブリスタ様 にも掲載しています。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

1000本の薔薇と闇の薬屋

八木愛里
児童書・童話
アルファポリス第1回きずな児童書大賞奨励賞を受賞しました! イーリスは父親の寿命が約一週間と言われ、運命を変えるべく、ちまたで噂の「なんでも願いをかなえる薬」が置いてある薬屋に行くことを決意する。 その薬屋には、意地悪な店長と優しい少年がいた。 父親の薬をもらおうとしたイーリスだったが、「なんでも願いをかなえる薬」を使うと、使った本人、つまりイーリスが死んでしまうという訳ありな薬だった。 訳ありな薬しか並んでいない薬屋、通称「闇の薬屋」。 薬の瓶を割ってしまったことで、少年スレーの秘密を知り、イーリスは店番を手伝うことになってしまう。 児童文学風ダークファンタジー 5万文字程度の中編 【登場人物の紹介】 ・イーリス……13才。ドジでいつも行動が裏目に出る。可憐に見えるが心は強い。B型。 ・シヴァン……16才。通称「闇の薬屋」の店長。手段を選ばず強引なところがある。A型。 ・スレー……見た目は12才くらい。薬屋のお手伝いの少年。柔らかい雰囲気で、どこか大人びている。O型。 ・ロマニオ……17才。甘いマスクでマダムに人気。AB型。 ・フクロウのクーちゃん……無表情が普通の看板マスコット。

拳法家 ウーミンリン

モモンとパパン
児童書・童話
この作品はフィクションです。 中国の誰も寄りつかない洞窟に、拳法家 ウーミンリンは一人 必殺拳の 習得にはげんでいました。 ミンリンには、絶対に倒さなければならない相手がいました。 その名は、ベイチェンホという男でした。 はたして、ミンリンはチェンホを倒すことができたのでしょうか?

ぼくの親友

辛已奈美(かのうみなみ)
児童書・童話
夕日がおちて、空がくらくなりはじめるころ、1ぴきの小さなねずみが、しずかに目をさました。かれの名前はリュウタ。リュウタは、町のかたすみにある、古びたそうこにすんでいた。そんなリュウタは、町で1けんの、古いパンやを見つけた。そこで・・・ 小学2年生までの漢字で作っています。

ヒョイラレ

如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。 階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている! しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。 その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。 どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?

処理中です...