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第8話
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「読んで字のごとく、血のにじむような訓練をする場所だ。前に少し説明したが、入所するのは王族や武家といった魔界の貴族的な者だけで、幼少時から徹底的な英才教育を受ける」
「へぇ……」
「ほとんど休みはなく、教官は誰に対しても一律に厳しい。毎日、朝から晩まで体力訓練、知力訓練、魔力訓練をひたすら繰り返し続けるのだ。まあ、ひとことで言うと地獄だな」
「な、なんか、凄くつらそう」
「うむ。しかし、そのつらい訓練を乗り越えなければ、一人前の魔界貴族とは認められない。訓練に耐えられなかった者は、半人前の魔界貴族――略して『半貴』と呼ばれ、差別とまではいかなくても、人々から軽く見られるのは間違いない。だから皆、必死で努力するのだ」
「そんな大変な場所と比べたら、人間界の学校なんて楽すぎて拍子抜けするよ、きっと。まあそれでも、人間界の学校には人間界の学校なりの大変さもあるんだけどね」
「うむ。大変さにも色々な種類があるからな。陸の生き物と海の生き物の大変さが違うように、人間界で生きる者たちにも、余には想像もつかないような困難があるのだろう」
「ルディって、そういうところ大人っぽいよね。人の言うことを頭ごなしに否定したり、馬鹿にしたりしないし」
「当然だ。前にも言ったが今年の末で100歳になるのだからな」
「でも、魔界と人間界では時間の感覚が違うから、実質的には私と同じような年齢になるわけでしょ? つまり、まだ中学生くらいのはずなのに、言うことが凄く大人びてるなって思って」
「これでも魔界の王族だからな。人々の言葉に真摯に耳を傾け、殊更に威圧せぬのは当然のことだ」
そう言って胸を張るルディに、私は素直に感心した。
「ルディはきっと、いい王様になれるね」
本当に、素直に褒めたつもりだったのだが、ルディは何故か寂しげに笑う。
「どうかな。まだ、次の王になれると決まったわけでもないしな」
えっ?
魔界の王様の子供なのに? どうして?
そう尋ねようとしたところで、校門が近くなり、挨拶をかわす他の生徒たちの姿が多くなってきたので、なんとなく質問のタイミングを失ってしまう。
ふと気がつくと、他の生徒たちの大多数が、こっち――というかルディを見て何やら囁き合っている。まあ、それも当然か。ルディは明らかに外国人の風貌で、制服も着ていない。そんな彼が、制服を着た私と並んで学校に入ろうとしているのだから、皆の興味を引くのは自然なことである。
ルディもそれに気づき、首をかしげて私に言う。
「ずいぶんと注目されているな。やはり、訓練所用の制服を着ていないと目立つか」
「そうだね。少し気まずいけど、転校して来たばかりの子とかは、ちょっとの間だけ、前の学校の制服や私服で登校することもあるから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ」
「いや、大人数が共に訓練する場所において、制服は大事だ。統率が乱れるからな。……ふむ、あれが男子の制服か。よし、覚えたぞ。加奈、悪いがちょっと待っててくれ」
「へぇ……」
「ほとんど休みはなく、教官は誰に対しても一律に厳しい。毎日、朝から晩まで体力訓練、知力訓練、魔力訓練をひたすら繰り返し続けるのだ。まあ、ひとことで言うと地獄だな」
「な、なんか、凄くつらそう」
「うむ。しかし、そのつらい訓練を乗り越えなければ、一人前の魔界貴族とは認められない。訓練に耐えられなかった者は、半人前の魔界貴族――略して『半貴』と呼ばれ、差別とまではいかなくても、人々から軽く見られるのは間違いない。だから皆、必死で努力するのだ」
「そんな大変な場所と比べたら、人間界の学校なんて楽すぎて拍子抜けするよ、きっと。まあそれでも、人間界の学校には人間界の学校なりの大変さもあるんだけどね」
「うむ。大変さにも色々な種類があるからな。陸の生き物と海の生き物の大変さが違うように、人間界で生きる者たちにも、余には想像もつかないような困難があるのだろう」
「ルディって、そういうところ大人っぽいよね。人の言うことを頭ごなしに否定したり、馬鹿にしたりしないし」
「当然だ。前にも言ったが今年の末で100歳になるのだからな」
「でも、魔界と人間界では時間の感覚が違うから、実質的には私と同じような年齢になるわけでしょ? つまり、まだ中学生くらいのはずなのに、言うことが凄く大人びてるなって思って」
「これでも魔界の王族だからな。人々の言葉に真摯に耳を傾け、殊更に威圧せぬのは当然のことだ」
そう言って胸を張るルディに、私は素直に感心した。
「ルディはきっと、いい王様になれるね」
本当に、素直に褒めたつもりだったのだが、ルディは何故か寂しげに笑う。
「どうかな。まだ、次の王になれると決まったわけでもないしな」
えっ?
魔界の王様の子供なのに? どうして?
そう尋ねようとしたところで、校門が近くなり、挨拶をかわす他の生徒たちの姿が多くなってきたので、なんとなく質問のタイミングを失ってしまう。
ふと気がつくと、他の生徒たちの大多数が、こっち――というかルディを見て何やら囁き合っている。まあ、それも当然か。ルディは明らかに外国人の風貌で、制服も着ていない。そんな彼が、制服を着た私と並んで学校に入ろうとしているのだから、皆の興味を引くのは自然なことである。
ルディもそれに気づき、首をかしげて私に言う。
「ずいぶんと注目されているな。やはり、訓練所用の制服を着ていないと目立つか」
「そうだね。少し気まずいけど、転校して来たばかりの子とかは、ちょっとの間だけ、前の学校の制服や私服で登校することもあるから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ」
「いや、大人数が共に訓練する場所において、制服は大事だ。統率が乱れるからな。……ふむ、あれが男子の制服か。よし、覚えたぞ。加奈、悪いがちょっと待っててくれ」
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