魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ

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第6話

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「よいよい。よくよく考えてみれば、人間界にいる以上、人間界の慣習に従うべきだ。これからは余も、知らぬ仲ではない者は名のみで呼ぶことにしよう」

「さっき、お父さんのことをおおらかって言ってたけど、あなたもおおらかね」

「だから史郎とは気が合うのだ。さて、どうやらそなたは、史郎が思うほど心配しなければならない状況ではないようだし、これ以上ここに滞在する意味もないかもな」

「滞在する意味もないって……出てくってこと?」

「ああ。この国は気候も良いし安全で、どこでも寝られるから楽だ。人目につくところで寝ていると、大人がやって来てあれこれ聞かれるのが困りものだが」

 私は、ルディがうちの前で寝ていたことを思い出した。魔界の王子様が野宿に慣れているのはちょっと面白かったが、同時に、なんとなくかわいそうだとも思った。だから、素直な気持ちで彼を引き留める。

「外で寝るくらいなら、しばらくうちにいなよ。えっと、なんだっけ? 『心浸透の術』を使ったとはいえ、お母さんも納得してるわけだし」

「いいのか? そなたの態度から察するに、あまり歓迎されていないと思っていたのだが」

「正直、最初はね。でも話してるうちに、あなたがおおらかで、こっちの気持ちをちゃんと考えてくれる人だってわかったから。それに、お父さんの友達で、私のためにわざわざ来てくれたのに、『もう用はない』って放り出すのは人としてどうかと思うし」

「左様か。大義である」

 また時代劇みたいな言葉を使われ、私は首を傾げた。

「それ、どういう意味?」

「わからぬのか?」

「なんとなくはわかるけど、私たちの日常生活じゃ、まず使わない言葉だから、この際しっかり勉強しておこうかなって思って」

「左様か。うーむ、そうだな。より分かりやすく言うなら、『そうか。苦労をかけるな』といった感じになるだろうな」

「ふぅん。ありがと、ひとつ賢くなったよ」

「うむ。くるしゅうない」

 くるしゅうないも、普段の生活でまず使うことのない言葉なので、詳しく意味を知りたかったけど、あんまり聞くとしつこいので、そっと質問を飲み込む。

 それにしても『左様』『大義である』『くるしゅうない』みたいな、お殿様が使うような言葉が自然に出てくるのは、やっぱりルディが魔界の王子様だからなのかな。

 そこで、ふと不思議に思う。魔界の王子様が、どうしてわざわざ人間界に来ているのだろう。普段は野宿しているみたいだし、単に旅行や遊びに来ているのとは違う気がする(旅行なら、いくらなんでも王子様が野宿をしたりはしないだろう)。それに、お供をする人が一人もいないのも気になる。

 思い切って理由を尋ねてみようかとも思ったけど、さっきから質問ばっかりだったし、何より、話が一応まとまったことで、ルディの視線がテレビに戻ってしまったので、私もこの辺りで会話を切り上げることにした。

 こうして、ルディとの不思議な共同生活が始まったのである。
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