4 / 63
第4話
しおりを挟む
真剣な私とは真逆に、ルディはあっけらかんとした様子で言う。
「稲葉史郎は、娘の稲葉加奈が何かに悩み、以前の明るさをなくしているが、その理由を話してくれないと言っていたぞ。仕事で海外に行ってばかりで信頼されなくなったのか、娘に悩みも打ち明けてもらえないほど疎遠になってしまったのかもしれないと嘆いてもいたな」
「べ、別に、お父さんのことを信頼してないわけじゃないよ。でも、親子だからって、なんでも打ち明けられるものじゃないでしょ」
「まあ、それもそうだな」
「それより、お父さんが私を心配してるからって、なんであなたがうちに来るわけ?」
「話せば長くなるが、長い話は正直面倒だな」
「えぇ……」
「よし、要点だけを話そう。魔界から人間界に来ていた余は、ちょっとしたきっかけで稲葉史郎と仲良くなり、悩みを相談し合う友となった。そして今、稲葉史郎の頼みで、そなたの抱える苦しみを取り除くためにここに来たというわけだ。ふふふ、どうだ? 簡潔でわかりやすい良い説明だろう。自分で言うのもなんだが」
本当に、自分で言っちゃうのはどうかと思うけど、確かに簡潔でわかりやすい説明ではあった。でも……
「理屈は分かったけど、お母さんはその説明で納得したの? 普通、魔界がどうとか人間界がどうとか言われて、大人は『はい、そうですか』って、すんなり受け入れたりしないと思うんだけど。いや、子供だってそう素直には受け入れられないけどさ」
「うむ。そなたの言うとおりだ。懇切丁寧に説明したのだが、稲葉美咲の反応は『は?』という感じだった。それでも一応、稲葉史郎に連絡を取って確認しようとしていたが、あやつは『すまほ』も『ぱそこん』も嫌いで、持ち歩いていないからな。連絡が取れず、ますます疑わしい目で見られて、余はちょっと傷ついたぞ」
「で、どうなったの?」
「最後の手段として、魔法を使った。余の言っていることを素直に信じさせる『心浸透の術』だ。それで稲葉美咲はすべてを受け入れたというわけだ」
「言っていることを素直に信じさせる魔法って……もしかして洗脳!?」
「人聞きの悪いことを申すな。『心浸透の術』は強引な洗脳とは違う。理解しがたいことを理解する助けとなる魔法だ。術の対象者が、本気で拒絶していたら術にかかることはない。稲葉美咲は余を疑いつつも、余が稲葉史郎の名を出し、そなたのために来たと言っていたことから、心の底では余を信じたかったのだろう」
そこで私は、今朝感じた『頭の中のスイッチがじわじわと切り替えられるような変な感覚』を思い出していた。そして、これ以上ないほどの疑いの眼差しで、ルディに問いかける。
「……ねえ。その『心浸透の術』、もしかして私にも使った?」
「それよりも、この『てれびどらま』は面白いな。ははは」
「話をそらさないで!」
「正直に言っても、怒らぬか?」
「私にも洗脳みたいな術を使ってたなら怒る」
「だから、洗脳ではないと言っているではないか。これだから人間界の者は魔法に対する理解が迷信じみていて困る。一度の説明ですべてを理解したのは純真で柔軟な思考を持つ稲葉史郎くらいだ」
「で、使ったの? 使ってないの?」
「稲葉史郎は、娘の稲葉加奈が何かに悩み、以前の明るさをなくしているが、その理由を話してくれないと言っていたぞ。仕事で海外に行ってばかりで信頼されなくなったのか、娘に悩みも打ち明けてもらえないほど疎遠になってしまったのかもしれないと嘆いてもいたな」
「べ、別に、お父さんのことを信頼してないわけじゃないよ。でも、親子だからって、なんでも打ち明けられるものじゃないでしょ」
「まあ、それもそうだな」
「それより、お父さんが私を心配してるからって、なんであなたがうちに来るわけ?」
「話せば長くなるが、長い話は正直面倒だな」
「えぇ……」
「よし、要点だけを話そう。魔界から人間界に来ていた余は、ちょっとしたきっかけで稲葉史郎と仲良くなり、悩みを相談し合う友となった。そして今、稲葉史郎の頼みで、そなたの抱える苦しみを取り除くためにここに来たというわけだ。ふふふ、どうだ? 簡潔でわかりやすい良い説明だろう。自分で言うのもなんだが」
本当に、自分で言っちゃうのはどうかと思うけど、確かに簡潔でわかりやすい説明ではあった。でも……
「理屈は分かったけど、お母さんはその説明で納得したの? 普通、魔界がどうとか人間界がどうとか言われて、大人は『はい、そうですか』って、すんなり受け入れたりしないと思うんだけど。いや、子供だってそう素直には受け入れられないけどさ」
「うむ。そなたの言うとおりだ。懇切丁寧に説明したのだが、稲葉美咲の反応は『は?』という感じだった。それでも一応、稲葉史郎に連絡を取って確認しようとしていたが、あやつは『すまほ』も『ぱそこん』も嫌いで、持ち歩いていないからな。連絡が取れず、ますます疑わしい目で見られて、余はちょっと傷ついたぞ」
「で、どうなったの?」
「最後の手段として、魔法を使った。余の言っていることを素直に信じさせる『心浸透の術』だ。それで稲葉美咲はすべてを受け入れたというわけだ」
「言っていることを素直に信じさせる魔法って……もしかして洗脳!?」
「人聞きの悪いことを申すな。『心浸透の術』は強引な洗脳とは違う。理解しがたいことを理解する助けとなる魔法だ。術の対象者が、本気で拒絶していたら術にかかることはない。稲葉美咲は余を疑いつつも、余が稲葉史郎の名を出し、そなたのために来たと言っていたことから、心の底では余を信じたかったのだろう」
そこで私は、今朝感じた『頭の中のスイッチがじわじわと切り替えられるような変な感覚』を思い出していた。そして、これ以上ないほどの疑いの眼差しで、ルディに問いかける。
「……ねえ。その『心浸透の術』、もしかして私にも使った?」
「それよりも、この『てれびどらま』は面白いな。ははは」
「話をそらさないで!」
「正直に言っても、怒らぬか?」
「私にも洗脳みたいな術を使ってたなら怒る」
「だから、洗脳ではないと言っているではないか。これだから人間界の者は魔法に対する理解が迷信じみていて困る。一度の説明ですべてを理解したのは純真で柔軟な思考を持つ稲葉史郎くらいだ」
「で、使ったの? 使ってないの?」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
クール天狗の溺愛事情
緋村燐
児童書・童話
サトリの子孫である美紗都は
中学の入学を期にあやかしの里・北妖に戻って来た。
一歳から人間の街で暮らしていたからうまく馴染めるか不安があったけれど……。
でも、素敵な出会いが待っていた。
黒い髪と同じ色の翼をもったカラス天狗。
普段クールだという彼は美紗都だけには甘くて……。
*・゜゚・*:.。..。.:*☆*:.。. .。.:*・゜゚・*
「可愛いな……」
*滝柳 風雅*
守りの力を持つカラス天狗
。.:*☆*:.。
「お前今から俺の第一嫁候補な」
*日宮 煉*
最強の火鬼
。.:*☆*:.。
「風雅の邪魔はしたくないけど、簡単に諦めたくもないなぁ」
*山里 那岐*
神の使いの白狐
\\ドキドキワクワクなあやかし現代ファンタジー!//
野いちご様
ベリーズカフェ様
魔法のiらんど様
エブリスタ様
にも掲載しています。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
1000本の薔薇と闇の薬屋
八木愛里
児童書・童話
アルファポリス第1回きずな児童書大賞奨励賞を受賞しました!
イーリスは父親の寿命が約一週間と言われ、運命を変えるべく、ちまたで噂の「なんでも願いをかなえる薬」が置いてある薬屋に行くことを決意する。
その薬屋には、意地悪な店長と優しい少年がいた。
父親の薬をもらおうとしたイーリスだったが、「なんでも願いをかなえる薬」を使うと、使った本人、つまりイーリスが死んでしまうという訳ありな薬だった。
訳ありな薬しか並んでいない薬屋、通称「闇の薬屋」。
薬の瓶を割ってしまったことで、少年スレーの秘密を知り、イーリスは店番を手伝うことになってしまう。
児童文学風ダークファンタジー
5万文字程度の中編
【登場人物の紹介】
・イーリス……13才。ドジでいつも行動が裏目に出る。可憐に見えるが心は強い。B型。
・シヴァン……16才。通称「闇の薬屋」の店長。手段を選ばず強引なところがある。A型。
・スレー……見た目は12才くらい。薬屋のお手伝いの少年。柔らかい雰囲気で、どこか大人びている。O型。
・ロマニオ……17才。甘いマスクでマダムに人気。AB型。
・フクロウのクーちゃん……無表情が普通の看板マスコット。

拳法家 ウーミンリン
モモンとパパン
児童書・童話
この作品はフィクションです。
中国の誰も寄りつかない洞窟に、拳法家 ウーミンリンは一人 必殺拳の
習得にはげんでいました。
ミンリンには、絶対に倒さなければならない相手がいました。
その名は、ベイチェンホという男でした。
はたして、ミンリンはチェンホを倒すことができたのでしょうか?

ぼくの親友
辛已奈美(かのうみなみ)
児童書・童話
夕日がおちて、空がくらくなりはじめるころ、1ぴきの小さなねずみが、しずかに目をさました。かれの名前はリュウタ。リュウタは、町のかたすみにある、古びたそうこにすんでいた。そんなリュウタは、町で1けんの、古いパンやを見つけた。そこで・・・
小学2年生までの漢字で作っています。
ヒョイラレ
如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。
階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている!
しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。
その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。
どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる