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第3話
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気になって、いつもより速足でうちに帰り、玄関ドアに手をかける。……鍵がかかってない。きっと、お母さんが中にいるのだろう。前日の仕事が遅くまでかかった次の日はうちにいることが多いから、これは別におかしなことじゃない。
でも私は、なんだか妙な違和感を覚えて、ドアを開けられずにいた。すると、中からドアが開けられ、お母さんが顔を出す。
「加奈、ドアの前で何やってるの? 帰って来たなら早く入ればいいのに」
そう言って、郵便受けに入っていた封筒を手に取ると、お母さんはドアを開けたままうちの中に戻っていった。……なんてことない、いつも通りの光景。特に変わった様子はない。ルディはもうここにはいないのかな。そう思うと、今朝あったことが、全部夢だったように思えてくる。
そんなことを考えながら家に入り、自分の部屋で制服から私服に着替えてリビングに行ってぎょっとした。……あのルディが、ソファでくつろぎながらテレビを見ていたからだ。やっぱり今朝のことは、現実に起こったことらしい。
ルディは私の姿を確認すると、人なつっこい笑みを浮かべて言う。
「おお、稲葉加奈、帰ったか。訓練所での修練、ご苦労である」
聞きなれない言葉に、私は思わず聞き返していた。
「訓練所? 修練?」
「この世界の子供は皆、毎日訓練所に行き、生きる方法を学ぶ修練をするのだろう? 魔界人の余でもそれくらいは知っている。なかなか勤勉で立派なことだ。魔界にも訓練所はあるが、入所するのは王族や武家の子供だけで、一般の子供たちは、まず行くことはないからな」
「訓練所っていうか……学校ね。生きる方法を学んでるっていうのは、当たってるようなそうでもないような……。数学や歴史の知識が、即生きることに繋がるわけでもないし……」
「そうでもないぞ。計算能力を高めることは頭の回転を上げることに直結するし、古代の英雄たちの生き様から学ぶことは非常に多い」
「うーん、まあ、そうかもね。……って、なんか普通に会話して馴染んじゃってるけど、あなた、なんでうちのリビングでくつろいでるの? お母さんも、特にあなたのことを気にしてないみたいだし」
「稲葉美咲にはもう話を通してある。余は、わが友である稲葉史郎との約定により、しばらくこの家で世話になることになったのだ」
「約定って……約束したってことだよね。お父さんが、あなたみたいな子供と約束して、うちに住まわせてあげるようにしたなんて、ちょっと信じられないけど……」
「子供のくせに、うたぐり深いのだな。純真な稲葉史郎とは正反対だ。なるほど、奴の危惧も頷ける。そなた、このままではひねくれた大人になってしまうぞ」
余計なお世話ですと言いたいところだが、それ以上に今、ルディが言ったことが気にかかった。『奴の危惧』だなんて難しい言葉を使うから、一瞬理解が遅れたけど、その意味を簡単に言うなら『お父さんが私のことを心配している』ということだ。
私は真顔でルディに聞く。
「お父さんが、私を心配してるってこと? どうして?」
でも私は、なんだか妙な違和感を覚えて、ドアを開けられずにいた。すると、中からドアが開けられ、お母さんが顔を出す。
「加奈、ドアの前で何やってるの? 帰って来たなら早く入ればいいのに」
そう言って、郵便受けに入っていた封筒を手に取ると、お母さんはドアを開けたままうちの中に戻っていった。……なんてことない、いつも通りの光景。特に変わった様子はない。ルディはもうここにはいないのかな。そう思うと、今朝あったことが、全部夢だったように思えてくる。
そんなことを考えながら家に入り、自分の部屋で制服から私服に着替えてリビングに行ってぎょっとした。……あのルディが、ソファでくつろぎながらテレビを見ていたからだ。やっぱり今朝のことは、現実に起こったことらしい。
ルディは私の姿を確認すると、人なつっこい笑みを浮かべて言う。
「おお、稲葉加奈、帰ったか。訓練所での修練、ご苦労である」
聞きなれない言葉に、私は思わず聞き返していた。
「訓練所? 修練?」
「この世界の子供は皆、毎日訓練所に行き、生きる方法を学ぶ修練をするのだろう? 魔界人の余でもそれくらいは知っている。なかなか勤勉で立派なことだ。魔界にも訓練所はあるが、入所するのは王族や武家の子供だけで、一般の子供たちは、まず行くことはないからな」
「訓練所っていうか……学校ね。生きる方法を学んでるっていうのは、当たってるようなそうでもないような……。数学や歴史の知識が、即生きることに繋がるわけでもないし……」
「そうでもないぞ。計算能力を高めることは頭の回転を上げることに直結するし、古代の英雄たちの生き様から学ぶことは非常に多い」
「うーん、まあ、そうかもね。……って、なんか普通に会話して馴染んじゃってるけど、あなた、なんでうちのリビングでくつろいでるの? お母さんも、特にあなたのことを気にしてないみたいだし」
「稲葉美咲にはもう話を通してある。余は、わが友である稲葉史郎との約定により、しばらくこの家で世話になることになったのだ」
「約定って……約束したってことだよね。お父さんが、あなたみたいな子供と約束して、うちに住まわせてあげるようにしたなんて、ちょっと信じられないけど……」
「子供のくせに、うたぐり深いのだな。純真な稲葉史郎とは正反対だ。なるほど、奴の危惧も頷ける。そなた、このままではひねくれた大人になってしまうぞ」
余計なお世話ですと言いたいところだが、それ以上に今、ルディが言ったことが気にかかった。『奴の危惧』だなんて難しい言葉を使うから、一瞬理解が遅れたけど、その意味を簡単に言うなら『お父さんが私のことを心配している』ということだ。
私は真顔でルディに聞く。
「お父さんが、私を心配してるってこと? どうして?」
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