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第2話

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「なんだ、稲葉史郎から余のことを聞いておらんのか。あいつめ、家族に伝えておくと言っていたのに。まったく、のんびりしている奴だ」

 こんな子供(私と同年代だけど)にお父さんのことを『あいつ』呼ばわりされて、さすがの私もムッとする。だから敬語をやめて、ちょっと強気に言った。

「ねえ、さっきから思ってたんだけど、そんなに親しくもない大人の人を呼び捨てにして、『あいつ』とか『奴』とか言うのって、あんまり良くないんじゃない?」

「何を言う。稲葉史郎と余は友人で、親しい仲だ。それに、余の方が奴より三倍は年上だぞ」

 この言葉で、私はますますムッとした。からかわれてると思ったからだ。だから、ちょっと攻撃的に言葉を返してしまう。

「ふーん。33歳のお父さんの三倍年上ってことは、あなた、100歳近いことになるよね。どう見ても、私と同じくらいの年齢にしか見えないけど」

「ああ。今年の末でちょうど100歳になる。もっとも、余の世界とこの世界では時間の感覚が違うからな。実質の年齢はそなたと同じくらいだろう」

 よくもまあ、ファンタジーの物語のような作り話をペラペラと口に出せるものだ。この子には、小説家か詐欺師の才能があるかもしれない。そんなふうに、半分呆れて半分感心する私だったが、一瞬でこれ以上反論する気をなくしてしまった。

 どうしてかって?

 彼の言っていることは、きっと本当なんだって思ってしまったから。

 そう思った理由は、二つある。

 一つは、彼の周囲の空気が、グニャグニャと歪んでいるのを見たからだ。夏の暑い日に、景色が歪んで見えることがあるけど、あれを100倍すごくしたような感じで、今、こうして喋っている彼が、普通の人間ではないとわからせる、言葉以上の説得力があった。

 もう一つの理由は、話しているうちに、なんだか彼の言っていることを疑うのがおかしなことのように思えてきたのだ。それは、頭の中のスイッチをじわじわと切り替えられるような変な感覚だったけど、数秒のうちに、今感じていることを変な感覚だと思うことすらおかしなことのように思えてきて、私は黙るしかなかった。

 反論をやめた私を見て、少年は満足げに頷いて立ち上がった。いつの間にか寝袋が消えていて変だと思ったが、これまた数秒のうちに、それが普通のことであるように私は思っていた。

「そういえば、まだ余の名を言っていなかったな。余はルディ・クーランド。現在魔界を統治している魔王ヴァーゲンの息子で、第一の王位継承候補である」

 はあ。そうですか。

 私は疑いなく、彼――ルディの言うことを受け入れていた。





 その後、私はいつも通りに学校に行き、いつも通りに授業を受け、今、いつも通りに帰り道を歩いている。そこで、急に正気に戻った。

(いやいやいやいや、ちょっと待って! 魔王の息子とか、絶対おかしいって!)

 ルディは今でも、うちにいるのだろうか? 別れた記憶すら曖昧だから、彼が今どうしているのか、まったくわからない。普通に考えるなら、ルディは玄関が開くのを待ってたみたいだから、きっとうちに何か用があるんだろうけど……。
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