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第18話
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しみじみとそう語るルフレンスの言葉に口を挟んだりせず、話の終わりまで静かに耳を傾けていた私だったが、自分の担当していたお皿を洗い終わったこともあり、ルフレンスの方を向いて、ゆっくりと唇を開く。
「『誰か』と一緒に……か。それって、トラウゼンの外から来た女の人なら、私以外の『誰か』でも良かった?」
言ってから、『いったいぜんたい、私は何を言っているんだろう』と思う。
……いや、いったいぜんたいも何もない。私は、ルフレンスが『誰か』『誰か』と連呼したのが、少々気に入らなかったのだ。『誰か』なんて抽象的な言い方をせず、『あなたとの生活が幸せで、あなたが大切だ』と、ハッキリ口にしてほしかった。
だって私にとっては、ルフレンスと二人っきりの共同生活が、幸せで、楽しくて、仕方なかったから。……だから、彼にも、『誰か』ではなく、『私との』共同生活だから楽しいって、思っていてほしかった。
そんな私の内心を悟ったのか、ルフレンスは瞳を逸らし、しばし黙り込む。
やがて彼は、意を決したように私の肩に手を置き、美しい唇を開いた。
「申し訳ありません、リーリエル様。隣にあなたがいるのに、『誰か』『誰か』と、失礼な言い方をしてしまいましたね。……それは、照れのせいです。恥ずかしながら、私は恋愛経験に乏しく、好きな人に、純粋に好意を口にするのが、どうにも照れくさくて……」
私は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、今ルフレンスが言ったことを頭の中で反芻する。
数秒ほど経ってから、私はあえて冗談めかして、尋ねた。
「それって、私のこと、好きだと思ってくれてると解釈していいのかしら?」
ルフレンスは本当に照れくさそうな顔で、はにかむ。
「そんなふうに問い詰められると、ますます恥ずかしいのですが……」
「そうね、ごめんなさい。じゃあ、もうおしゃべりはここまでにしましょう」
宣言通り、私たちはもう何もしゃべらなかった。
ただ静かに顔を寄せ、口づけをする。
これまでの生活で、ルフレンスが私に好意を持っていることは分かっていた。そして、私もルフレンスに好意を向け、彼が、それを受け入れていることも、分かっていた。
「『誰か』と一緒に……か。それって、トラウゼンの外から来た女の人なら、私以外の『誰か』でも良かった?」
言ってから、『いったいぜんたい、私は何を言っているんだろう』と思う。
……いや、いったいぜんたいも何もない。私は、ルフレンスが『誰か』『誰か』と連呼したのが、少々気に入らなかったのだ。『誰か』なんて抽象的な言い方をせず、『あなたとの生活が幸せで、あなたが大切だ』と、ハッキリ口にしてほしかった。
だって私にとっては、ルフレンスと二人っきりの共同生活が、幸せで、楽しくて、仕方なかったから。……だから、彼にも、『誰か』ではなく、『私との』共同生活だから楽しいって、思っていてほしかった。
そんな私の内心を悟ったのか、ルフレンスは瞳を逸らし、しばし黙り込む。
やがて彼は、意を決したように私の肩に手を置き、美しい唇を開いた。
「申し訳ありません、リーリエル様。隣にあなたがいるのに、『誰か』『誰か』と、失礼な言い方をしてしまいましたね。……それは、照れのせいです。恥ずかしながら、私は恋愛経験に乏しく、好きな人に、純粋に好意を口にするのが、どうにも照れくさくて……」
私は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、今ルフレンスが言ったことを頭の中で反芻する。
数秒ほど経ってから、私はあえて冗談めかして、尋ねた。
「それって、私のこと、好きだと思ってくれてると解釈していいのかしら?」
ルフレンスは本当に照れくさそうな顔で、はにかむ。
「そんなふうに問い詰められると、ますます恥ずかしいのですが……」
「そうね、ごめんなさい。じゃあ、もうおしゃべりはここまでにしましょう」
宣言通り、私たちはもう何もしゃべらなかった。
ただ静かに顔を寄せ、口づけをする。
これまでの生活で、ルフレンスが私に好意を持っていることは分かっていた。そして、私もルフレンスに好意を向け、彼が、それを受け入れていることも、分かっていた。
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