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第13話
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ルフレンスは驚き、しばし私の右手の甲を眺めてから、口を開く。
「手続き上のミス……でしょうか。いや、あるいは……」
そして、しばらく黙った後、私に向き直り、言葉を続ける。
「リーリエル様、この、私の手にある『呪いの刻印』は、流刑地トラウゼンから罪人が逃げ出さないようにする、束縛の呪いです。この刻印がある者がトラウゼンを離れると、たちまちのうちに心臓が潰れ、死んでしまうんです」
「束縛の呪い……」
「だから誰も、逃げ出さない。……しかし、あなたにはその『呪いの刻印』がない。それはつまり、あなたは自分の意思で、どこにでも行くことができるということです。リーリエル様、すぐにでもこのトラウゼンを出て、どこか別の国に行くことをお勧めします。ここは、あなたのように高貴な方が暮らすところではありません」
「そう言われてもねぇ。別に、行きたいところなんてないし、ここに来るまでに半日も馬車の中に閉じ込められて疲れたから、少なくともしばらくの間は、どこかに腰を落ち着けてゆっくりしたいわ」
「そうですか……では、このテントを住居代わりに使ってください。幸い部屋は空いていますから、そこでゆっくりと、これからのことを考えるのも良いかもしれません」
「いいの? わぁ、嬉しいわ。このテントなら、他のテントよりずっと快適に過ごせそうだし、できれば泊めてもらいたいって思ってたのよね。ルフレンスさん、あなたって親切ね」
きゃっきゃとはしゃぐ私に対し、ルフレンスは恐縮したように軽く頭を下げた。
「ところで、リーリエル様、先程から気になっていたのですが、私に対して『さん』づけをする必要はありませんよ。私のような罪人が、王族であるあなたにそんなふうに呼ばれると、どうにもこそばゆくてなりません」
「あら、濡れ衣だけど、私も罪人なんだから立場は同じでしょ? そんなこと気にしなくていいのに。……でも、そうね。『ルフレンスさん』なんて他人行儀な呼び方より、もっと親しみを込めた方が仲良くなれそうな気がするし、昔のお姉様みたいに、私もあなたのこと、『ルー』って呼んじゃダメかしら?」
「リーリエル様がそう呼びたいのでしたら、どうぞ、ご自由に……」
「やった。そうだ、ルーも私のこと、『様』づけで呼ぶのをやめてよ。あなた、この辺りの顔役なんでしょ? そんな人に『様』づけで呼ばれたら、私の方こそ、こそばゆくなっちゃうわ」
「いえ、いくらなんでも、それはちょっと……」
「そう? じゃあせめて、『リーリエルさん』って呼んでくれない?」
「それもちょっと……」
「駄目かぁ。あなたって真面目なのね」
「手続き上のミス……でしょうか。いや、あるいは……」
そして、しばらく黙った後、私に向き直り、言葉を続ける。
「リーリエル様、この、私の手にある『呪いの刻印』は、流刑地トラウゼンから罪人が逃げ出さないようにする、束縛の呪いです。この刻印がある者がトラウゼンを離れると、たちまちのうちに心臓が潰れ、死んでしまうんです」
「束縛の呪い……」
「だから誰も、逃げ出さない。……しかし、あなたにはその『呪いの刻印』がない。それはつまり、あなたは自分の意思で、どこにでも行くことができるということです。リーリエル様、すぐにでもこのトラウゼンを出て、どこか別の国に行くことをお勧めします。ここは、あなたのように高貴な方が暮らすところではありません」
「そう言われてもねぇ。別に、行きたいところなんてないし、ここに来るまでに半日も馬車の中に閉じ込められて疲れたから、少なくともしばらくの間は、どこかに腰を落ち着けてゆっくりしたいわ」
「そうですか……では、このテントを住居代わりに使ってください。幸い部屋は空いていますから、そこでゆっくりと、これからのことを考えるのも良いかもしれません」
「いいの? わぁ、嬉しいわ。このテントなら、他のテントよりずっと快適に過ごせそうだし、できれば泊めてもらいたいって思ってたのよね。ルフレンスさん、あなたって親切ね」
きゃっきゃとはしゃぐ私に対し、ルフレンスは恐縮したように軽く頭を下げた。
「ところで、リーリエル様、先程から気になっていたのですが、私に対して『さん』づけをする必要はありませんよ。私のような罪人が、王族であるあなたにそんなふうに呼ばれると、どうにもこそばゆくてなりません」
「あら、濡れ衣だけど、私も罪人なんだから立場は同じでしょ? そんなこと気にしなくていいのに。……でも、そうね。『ルフレンスさん』なんて他人行儀な呼び方より、もっと親しみを込めた方が仲良くなれそうな気がするし、昔のお姉様みたいに、私もあなたのこと、『ルー』って呼んじゃダメかしら?」
「リーリエル様がそう呼びたいのでしたら、どうぞ、ご自由に……」
「やった。そうだ、ルーも私のこと、『様』づけで呼ぶのをやめてよ。あなた、この辺りの顔役なんでしょ? そんな人に『様』づけで呼ばれたら、私の方こそ、こそばゆくなっちゃうわ」
「いえ、いくらなんでも、それはちょっと……」
「そう? じゃあせめて、『リーリエルさん』って呼んでくれない?」
「それもちょっと……」
「駄目かぁ。あなたって真面目なのね」
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