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第9話
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これは……
まさか……
私は、思考をまとめることもなく、いつの間にか声に出して、ルフレンスに問いかけていた。
「ルフレンスさん、もしかしてあなた、ランセリアお姉様と仲良しだった、あの『ルー』なの?」
ルフレンスは、私の記憶の中にある『ルー』のように穏やかに微笑み、答える。
「私のこと、覚えていたのですね。あなたとは、ほとんどまともに言葉を交わしたことなどないのに……」
やっぱり、このルフレンスが、あの『ルー』だったのか。
私は、驚きと納得が入り混じった、やや上ずった声をあげる。
「あなた、男の人だったのね。子供の頃は、女の子にしか見えなかったわ」
まあ、これほどの美青年だ。
小さなころなら、女の子と見間違えてしまうのも、無理はないか。
ルフレンスは、どこか照れくさそうな顔で、言葉を紡いでいく。
「ええ、子供の頃は、本当によく女の子に間違われましたよ。セリアも私のことを、最初は女の子だと思っていたようですし」
「あら、今だってきっと、女装したら、とんでもない美人になるわよ」
「ご冗談を」
そう言って微笑み合ううちに、私はあの『ルー』が何故トラウゼンにいるのか不思議でたまらなくなり、素直に問いかけることにした。
「ねえ、ルフレンスさん。あなたには聞きたいことがたくさんあるけど、とりあえず、一番知りたいのは、何故あなたがトラウゼンにいるかってことだわ。……私、『ルー』がどういう身分の子なのか、まったく知らなかったけど、王宮に出入りすることを許されていたくらいだから、高貴な身分なのよね? そんなあなたが、どうして……」
そこでルフレンスは、小さくため息を漏らした。
それはまるで、私の話を遮るかのような、重たい吐息だった。
「リーリエル様、立ち話もなんですから、続きは私の部屋で、座って話しましょう。……ノブ、コラ、リーリエル様をここまで連れて来てくれて、ありがとうございました。あなたたちはもう、下がってもらってもかまいませんよ」
ルフレンスはそう言いながら、コラの頭をくしゃくしゃと撫でた。コラは大喜びし、そのままテントを出て行く。ノブはルフレンスに一礼し、それから私の顔をちらりと見て何か言おうとしたが、ルフレンスと私の話の邪魔をしてはいけないと思い直したのか、結局は言葉を飲み込み、コラの後を追うようにテントを出て行った。
そして私は、ルフレンスに案内され、彼の私室に移動した。
私室――と言っても、当然テントの中だから、それほどの広さはない。なので必然的に、私たちの距離は縮まり、私は少しだけ緊張してしまう。
まさか……
私は、思考をまとめることもなく、いつの間にか声に出して、ルフレンスに問いかけていた。
「ルフレンスさん、もしかしてあなた、ランセリアお姉様と仲良しだった、あの『ルー』なの?」
ルフレンスは、私の記憶の中にある『ルー』のように穏やかに微笑み、答える。
「私のこと、覚えていたのですね。あなたとは、ほとんどまともに言葉を交わしたことなどないのに……」
やっぱり、このルフレンスが、あの『ルー』だったのか。
私は、驚きと納得が入り混じった、やや上ずった声をあげる。
「あなた、男の人だったのね。子供の頃は、女の子にしか見えなかったわ」
まあ、これほどの美青年だ。
小さなころなら、女の子と見間違えてしまうのも、無理はないか。
ルフレンスは、どこか照れくさそうな顔で、言葉を紡いでいく。
「ええ、子供の頃は、本当によく女の子に間違われましたよ。セリアも私のことを、最初は女の子だと思っていたようですし」
「あら、今だってきっと、女装したら、とんでもない美人になるわよ」
「ご冗談を」
そう言って微笑み合ううちに、私はあの『ルー』が何故トラウゼンにいるのか不思議でたまらなくなり、素直に問いかけることにした。
「ねえ、ルフレンスさん。あなたには聞きたいことがたくさんあるけど、とりあえず、一番知りたいのは、何故あなたがトラウゼンにいるかってことだわ。……私、『ルー』がどういう身分の子なのか、まったく知らなかったけど、王宮に出入りすることを許されていたくらいだから、高貴な身分なのよね? そんなあなたが、どうして……」
そこでルフレンスは、小さくため息を漏らした。
それはまるで、私の話を遮るかのような、重たい吐息だった。
「リーリエル様、立ち話もなんですから、続きは私の部屋で、座って話しましょう。……ノブ、コラ、リーリエル様をここまで連れて来てくれて、ありがとうございました。あなたたちはもう、下がってもらってもかまいませんよ」
ルフレンスはそう言いながら、コラの頭をくしゃくしゃと撫でた。コラは大喜びし、そのままテントを出て行く。ノブはルフレンスに一礼し、それから私の顔をちらりと見て何か言おうとしたが、ルフレンスと私の話の邪魔をしてはいけないと思い直したのか、結局は言葉を飲み込み、コラの後を追うようにテントを出て行った。
そして私は、ルフレンスに案内され、彼の私室に移動した。
私室――と言っても、当然テントの中だから、それほどの広さはない。なので必然的に、私たちの距離は縮まり、私は少しだけ緊張してしまう。
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