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第111話

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 メリンダは変身をといており、普段通りの姿で、職場の仲間たちと語らい、食事をとっていた。食べているのは、あの携帯食のエネルギースフィアではなく、手作りのお弁当。かつて、『料理をする時間も、食事をする時間ももったいない』と言っていたメリンダだったが、何か、大きな心境の変化があったのだろう。

 それにしても、本当に楽しそうだ。

 ……そっか。メリンダは自分の殻を破り、職場の人たちと馴染むことができるようになったのね。この様子なら、お兄さんとの関係も、きっと改善したでしょう。本当に良かったわ。

 私は、そっとその場を後にした。

 自分で言うのもなんだが、今や私はパーミルで知らぬ人などいない有名人だ(実は、今も正体がバレないように、いつぞやのジェロームのような黒いローブを着ている)。そんな私がノコノコ出て行って話しかけたら、穏やかなお昼休憩の空気を間違いなく壊してしまう。ここは、静かに立ち去るべきだろう。

 仕方ない。このまま王宮に帰りますか。

 そう思い、王宮への坂道を歩いていると、近くの商店で聞き覚えのある声が聞こえた。……なんと商店の主は、オルソン聖王国から追放された私を、パーミル王国まで馬車で送ってくれた、行商人のホランドさんだ。

 懐かしさのあまり声をかけると、ホランドさんは「ははーっ」と平伏してしまった。それから、近況について語ってくれる。パーミル周辺には魔物が出なくなったものの、他国では依然として魔物の増加が続いているので、行商をやめ、思い切って店を構えたそうだ。

 そして、その新しい商売が軌道に乗り、今では行商人時代の三倍は稼いでいるという(よく見ると、お腹周りが随分と膨らんでいる。良いお酒やごちそうを少々食べすぎているようだ)。

 ……みんな、上手くいっているのね。辺りを見回せば、ホランドさんのお店以外も活気に満ちており、道行く人々も幸せそうだ。権力が移譲されるときは、多少は国が乱れるものらしいけど、パーミルに限っては、目に見えて国が安定したように思える。これも、エリウッドが身を削るような思いで政務に励んでいるからね。

 その、みんなの幸せが、もしかしたら壊れるかもしれない。

 ジェロームのクーデターによって。

 そして、ジェロームを止められるのは、きっと私だけ。

 王宮への帰り道。

 冷たい風が、黒いフードからこぼれた私の黒髪を、さらりと揺すった。

 私は、覚悟を決めた。
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