黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ

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第45話

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「……数年の時をかけ、祈祷師はどこからか一人の女性を連れてきた。それは、美しく気品のある、赤毛の女性だったそうだ」

 赤毛……グラディスとジェロームも、鮮やかな、美しい赤毛の持ち主だ。
 恐らく、その赤毛の女性が、二人の母親なのだろう。

「パーミルでは、一夫多妻は許されない。それは、王族とて同じこと。だから名目上、赤毛の女性は、王に仕えるメイドという形で、妾になった。いくら高名な祈祷師が連れてきた娘とはいえ、父上の体に問題があるのだから、子供など生まれるはずがないと皆思っていたらしいが、驚くことに赤毛の女性は、父上の寵愛を受けた後、すぐに女児を出産した」

「それが、グラディスさん、なんですね」

「そうだ。姉上の出産で、世継ぎの誕生に希望を見出した父上は、さらに励み、その三年後には念願の男児――ジェロームが産まれた。父上も、大臣たちも、大いに喜んだが、そのことによって、俺の母上――王妃リザベルトの心に狂おしいほどの嫉妬心が芽生えてしまった」

「嫉妬心……」

「先程も述べたが、パーミルでは一夫多妻は許されていない。夫が同時に二人の女を愛するということは、妻にとって、これ以上ないほどの屈辱なのだ。しかしそれでも、母上は妾の存在を許した。自分が子を産めなかったという負い目があったからだろう。……だが、妾が王の世継ぎとなる男児を産んだことで、母上の中で、何かが壊れてしまった」

「…………」

「母上は、もともとは優しい人だったそうだが、ジェロームの誕生以降、目に見えて奇行や、残虐な振る舞いが増えた。父上はこれに心を痛め、昼夜問わず、母上と過ごす時間を大幅に増やした。……そして、俺が産まれた。父上の生殖能力に問題があるという医師の診断は、誤診か、あるいは、一時的なものだったのだろう」

「エリウッド様が産まれたことで、王妃様の嫉妬心は落ち着いたんですか?」

「表面上はな。しかし、妾である赤毛の女性と、その二人の子供――グラディス姉上とジェロームに対する母上の憎悪は、凄まじかった。母上は幼い俺をよく抱き寄せ、グラディス姉上とジェロームを指さしながら、『あいつらは汚らわしい赤毛の簒奪者よ』と言っていたよ」

「簒奪者?」

「『王位を奪う者』という意味だ。俺自身は、赤毛の女性も、姉上も、ジェロームことも好きだったから、母上がその三人を悪く言うのは、聞いていてとてもつらかった……」

「あの、ちょっといいですか?」

「なんだ?」

「さっきから『赤毛の女性』『赤毛の女性』って言ってますけど、その人の名前、なんていうんですか?」
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