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第25話
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グラディスは平然とそう言うと、大きい方の黒ずくめの人――ジェロームのフードを勝手に下げてしまった。グラディスと同じく、鮮やかな赤い髪をした、美しい青年の顔が露になる。
ジェロームは、こうなった以上はもう仕方ないといった感じで、私に向き直り、自己紹介をした。
「……私は、パーミル王国近衛騎士団、副団長、ジェロームと申します。以後お見知りおきを」
丁寧ではあるが、簡潔で、そっけない自己紹介だった。それが終わると、ジェロームは再びフードをかぶり、半ば無理やり、グラディスにもフードをかぶせた。
「ええい、暑苦しい。まだ早朝だ。人もあまり歩いていないし、わざわざこんなものをかぶって、顔を隠す必要もあるまい」
「いけませんよ、姉上。もっとちゃんと、ご自分の立場を考えてください」
「はいはい、わかったよ」
そして二人は服装を正し、先程と同じ、完全なる黒ずくめスタイルに戻ると、私を促して、また歩き始めた。私たちは、しばらく無言で早朝の町を歩いていたが、私はさっきのグラディスとジェロームのやり取りがちょっと気になって、尋ねてみることにした。
「あの、お二人は、何で信用できない人には、顔と名前を晒しちゃいけないんですか?」
「ん? ああ、それはな。私たちが……」
答えかけたグラディスが、急に黙る。
その理由は、すぐに分かった。
ジェロームがフードの奥から、もの凄い目でグラディスを見ているのだ。
私には読心術の心得はないが、それでも『そんな大切なことを、路上で軽々しく話すな』と主張しているのが丸わかりの、強い意思のこもった瞳である。
グラディスは小さく「わかったわかった」と呟いた後、歩きながら、顔だけ私の方に向けて、言う。
「すまんなマリヤ。これ以上話すと弟に叱られるから、続きは城についてからだ。そこで、すべて話すよ。だから今は、私を信じて、黙ってついて来てくれ」
「はぁ、わかりました」
普通なら、自分の素性を詳しく語らない人間は信用できないが、私はなんとなく、このグラディスのことは信じていいのではないかと思った。少し話しただけで、彼女が私を『信用に足る人物』だと判断してくれたように、私もまた、グラディスの単刀直入な物言いから、彼女が裏表のない人物だと判断したのだ。
まあ、私はグラディスと違い、人を見る目にそれほど自信があるわけではないので、判断そのものが大間違いな可能性もあるが、どちらにしろ、このグラディスとジェロームについて行かなければ、今後の道は開けないのだ。ならば、あまり余計な心配はせずに、前に進むだけだ。
ジェロームは、こうなった以上はもう仕方ないといった感じで、私に向き直り、自己紹介をした。
「……私は、パーミル王国近衛騎士団、副団長、ジェロームと申します。以後お見知りおきを」
丁寧ではあるが、簡潔で、そっけない自己紹介だった。それが終わると、ジェロームは再びフードをかぶり、半ば無理やり、グラディスにもフードをかぶせた。
「ええい、暑苦しい。まだ早朝だ。人もあまり歩いていないし、わざわざこんなものをかぶって、顔を隠す必要もあるまい」
「いけませんよ、姉上。もっとちゃんと、ご自分の立場を考えてください」
「はいはい、わかったよ」
そして二人は服装を正し、先程と同じ、完全なる黒ずくめスタイルに戻ると、私を促して、また歩き始めた。私たちは、しばらく無言で早朝の町を歩いていたが、私はさっきのグラディスとジェロームのやり取りがちょっと気になって、尋ねてみることにした。
「あの、お二人は、何で信用できない人には、顔と名前を晒しちゃいけないんですか?」
「ん? ああ、それはな。私たちが……」
答えかけたグラディスが、急に黙る。
その理由は、すぐに分かった。
ジェロームがフードの奥から、もの凄い目でグラディスを見ているのだ。
私には読心術の心得はないが、それでも『そんな大切なことを、路上で軽々しく話すな』と主張しているのが丸わかりの、強い意思のこもった瞳である。
グラディスは小さく「わかったわかった」と呟いた後、歩きながら、顔だけ私の方に向けて、言う。
「すまんなマリヤ。これ以上話すと弟に叱られるから、続きは城についてからだ。そこで、すべて話すよ。だから今は、私を信じて、黙ってついて来てくれ」
「はぁ、わかりました」
普通なら、自分の素性を詳しく語らない人間は信用できないが、私はなんとなく、このグラディスのことは信じていいのではないかと思った。少し話しただけで、彼女が私を『信用に足る人物』だと判断してくれたように、私もまた、グラディスの単刀直入な物言いから、彼女が裏表のない人物だと判断したのだ。
まあ、私はグラディスと違い、人を見る目にそれほど自信があるわけではないので、判断そのものが大間違いな可能性もあるが、どちらにしろ、このグラディスとジェロームについて行かなければ、今後の道は開けないのだ。ならば、あまり余計な心配はせずに、前に進むだけだ。
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