身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】

小平ニコ

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第32話(ルーパート視点)

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「あ、兄上、アドレーラは、もうずっと、まともに口をきける状態ではありませんでした。それなのに、どうして僕があいつを井戸に突き落としたと、わかるんです?」

「なんでも、高位の魔導師に頼んで、『記憶を転送する魔法』とやらを使ったそうだ」

 くそっ。
 なんだよそれ。

 殺したはずのアドレーラを見つけた『探知の秘術』といい、そんなのありかよ。

 僕は、なんて言葉を返していいか分からず、ただ「うぐぐ」とだけ唸った。

「お前の愚行のすべてを知り、ドルフレッド様は、これ以上ないほどお怒りだ。……正直言って、最近のドルフレッド様はすっかりお優しくなられていたので、俺も少々甘く見ていたが、やはり怒ると、とてつもなく恐ろしい人だ。さすが、かつての戦争で、国内外から『戦鬼』と畏怖されただけのことはある」

「し、しかし兄上。『記憶を転送する魔法』なんて、聞いたこともないですし、向こうが勝手にそう主張しているだけでしょう? 僕がやったという証拠など何もないのですから、堂々としていれば……」

「この愚物が! まだ、状況が分かっていないようだな! お前は、イズリウム家始まって以来の出来損ないだ! 頭の中に、脳の代わりに馬糞でも詰まってるんじゃないのか? この、低能のクソカスがっ!」

 愛する兄上から激しく罵倒され、体の痛みからくる涙とは、また違った種類の涙が出た。

 そうだよ。
 知っている。

 僕は、名家であるイズリウム家で、最も頭が悪い。
 本当は、知っているんだ。

 子供の頃から、優秀な兄たちと比べられるのが、嫌だった。
 使用人たちは皆、口には出さなかったけど、僕の愚かさにあきれていた。

 だから、アドレーラを見下し、愚鈍と罵ったんだ。
 そうしていると、自分の頭の悪さを、忘れられたから。

 さめざめと泣く僕に、兄上は唾まで吐きかけ、言葉を続ける。

「いいか、証拠など問題ではない。ドルフレッド様を怒らせたことが、問題なのだ。ドルフレッド様――レデリップ家がその気になれば、我がイズリウム家など、塵芥のように消し飛ばすことができるのだぞ」

「そ、そんな……レデリップ家など、所詮は軍人出身の成り上がり貴族でしょう? 由緒正しき名家であるイズリウム家と比べたら……」

「馬鹿が。名家と言っても、皆から尊敬を集めていた父上が死んだ今のイズリウム家に、昔ほどの求心力はない。それに比べて、戦争の英雄であったドルフレッド様を崇拝する者は、軍部はもちろん、文官や、一般国民にも非常に多い。何より、現宰相のハーバジル様は、ドルフレッド様のかつての部下だ。……ルーパート、これから我々がどうなるか分かるか?」
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