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第27話(ランディス視点)
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「俺のことなんて、どうだっていい! ルーパートを殺せるなら、俺は死刑になっても、地獄に落ちても構わない!」
「そうか。しかし、お前がそんなことになったら、アドレーラは悲しむぞ。……いつか、心と言葉を取り戻したアドレーラが、自分のことでお前が殺人を犯し、死刑になったと知ったら、あの子はそれこそ、もう二度と立ち直れないほどに苦しむはずだ。アドレーラの優しい性格を誰よりもよく知るお前なら、わかるはずだ」
「…………」
「そして、悲しみ、苦しむのは私も同じだ。うちには男の子が生まれなかったが、幼いころからアドレーラと仲良くしてくれるお前のことを、私は実の息子のように思っている。アドレーラがこんなことになり、その上、お前まで人生を踏み外してしまったら、私の心はもう、耐えられない……」
「ドルフレッドさん……」
「もちろん、このままルーパートを放っておきはしない。奴には、やったことの責任を取らせる。レデリップ家当主として、今ここに約束する。……だからお前も、何があってもルーパートを殺さないと、約束してくれ。これは、ルーパートの身を案じて言っているんじゃない。お前のためなんだ。頼む」
……ドルフレッドさんに、ここまで言われては、とりあえず怒りを抑えるしかない。俺は唇を噛みしめ、「……わかりました」と呟いた。
その時である。『記憶転送術』の影響で、椅子に座ったまま眠っていたアドレーラが目を覚ました。彼女は、俺とドルフレッドさんの顔を見比べて、柔らかく微笑み、言葉を発する。
「ランディスと、お父様……? 見慣れないお部屋ですけど、ここは、いったいどこなのでしょう……?」
俺はまさしく、心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。ドルフレッドさんも、きっとそうだろう。ひさしぶりに、本当にひさしぶりに、アドレーラがちゃんとした言葉を発したのだから。
俺は彼女に駆け寄り、問いかける。
「アドレーラ、言葉が、心が、戻ったのか……?」
アドレーラは、不思議そうに小首をかしげ、言う。
「質問の意味が、よくわからないわ。私は、いつも通りよ? あら? でも、足が上手に動かないわ。どうしてかしら? ……あっ」
「アドレーラ、危ない!」
まだうまく動かない足を無理に動かして立とうとし、バランスを崩して転びそうになったアドレーラを、俺は抱き留めた。……ふう、間一髪だった。しかし、何か様子がおかしいぞ。これはいったい、どういうことだろう。
俺は助けを求めるように、女魔導師の方を見た。
女魔導師は腕組みをし、少しだけ考えて、持論を展開する。
「ま、これは推測だけど、そのお嬢さんの頭の怪我は、そこまで酷いものじゃなくて、脳は別に損傷してなかったんでしょうね。『あー』しか喋れない失語症と、幼児退行的な症状を併発していたのは、恐らく脳の自己防衛機能が働いたものだと考えられるわ」
「そうか。しかし、お前がそんなことになったら、アドレーラは悲しむぞ。……いつか、心と言葉を取り戻したアドレーラが、自分のことでお前が殺人を犯し、死刑になったと知ったら、あの子はそれこそ、もう二度と立ち直れないほどに苦しむはずだ。アドレーラの優しい性格を誰よりもよく知るお前なら、わかるはずだ」
「…………」
「そして、悲しみ、苦しむのは私も同じだ。うちには男の子が生まれなかったが、幼いころからアドレーラと仲良くしてくれるお前のことを、私は実の息子のように思っている。アドレーラがこんなことになり、その上、お前まで人生を踏み外してしまったら、私の心はもう、耐えられない……」
「ドルフレッドさん……」
「もちろん、このままルーパートを放っておきはしない。奴には、やったことの責任を取らせる。レデリップ家当主として、今ここに約束する。……だからお前も、何があってもルーパートを殺さないと、約束してくれ。これは、ルーパートの身を案じて言っているんじゃない。お前のためなんだ。頼む」
……ドルフレッドさんに、ここまで言われては、とりあえず怒りを抑えるしかない。俺は唇を噛みしめ、「……わかりました」と呟いた。
その時である。『記憶転送術』の影響で、椅子に座ったまま眠っていたアドレーラが目を覚ました。彼女は、俺とドルフレッドさんの顔を見比べて、柔らかく微笑み、言葉を発する。
「ランディスと、お父様……? 見慣れないお部屋ですけど、ここは、いったいどこなのでしょう……?」
俺はまさしく、心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。ドルフレッドさんも、きっとそうだろう。ひさしぶりに、本当にひさしぶりに、アドレーラがちゃんとした言葉を発したのだから。
俺は彼女に駆け寄り、問いかける。
「アドレーラ、言葉が、心が、戻ったのか……?」
アドレーラは、不思議そうに小首をかしげ、言う。
「質問の意味が、よくわからないわ。私は、いつも通りよ? あら? でも、足が上手に動かないわ。どうしてかしら? ……あっ」
「アドレーラ、危ない!」
まだうまく動かない足を無理に動かして立とうとし、バランスを崩して転びそうになったアドレーラを、俺は抱き留めた。……ふう、間一髪だった。しかし、何か様子がおかしいぞ。これはいったい、どういうことだろう。
俺は助けを求めるように、女魔導師の方を見た。
女魔導師は腕組みをし、少しだけ考えて、持論を展開する。
「ま、これは推測だけど、そのお嬢さんの頭の怪我は、そこまで酷いものじゃなくて、脳は別に損傷してなかったんでしょうね。『あー』しか喋れない失語症と、幼児退行的な症状を併発していたのは、恐らく脳の自己防衛機能が働いたものだと考えられるわ」
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