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第25話(ランディス視点)

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 恐怖はなかった。
 むしろ、どこか嬉しかった。

 強がりじゃない。

 アドレーラが受けた苦しみを、共有できるのだから。

 俺の意志が固いことを悟った女魔導師は、「それじゃ、始めるわよ」と言い、左の手のひらをアドレーラの額に、そして、右の手のひらを俺の額にかざし、聞いたこともないような呪文を唱えた。

 次の瞬間、俺の意識は消失した。





「ランディス、大丈夫か、ランディス!」

 俺は、ドルフレッドさんに肩を揺すられ、意識を取り戻した。
 女魔導師の、あっけらかんとした声が響く。

「ん、どうやら頭は大丈夫みたいだね。いやはや、なかなかの精神力だわ」

 俺は、ぼんやりと二人の言葉を聞きながら、頭に流れ込んできたアドレーラの一年分の記憶を整理し、反芻し、そして、飲み込んでいく。

 俺は、黙っていた。

 一分。
 二分。
 三分。

 ひたすら、黙っていた。

 そして、とうとう五分が経った頃、自分でも無意識に、口から言葉が出た。

「あ、あの野郎……絶対に殺してやる……!」

 それは、自分でも驚くほどの、どす黒い呪詛だった。

 イズリウム家で過ごした一年間。
 アドレーラが、ルーパートから受けた虐待は、俺の想像をはるかに超えていた。

 暴言など当たり前。
 奴は、アドレーラには人としての尊厳など存在しないと主張するように、徹底して人間以下の扱いをしていた。

 吐くまで殴る。
 立っていられなくなるまで蹴る。

 時には投げ飛ばし、うずくまったアドレーラを見て、大笑い。

 それでもまだ、可愛いものだ。
 ルーパートの機嫌が本当に悪い時の虐待は、凄惨を極めた。

 奴は、釘や、工具を使って、何度も『もう痛いのは嫌です』『ごめんなさい』『許してください』と哀訴するアドレーラを……アドレーラを……

 そして最後は、身勝手な理由で井戸の中に突き落とし、殺そうとした……

 あああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あのやろううううううううううううううううううううううううううううう
 ふざけやがってええええええええええええええええええええええええええ
 ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす
 ぜったいにころしてやるぜったいにころしてやるぜったいにころしてやる

 不意に、女魔導師の言った『ショックに耐えきれずに、頭がいかれちゃうかもね』という言葉が頭をよぎる。大丈夫だと思っていたが、俺の頭は、狂ってしまったのかもしれない。……激しい怒りと憎しみで。
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