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第24話(ランディス視点)
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最初は半信半疑、話半分といった感じで、俺の言葉に耳を傾けていた女魔導師だったが、こちらの真剣な話しぶりに、いつの間にか姿勢を正し、何度も「うん」「うん」「それで、どうなったの?」と相槌を打ちながら、最後まで説明を聞いてくれた。
女魔導師は、沈痛な面持ちで、ため息を漏らす。
「ふう……なるほど……惨い話ね。よし、いいわよ。あなたたち、悪人じゃないみたいだし、手を貸してあげる」
「あ、ありがとうございます!」
「でも、最初に断っておくけどね。私が使えるのは、正確には『記憶を読み取る魔法』じゃなくて、『記憶を転送する魔法』だからね。そこのところ、勘違いしないように」
それまで黙っていたドルフレッドさんが、女魔導師に問いかける。
「あの、それって、何か違いがあるのですか? 我々素人には、同じに思えるのですが……」
女魔導師は、「ちっちっち」と口を鳴らしながら、指先を振って答えた。
「違う違う、全然違うよ。いい? そもそも『記憶を読み取る』なんて、便利な魔法はこの世に存在しないのよ。私ほどの超ハイレベルな魔導士でも、できるのは、『誰かの頭』から『記憶』を抜き出し、それを『他の誰かの頭』に移動させることだけ。例えて言うなら、本棚に入っている本を、別の本棚に移し替えるようなものね」
今度は、俺が口を挟む。
「ってことは、その『移し替えた分の記憶』は、元々あった『誰かの頭』からは、消えてしまうということですか?」
「おっ、なかなか理解が早いわね。そういうことよ。だから、あなたたちが知りたがってる、そのニコニコ笑顔のお嬢さんの、一年分の記憶を取りだしちゃったら、彼女の頭の中で、その分の記憶は、空白になっちゃうの。どうする? それが嫌なら、やめとく?」
しばらく考えて、俺とドルフレッドさんは互いに顔を見合わせた後、同時に首を左右に振った。……アドレーラにとって、イズリウム家での一年間は、苦しい思い出ばかりに違いない。それなら、消え去り、空白になってしまった方が、どれほど幸せなことか。俺も、ドルフレッドさんも、そう思ったのだ。
「よし、覚悟はできてるみたいだし、ちゃっちゃとやっちゃおうか。さてさて、この魔法は、記憶の『転送元』と『転送先』の年齢が近い方が成功率が上がるから、こっちの若いお兄さんの頭に、お嬢さんの一年分の記憶を流し込むよ。それでいいね」
俺は、頷いた。
「あと、あらかじめ言っておくけど、あなたの言う通り、このお嬢さんが酷い虐待を受けてたってのが事実なら、彼女が感じた悲しみや恐怖、そして耐えがたい痛みが、リアルな記憶としてあなたの頭に流れ込み、あなたは彼女の苦しみを追体験することになる。……これは、想像以上にキツイわよ。下手したら、ショックに耐えきれずに、頭がいかれちゃうかもね」
その言葉に「なんですって!?」と仰天したのはドルフレッドさんだった。
ドルフレッドさんは、俺の肩に手をやり、小さく「ランディス」と名を呼んだ。俺は、その大きな手に自分の手を重ねて、「大丈夫です、やります」と言う。
女魔導師は、沈痛な面持ちで、ため息を漏らす。
「ふう……なるほど……惨い話ね。よし、いいわよ。あなたたち、悪人じゃないみたいだし、手を貸してあげる」
「あ、ありがとうございます!」
「でも、最初に断っておくけどね。私が使えるのは、正確には『記憶を読み取る魔法』じゃなくて、『記憶を転送する魔法』だからね。そこのところ、勘違いしないように」
それまで黙っていたドルフレッドさんが、女魔導師に問いかける。
「あの、それって、何か違いがあるのですか? 我々素人には、同じに思えるのですが……」
女魔導師は、「ちっちっち」と口を鳴らしながら、指先を振って答えた。
「違う違う、全然違うよ。いい? そもそも『記憶を読み取る』なんて、便利な魔法はこの世に存在しないのよ。私ほどの超ハイレベルな魔導士でも、できるのは、『誰かの頭』から『記憶』を抜き出し、それを『他の誰かの頭』に移動させることだけ。例えて言うなら、本棚に入っている本を、別の本棚に移し替えるようなものね」
今度は、俺が口を挟む。
「ってことは、その『移し替えた分の記憶』は、元々あった『誰かの頭』からは、消えてしまうということですか?」
「おっ、なかなか理解が早いわね。そういうことよ。だから、あなたたちが知りたがってる、そのニコニコ笑顔のお嬢さんの、一年分の記憶を取りだしちゃったら、彼女の頭の中で、その分の記憶は、空白になっちゃうの。どうする? それが嫌なら、やめとく?」
しばらく考えて、俺とドルフレッドさんは互いに顔を見合わせた後、同時に首を左右に振った。……アドレーラにとって、イズリウム家での一年間は、苦しい思い出ばかりに違いない。それなら、消え去り、空白になってしまった方が、どれほど幸せなことか。俺も、ドルフレッドさんも、そう思ったのだ。
「よし、覚悟はできてるみたいだし、ちゃっちゃとやっちゃおうか。さてさて、この魔法は、記憶の『転送元』と『転送先』の年齢が近い方が成功率が上がるから、こっちの若いお兄さんの頭に、お嬢さんの一年分の記憶を流し込むよ。それでいいね」
俺は、頷いた。
「あと、あらかじめ言っておくけど、あなたの言う通り、このお嬢さんが酷い虐待を受けてたってのが事実なら、彼女が感じた悲しみや恐怖、そして耐えがたい痛みが、リアルな記憶としてあなたの頭に流れ込み、あなたは彼女の苦しみを追体験することになる。……これは、想像以上にキツイわよ。下手したら、ショックに耐えきれずに、頭がいかれちゃうかもね」
その言葉に「なんですって!?」と仰天したのはドルフレッドさんだった。
ドルフレッドさんは、俺の肩に手をやり、小さく「ランディス」と名を呼んだ。俺は、その大きな手に自分の手を重ねて、「大丈夫です、やります」と言う。
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