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第21話(ランディス視点)

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 イズリウム家を放り出された俺は、すぐレデリップ家に戻り、アドレーラが虐待を受けていた可能性があることを、ドルフレッドさんに報告した。

 ドルフレッドさんは大きな体を椅子に沈め、分厚い胸板の前で両腕を組み、重たい吐息を漏らす。

「信じられない……いや、信じたくない。確かにルーパートは、少々軽薄なところがあるが、それでも、アドレーラに惨い仕打ちをするとは、とても私には……」

 向かいの椅子に座っている俺も、ドルフレッドさんと同じように、深く、重いため息を吐く。

「無鉄砲な行動でしたけど、今日、イズリウム家で直接ルーパートに会って、アドレーラの虐待は確実にあったと、俺は確信しました。……信じては、もらえませんか?」

 しばしの、沈黙。
 時計が秒針を刻む音だけが、静かな室内にこだまする。

 やがて、ドルフレッドさんは口を開いた。

「ランディス。お前は、子供の頃から、誰よりも親身になって、アドレーラに接してくれたね。それまで、アドレーラには友達がいなかったから、お前が一緒にいてくれるようになって、本当に嬉しそうだった……」

 どうしていきなり、そんな話を?
 そう思ったが、俺はドルフレッドさんに話を合わせることにした。

「嬉しかったのは、俺も同じですよ。昔の俺は、かなり人間不信気味でした。でも、純真なアドレーラと接することで、俺の心も、少しは真っすぐになれたと思っています」

「お前の心は、昔から真っすぐだよ。自分が正しいと信じた道を進むことに、一切の迷いがない。それに比べて、私は……」

 ドルフレッドさんは黙り、天井を仰ぐ。
 それから、俺に向き直り、話を続けた。

「すまない、ランディス。お前が間違ったことを言っているとは思わないが、恩人であり、無二の親友の息子であるルーパートもまた、私にとって大事な存在なのだ。私にはどうしても、ルーパートを疑うことができない……」

「恩人であり、無二の親友……最近亡くなったという、ルーパートの父親が、ですか?」

「ああ。……ランディス、お前には初めて話すが、我がレデリップ家は、生まれついての貴族ではない。私は一軍人として、もう随分前の戦争で武勲を立て、国王陛下から爵位を授かり、今の地位になったのだ」

 それは初耳だ。
 俺は黙って、ドルフレッドさんの話に耳を傾ける。

「そして、私に爵位を授けることを、国王陛下に強く推挙してくれたのが、宮廷の高官であった、ルーパートの父――ブルエリック・イズリウム殿だ。彼は文官でありながら、軍務にも理解があり、加えて、身分を鼻にかけない、気持ちの良い男でな。我らはまさしく、心から信頼し合う友人だった」
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