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第20話(ルーパート視点)
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「ルーパートの旦那。これ以上張り切っても、後は下がり調子になるだけですよ。バクチには流れってもんがある。悪いことは言わねぇ、今日はもうやめといた方がいい」
黙れ、チンピラ博徒ごときが。僕に意見するな。
時刻は夜。
僕は今、町の盛り場で、近頃流行りのダイス賭博に興じている。
……しかし、どうしたことだ。僕は、幸運の女神の寵愛を受けた者のはずなのに、今日はどうにもツキの巡りが悪い。先程から負けっぱなしだ。くそっ、いらいらするな。酒でも飲んで、気分を変えるか。
「おい、もうひと勝負する前に、酒を持ってこい。ここで一番上等な奴を、ボトルごとだ」
「そりゃ構いませんが、『一番上等』となると、かなりの金額ですよ。負けが込んでる今日の旦那に、払えるんですかい?」
「黙れ、ツケにして、帳簿に書いておけ。後で兄上が払ってくれる」
「へい、毎度あり」
そして、運ばれてきた酒を勢いよくあおり、新しい勝負を開始する。
よしよし。
なかなか良い目が出たぞ。
ここから勝ちまくって、負け分を全部取り返してやる。
いい具合に酔いも回り、上機嫌でダイスを振りながら、僕は今日あったことを思い出す。
……今日、屋敷にやって来た、あの平民の男。
名前、なんて言ったかな? まあ、平民の名前など、どうでもいいか。
あいつ、アドレーラが僕に虐待された疑いがあることを、ドルフレッドのおやじに言いつけるかな? ……まあ、言うだろうなぁ。相当、あのアホ女にご執心のようだったからな。まったく、世の中には変わり者がいるものだ。
さて、どうする?
何か、手を打っておくべきかな?
今目の前にいるチンピラどもを金で雇って、あの平民の男をリンチにかけて、二度と口がきけないようにしてやるか。いやいや、待て待て、そんな、余計なことはしない方がいいな。変に手を回して、僕の指示だとバレたら、後々面倒なことになる。
だいたい、僕がアドレーラを虐待したという証拠は、どこにもないんだ。くくくっ、うなじの傷が何だというんだ。あんなもの、どうとでも言い訳することができる。ドルフレッドは僕のことを信頼しているし、堂々としてれば絶対に大丈夫だ。
……ん?
あっ!?
くそっ!
なんで、こんな土壇場で、酷い目が出るんだ!
ちくしょう! また大負けじゃないか!
くそっ!
くそくそっ!
くそがっ!
「はい、これで旦那の負けですね。だから言ったでしょう? これ以上張り切っても、下がり調子になるだけだって」
黙れ。
黙れ黙れ黙れ。
社会のクズのくせに、高貴なる身分である僕に偉そうな口をきくな。ぶち殺すぞ。
「さて、これまでの負け分と、今の負け分、合わせると、すげぇ金額になっちまいますが、ルーパートの旦那。ちゃんと払えるんですかい?」
今の手持ちで、払えるわけがない。
酒の代金さえ、ツケにしたんだからな。
僕は舌打ちをして、言う。
「……今は、持ち合わせがない。負け分は、帳簿に書いておいてくれ。後で兄上が払う」
「ふふふ、そうくると思ってましたよ。くくく、たったの一晩で大金がすっ飛んで、旦那の兄上様も大変だ」
「うるさい。余計なお世話だ」
「まあ、うちらは金さえ払ってもらえればそれでいいんですけどね。くくっ、ルーパートの旦那は、本当に、お得意様ですよ。これからも、うちを贔屓にしてくださいよ」
くそっ。
次は絶対に勝ってやるからな。
ああ、ちくしょう。
気分が悪い。
こんなとき、アドレーラがいたら、顔を蹴り飛ばしてスカッとできるのにな。いつだったか、『おかえりなさい、ルーパート様』と言いながら駆け寄って来たのを、思いっきりぶん殴ったら、わんわん泣いて、最高に笑えたっけ。
うっ。
胸がむかむかする。
たぶん、さっきの酒のせいだな。
あのクソチンピラ、何が『一番上等』な酒だ。
いくら高価でも、平民が飲むような酒は駄目だな。
貴族である僕は、こんな、悪酔いするような酒は嫌いだ。
よし、馴染みの酒場に行って、飲みなおすか。
金はないが、なあに、またツケにしておけばいい。
どうせ、後で兄上が払ってくれる。
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「ルーパートの旦那。これ以上張り切っても、後は下がり調子になるだけですよ。バクチには流れってもんがある。悪いことは言わねぇ、今日はもうやめといた方がいい」
黙れ、チンピラ博徒ごときが。僕に意見するな。
時刻は夜。
僕は今、町の盛り場で、近頃流行りのダイス賭博に興じている。
……しかし、どうしたことだ。僕は、幸運の女神の寵愛を受けた者のはずなのに、今日はどうにもツキの巡りが悪い。先程から負けっぱなしだ。くそっ、いらいらするな。酒でも飲んで、気分を変えるか。
「おい、もうひと勝負する前に、酒を持ってこい。ここで一番上等な奴を、ボトルごとだ」
「そりゃ構いませんが、『一番上等』となると、かなりの金額ですよ。負けが込んでる今日の旦那に、払えるんですかい?」
「黙れ、ツケにして、帳簿に書いておけ。後で兄上が払ってくれる」
「へい、毎度あり」
そして、運ばれてきた酒を勢いよくあおり、新しい勝負を開始する。
よしよし。
なかなか良い目が出たぞ。
ここから勝ちまくって、負け分を全部取り返してやる。
いい具合に酔いも回り、上機嫌でダイスを振りながら、僕は今日あったことを思い出す。
……今日、屋敷にやって来た、あの平民の男。
名前、なんて言ったかな? まあ、平民の名前など、どうでもいいか。
あいつ、アドレーラが僕に虐待された疑いがあることを、ドルフレッドのおやじに言いつけるかな? ……まあ、言うだろうなぁ。相当、あのアホ女にご執心のようだったからな。まったく、世の中には変わり者がいるものだ。
さて、どうする?
何か、手を打っておくべきかな?
今目の前にいるチンピラどもを金で雇って、あの平民の男をリンチにかけて、二度と口がきけないようにしてやるか。いやいや、待て待て、そんな、余計なことはしない方がいいな。変に手を回して、僕の指示だとバレたら、後々面倒なことになる。
だいたい、僕がアドレーラを虐待したという証拠は、どこにもないんだ。くくくっ、うなじの傷が何だというんだ。あんなもの、どうとでも言い訳することができる。ドルフレッドは僕のことを信頼しているし、堂々としてれば絶対に大丈夫だ。
……ん?
あっ!?
くそっ!
なんで、こんな土壇場で、酷い目が出るんだ!
ちくしょう! また大負けじゃないか!
くそっ!
くそくそっ!
くそがっ!
「はい、これで旦那の負けですね。だから言ったでしょう? これ以上張り切っても、下がり調子になるだけだって」
黙れ。
黙れ黙れ黙れ。
社会のクズのくせに、高貴なる身分である僕に偉そうな口をきくな。ぶち殺すぞ。
「さて、これまでの負け分と、今の負け分、合わせると、すげぇ金額になっちまいますが、ルーパートの旦那。ちゃんと払えるんですかい?」
今の手持ちで、払えるわけがない。
酒の代金さえ、ツケにしたんだからな。
僕は舌打ちをして、言う。
「……今は、持ち合わせがない。負け分は、帳簿に書いておいてくれ。後で兄上が払う」
「ふふふ、そうくると思ってましたよ。くくく、たったの一晩で大金がすっ飛んで、旦那の兄上様も大変だ」
「うるさい。余計なお世話だ」
「まあ、うちらは金さえ払ってもらえればそれでいいんですけどね。くくっ、ルーパートの旦那は、本当に、お得意様ですよ。これからも、うちを贔屓にしてくださいよ」
くそっ。
次は絶対に勝ってやるからな。
ああ、ちくしょう。
気分が悪い。
こんなとき、アドレーラがいたら、顔を蹴り飛ばしてスカッとできるのにな。いつだったか、『おかえりなさい、ルーパート様』と言いながら駆け寄って来たのを、思いっきりぶん殴ったら、わんわん泣いて、最高に笑えたっけ。
うっ。
胸がむかむかする。
たぶん、さっきの酒のせいだな。
あのクソチンピラ、何が『一番上等』な酒だ。
いくら高価でも、平民が飲むような酒は駄目だな。
貴族である僕は、こんな、悪酔いするような酒は嫌いだ。
よし、馴染みの酒場に行って、飲みなおすか。
金はないが、なあに、またツケにしておけばいい。
どうせ、後で兄上が払ってくれる。
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