身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】

小平ニコ

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第19話(ランディス視点)

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 俺は、歯ぎしりした。
 怒りと悔しさで、噛みしめた奥歯が、割れてしまいそうだった。

 しばらくして俺は、掴んでいたルーパートの胸ぐらから手を放した。
 ルーパートは、やれやれという感じで襟元を正し、ふんと息を吐く。

「まったく、シャツが伸びてしまったじゃないか。本当なら、お前のようなゴミが触れることもできない、一流ブランドの名品なんだぞ? これだけでも、器物損壊で訴えてやってもいいのだがな。まあ、僕としてもあまり事を荒立てる気はない。ドルフレッドのおやじは、お前のことを、随分と可愛がってるみたいだからな」

 俺は、自分の無力さと愚かさを噛みしめながら、静かに尋ねる。

「ルーパート、教えてくれ。何故だ? 何故、あの優しいアドレーラを、傷つけるような真似をしたんだ……?」

「おいおいおいおいおいおい、誤解だよ、誤解。えっと、きみ、名前はなんて言ったかな?」

「ランディスだ……」

「うん、そうか。ランディス君。きみは知らないだろうけどね。アドレーラにはね、自傷癖があるんだよ。時々、どこかから釘を持ってきては、自分のうなじを引っ掻くのさ。いやいや、やめさせようとしたんだが、これがなかなか矯正できなくてねぇ」

 よくもそんな嘘を。
 今すぐこいつの薄汚い口に拳を突っ込んで、黙らせてやりたかった。

「しかし、きみ、随分とアドレーラのことを気にかけているんだね。まさか、あんなのが好みのタイプなのかい? ……こりゃいい! 考えなしに人様の屋敷に乗り込んでくるようなバカ平民と、『あー』しか喋れない、寝たきりのアホ令嬢。最っ高にお似合いだよ! あはっ! あはっ! あはははっははははははっははははっははは!!」

 俺は、もうルーパートの発言を聞くのをやめた。これ以上聞いていると、すべての理性を捨てて、こいつを殺してしまいそうだった。

「はぁー、笑った笑った。まあ、そのうち、僕とアドレーラの婚約はなかったことになるからさ、そうなったら、好きにしなよ。ゴミ同士、ささやかな結婚式でもあげて、後は一生、アドレーラの下の世話でもして、仲良く暮らしてくれ。それじゃあな。今回は大目に見てやるから、二度と来るなよ。高貴なる者の屋敷に、薄汚い平民は立ち入り禁止だ」

 そして俺は、衛兵たちによって、屋敷の外に連れ出された。

 俺は無言で、イズリウム邸を見上げる。
 そして、自分の声とは思えないほど、重く、暗い声で、呟いた。

「ルーパート、貴様……このままで済むと思うなよ……」
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