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第17話(ランディス視点)

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 俺は、自分でも気づかぬうちに、立ち上がっていた。
 仁王立ちで、そして、仁王そのものの怒りの形相で、ジョーンズを見下ろしながら叫ぶ。

「どういう意味も何もあるか! 誰がアドレーラをいたぶったのかと聞いているんだ!」

 それで、ジョーンズは椅子から転げ落ちた。随分と気の弱い男らしく、激昂した俺に殴られるとでも思ったのか、両手で頭を庇い、掠れた声で何とか返答する。

「わ、わかりました。わかりました。全て、お話します……ルーパート坊ちゃまのアドレーラ様に対する仕打ちは酷すぎましたから……いつか、こんな日が来るかもしれないと、覚悟はしておりました……」

 ルーパートだと?

 あいつか?
 あいつが、アドレーラを苦しめたのか?

 一刻も早く、詳しい話が聞きたい。
 俺はジョーンズを抱き起こすと、椅子に座らせ、俺自身も席に着く。

 ジョーンズが咳ばらいをし、語り始めようとした頃、バタンと音を立て、控え室の扉が開いた。

 そちらに目をやると、たった今名前の出た、あのルーパートが、肩を怒らせてこちらに来るところだった。ルーパートはのしのしとジョーンズに歩み寄ると、いきなり彼の頬を平手で打った。ジョーンズはもんどりうって床に倒れ、ルーパートはさらに、彼の顔を足で踏みつけた。

「ジョーンズ、お前、今、何を喋ろうとしたんだ? なあ、おい、この能無しジジイが。僕に関することを、ペラペラ他人に喋るんじゃねぇって、前にも言ったよなぁ?」

 ネチネチと詰りながら、ルーパートはジョーンズの顔を踏み続ける。その陰湿な表情は、かつて、アドレーラの見舞いに来て、ドルフレッドさんに愛想を振りまいていた時とは、完全に別人だ。

「あっ、がっ、ぁっ、ぼ、坊ちゃま……お許しを……っ」

 ギリギリと、骨のきしむ音がここまで聞こえてくる。どうやら、ルーパートはまったく手加減せず、ジョーンズの顔面に全体重をかけているらしい。パキッと、やけに軽快な音がした。次の瞬間、ジョーンズがひときわ高い悲鳴を上げる。

 悲鳴の発生源である口元をよく見ると、前歯が二本ほど無くなっていた。ルーパートが、わざわざ口のあたりを踏みつけ、折ったのだ。……いくらなんでも、惨すぎる。俺はルーパートの肩を引き、諫めた。

「よせ! もうやめろ!」

 その物言いが気に入らなかったのか、ルーパートは俺の手を振り払い、額に青筋を立てながら言葉を吐き捨てる。

「やめろだと? 程度の低い平民ごときが、僕に意見する気か? ドルフレッドのおやじから聞いて知ってるぞ、お前、正式にはレデリップ家の使用人じゃぁないそうじゃないか。それが、身分証を見せて、こんなところにまで入り込んで、いったいなんのつもりだ?」
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