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第16話(ランディス視点)

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 丁寧すぎる、持って回った言い方が、妙に俺を苛立たせた。

『当主は今いないから、面会はできない。急ぎじゃないなら、後でこっちから連絡する』――簡潔に、そう言えばいいだろうに。いや、まあ、高貴な者に仕える執事の言動は、丁寧すぎるくらいでちょうどいいのかもしれない。今の俺は、アドレーラのことで気が立っているので、少々のことでも神経に障ってしまうのだろう。

 しかし、どうやらこのジョーンズとかいう執事、俺が、ドルフレッドさんの使いでやって来たと思っているようだ。……それも当然か、普通なら、ただの一使用人が、『話があるから当主に会わせてくれ』なんて言ってくるはずないだろうからな。

 これは、好都合だ。別に、わざわざドルフレッドさんの使いを騙るつもりはなかったが、こうなった以上、状況をうまく利用させてもらおう。俺はジョーンズに向き直り、襟を正しながら言う。

「わかりました。では、ご当主様の代わりに、あなたにいくつか、お話を伺いたい」

「わたくしに、で、ございますか……?」

 ジョーンズは、目を丸くした。
 こんなことを言ってくる奴は、今までいなかったのだろう

 ……執事と言うからには、イズリウム家で起こっていることは、ほとんど耳に入っているはずだ。案外、当主に直接聞くより、この男を問いただした方が、アドレーラがどんな暮らしをしていたか、詳しく知ることができるかもしれない。





 俺たちは場所を変え、イズリウム家の使用人たちが利用する控え室で、テーブルを挟み、向かい合った。ジョーンズはメイドに頼み、お茶を淹れさせようとしたが、俺は断った。のんびりと茶飲み話をするためにここに来たわけではないからだ。今だって、少しでも気を抜けば、怒りが爆発して、テーブルを蹴り倒してしまいそうだ。

 俺は、一度だけ深呼吸をして、単刀直入に、尋ねる。

「ジョーンズさん。アドレーラ様は、このイズリウム家にお入りになってから、どのような暮らしをされていましたか?」

 ジョーンズは、黙った。

 彼の表情は、先程からずっと柔和で、落ち着いたものだったが、俺の問いに対し、わずかに緊張したのが見て取れる。……何故、緊張するんだ? 『アドレーラはどんなふうに暮らしていた?』なんて、ごく普通の質問じゃないか。俺はテーブルに身を乗り出し、ほとんど同じ意味だが、もう少しだけ核心を突いた質問をする。

「もう一度聞きますよ、ジョーンズさん。アドレーラ様は、このイズリウム家で、どんな扱いを受けていたのですか?」

 しばらくして、やっとジョーンズが口を開く。

「そ、それは、どういう意味でしょう……?」

 その声は、かすかに震えていた。
 この男、やはり何かを知っているらしい。
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