15 / 50
第15話(ランディス視点)
しおりを挟む
それに、俺は何度か、アドレーラの幸福を願い、イズリウム邸の門前まで行ったことがある。……当時の俺は、目の前の立派なお屋敷で、アドレーラは大切にされて、毎日楽しく暮らしているに違いないと思っていたが、もしかしてあの時、アドレーラは屋敷の中で、壮絶ないじめにあっていたのではないだろうか。
そう思うと、間抜けな自分への怒りと、アドレーラを苦しめた『誰か』に対する憎しみで、気が狂いそうになった。
やがて、俺はイズリウム邸の正門前に到着した。
さすが、名門貴族の屋敷だ。
入口には、長い槍を持った、二人の屈強な門番がいる。
彼らは俺の姿を視界に捉えると、明らかな警戒の姿勢を取った。
無理もない。
たぶん、今の俺は、凄い形相をしているのだろう。
心の中が、怒りと憎しみで煮えかえっているからな。
このイズリウム邸の中で、一年間もアドレーラが苦しんでいたのだと思うと、門を守る衛兵さえ、憎かった。……しかし、彼らと争いになってしまったら、アドレーラの身に何があったのか、きちんと話を聞くことできないだろう。俺は必死に自分の気持ちをなだめ、なるべく落ち着いた声を出した。
「私は、ドルフレッド・レデリップ様のお屋敷で働く使用人です。イズリウム家のご当主様にお話があり、やってまいりました」
そして、レデリップ家に仕える使用人の証である身分証を提示する。
俺は、父の手伝いでレデリップ家の正門を出入りすることが多かったから、『いちいち門番に止められるのは面倒だろう』というドルフレッドさんの厚意で、使用人としての身分証と通行証を貰っていたのだ。
……実を言うと俺は、正式にレデリップ家の使用人として雇われているわけではないので、今、衛兵たちに言ったことは、半分本当で、半分嘘という感じだった。
ドルフレッドさんに貰った身分証を使って嘘をつくことに、かなりの罪悪感を覚えたが、それでも、アドレーラの身に何が起こっていたのかを確かめるためなら、俺は、どんなことでもするつもりだった。
門番たちは、身分証を凝視し、本物であることがわかると、「しばしお待ちを」と言い、屋敷の内部に連絡を取り次いだ。……しばらくして、執事と思しき、整った身なりをした初老の男性が現れ、俺に向かって恭しく礼をする。
「わたくし、イズリウム家の執事を任されております、ジョーンズと申します。申し訳ございませんが、ご当主様は現在、政務のため、王宮においでになっていらっしゃるので、ご面会はできかねます。火急のご用件でなければ、また時を改めて、こちらからご連絡いたしますと、ドルフレッド様にお伝え願えますでしょうか?」
そう思うと、間抜けな自分への怒りと、アドレーラを苦しめた『誰か』に対する憎しみで、気が狂いそうになった。
やがて、俺はイズリウム邸の正門前に到着した。
さすが、名門貴族の屋敷だ。
入口には、長い槍を持った、二人の屈強な門番がいる。
彼らは俺の姿を視界に捉えると、明らかな警戒の姿勢を取った。
無理もない。
たぶん、今の俺は、凄い形相をしているのだろう。
心の中が、怒りと憎しみで煮えかえっているからな。
このイズリウム邸の中で、一年間もアドレーラが苦しんでいたのだと思うと、門を守る衛兵さえ、憎かった。……しかし、彼らと争いになってしまったら、アドレーラの身に何があったのか、きちんと話を聞くことできないだろう。俺は必死に自分の気持ちをなだめ、なるべく落ち着いた声を出した。
「私は、ドルフレッド・レデリップ様のお屋敷で働く使用人です。イズリウム家のご当主様にお話があり、やってまいりました」
そして、レデリップ家に仕える使用人の証である身分証を提示する。
俺は、父の手伝いでレデリップ家の正門を出入りすることが多かったから、『いちいち門番に止められるのは面倒だろう』というドルフレッドさんの厚意で、使用人としての身分証と通行証を貰っていたのだ。
……実を言うと俺は、正式にレデリップ家の使用人として雇われているわけではないので、今、衛兵たちに言ったことは、半分本当で、半分嘘という感じだった。
ドルフレッドさんに貰った身分証を使って嘘をつくことに、かなりの罪悪感を覚えたが、それでも、アドレーラの身に何が起こっていたのかを確かめるためなら、俺は、どんなことでもするつもりだった。
門番たちは、身分証を凝視し、本物であることがわかると、「しばしお待ちを」と言い、屋敷の内部に連絡を取り次いだ。……しばらくして、執事と思しき、整った身なりをした初老の男性が現れ、俺に向かって恭しく礼をする。
「わたくし、イズリウム家の執事を任されております、ジョーンズと申します。申し訳ございませんが、ご当主様は現在、政務のため、王宮においでになっていらっしゃるので、ご面会はできかねます。火急のご用件でなければ、また時を改めて、こちらからご連絡いたしますと、ドルフレッド様にお伝え願えますでしょうか?」
29
お気に入りに追加
1,324
あなたにおすすめの小説
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。
反論する婚約者の侯爵令嬢。
そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。
そこへ………
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる