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第15話(ランディス視点)

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 それに、俺は何度か、アドレーラの幸福を願い、イズリウム邸の門前まで行ったことがある。……当時の俺は、目の前の立派なお屋敷で、アドレーラは大切にされて、毎日楽しく暮らしているに違いないと思っていたが、もしかしてあの時、アドレーラは屋敷の中で、壮絶ないじめにあっていたのではないだろうか。

 そう思うと、間抜けな自分への怒りと、アドレーラを苦しめた『誰か』に対する憎しみで、気が狂いそうになった。

 やがて、俺はイズリウム邸の正門前に到着した。

 さすが、名門貴族の屋敷だ。
 入口には、長い槍を持った、二人の屈強な門番がいる。

 彼らは俺の姿を視界に捉えると、明らかな警戒の姿勢を取った。

 無理もない。
 たぶん、今の俺は、凄い形相をしているのだろう。
 心の中が、怒りと憎しみで煮えかえっているからな。

 このイズリウム邸の中で、一年間もアドレーラが苦しんでいたのだと思うと、門を守る衛兵さえ、憎かった。……しかし、彼らと争いになってしまったら、アドレーラの身に何があったのか、きちんと話を聞くことできないだろう。俺は必死に自分の気持ちをなだめ、なるべく落ち着いた声を出した。

「私は、ドルフレッド・レデリップ様のお屋敷で働く使用人です。イズリウム家のご当主様にお話があり、やってまいりました」

 そして、レデリップ家に仕える使用人の証である身分証を提示する。

 俺は、父の手伝いでレデリップ家の正門を出入りすることが多かったから、『いちいち門番に止められるのは面倒だろう』というドルフレッドさんの厚意で、使用人としての身分証と通行証を貰っていたのだ。

 ……実を言うと俺は、正式にレデリップ家の使用人として雇われているわけではないので、今、衛兵たちに言ったことは、半分本当で、半分嘘という感じだった。

 ドルフレッドさんに貰った身分証を使って嘘をつくことに、かなりの罪悪感を覚えたが、それでも、アドレーラの身に何が起こっていたのかを確かめるためなら、俺は、どんなことでもするつもりだった。

 門番たちは、身分証を凝視し、本物であることがわかると、「しばしお待ちを」と言い、屋敷の内部に連絡を取り次いだ。……しばらくして、執事と思しき、整った身なりをした初老の男性が現れ、俺に向かって恭しく礼をする。

「わたくし、イズリウム家の執事を任されております、ジョーンズと申します。申し訳ございませんが、ご当主様は現在、政務のため、王宮においでになっていらっしゃるので、ご面会はできかねます。火急のご用件でなければ、また時を改めて、こちらからご連絡いたしますと、ドルフレッド様にお伝え願えますでしょうか?」
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