身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】

小平ニコ

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第7話(ランディス視点)

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 とはいえ、実際にアドレーラが嫁に行く時が近づいてきていると思うと、俺の心は思った以上に痛んだ。この地域独特の風習で、婚姻を結ぶ前に、妻となる女は、夫となる男の実家で一年間、生活を共にするのだ。……その一年が過ぎれば、アドレーラは正式に、ルーパートとやらの妻となる。

 俺は、ため息を漏らした。
 すると、アドレーラが駆け寄って来て、俺の額に、自分の額を当てる。

「どうしたの、ランディス? 熱でもあるの? 大変だわ、うちのかかりつけ医の、ズワルマー先生に診てもらいましょう」

 まったく、人の気も知らないで、子供みたいな熱の測り方をして。
 しかし、いつまでも変わることのないその純真さが、愛おしい。

 少し首を伸ばせば、触れ合うところにアドレーラの唇がある。

 本当に、少し首を伸ばすだけで……

 ……俺は、愚かな夢想を振り切り、アドレーラから離れながら、言う。

「大丈夫だよ。俺は、体だけは丈夫なんだ。きみも知ってるだろう?」

「でも、心配だわ。あなたは私の、大切なお友達だもの」

 大切なお友達……か。

 アドレーラも、彼女の父であるドルフレッド・レデリップさんも、とても温厚で、高い身分を笠に着たりしない、素晴らしい人だ。さっきも言ったが、俺の父親は、馬番――つまり、レデリップ家の使用人の一人であり、息子の俺は、時々父の仕事を手伝うため、レデリップ家に出入りしていた。その縁で、年の近いアドレーラと仲良くなったのである。

 アドレーラは生まれつき、とてものんびりとした性格だった。

 ……遊び盛りの子供というものは、のんびりした子と付き合うことを、あまり好まないものだ。それでも普通は、一人か二人、面倒見の良い子がいるものだが、近隣に、年の近い貴族の子供がほとんどいなかったせいもあってか、アドレーラには同年代の友達がまったくおらず、いつも寂しい思いをしていたらしい。

 かくいう俺も、アドレーラに出会うまで、友達らしい友達は一人もいなかった。

 以前学校で、意地の悪い同級生に『おい、馬糞臭い馬番の息子。お前も親父と同じで、糞の世話をするのか?』とからかわれ、逆上した俺は、そいつに殴りかかり、歯を折ってしまった。それ以来、『あいつは危ない奴だ』と噂になり、すっかり浮いた存在になってしまったのだ。

 父には『喧嘩なんて、つまらんことをするな。くだらない侮辱に腹を立てた方が負けなんだぞ』と叱られたし、まあ、歯まで折ったのは、少しやり過ぎたとも思う。

 しかし、親を侮辱され、拳で立ち向かったことに対しては、一切間違ったことをしたとは思っていない。大切な人をコケにされて怒らないような奴は、男じゃない。
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