19 / 19
第19話(ヴァネッサ視点)【完結】
しおりを挟む
この領地――いや、この国始まって以来の大暴動だったので、混乱の完全なる終息には数ヶ月を要し、その間に私は、当主や一族が死に絶えてしまった公爵家との関係を解消し、正式に実家に戻ることにした。
私と公爵の間に子供はいなかったので、公爵家の血筋は完全に途絶え、新しい領主が、この辺りを治めることになった。新しい領主は、公正な人物であり、それでいて、厳しい人物でもあった。前領主の間違った政策により暴動がおこったことは理解したうえで、理不尽な暴力・略奪行為をおこなった者たちは皆、厳罰に処された。
暴動が起こったのは、肌寒さを感じるようになった初冬のことだったが、時間は見る見るうちに流れ、今は春だ。混乱続きだった領地も落ち着きを取り戻し、やっと、平和な日常が戻って来たのである。
私は、今も実家で、のんびりと暮らしている。『元公爵夫人』の肩書は捨てたものではなく、私の元にはいくつか縁談がやって来たが、すべて断った。……少なくとも、もうしばらくの間は、結婚どころか、男と付き合う気など、とてもしなかったのだ。
私の自室は、二階にある。
鉄格子のない、開かれた窓。
私はそこから、正門を見下ろす。
イザベルがウェインと、楽しそうに話している。
まったく、あの二人、いつになったら関係が進展するのかしら。
一度だけ抱きしめ合っているのを見たことがあるが、口づけするまでには至っていなかったので、あの調子では、本当に、いつになったら男と女の関係になるのか、想像もつかない。
ほんと、じれったいわね。
しかし、そういう、『奥ゆかしい恋』というのも、案外良いものなのかもしれない。武骨で奥手で、だけど、心には誠実な愛を秘めた、優しい男……か。本当に、メレデール公爵とは、正反対ね。
その時だった。
ウェインがイザベルを抱きしめ、そして、突然口づけをしたのだ。……と言っても、唇にではなく、頬に軽く口づけただけなのだが。それでもまあ、あの二人にとっては、大きな進展だろう。私は思わず、ガッツポーズをした。そして、小さな声で、囁くように言う。
「おめでとう、イザベル。でも、頬にキスするだけでこれだけ時間がかかったのだから、次の段階に進むまでには、いったいどれだけかかることかしら……」
まったくもって、じれったい。
でも、そのじれったい二人が、なんだか羨ましく思える。
……私も、もうそろそろ、新しい恋を探してみようかな。
空は明るく、どこまでも自由だ。
私は久しぶりに身なりを整え、町に繰り出すことにした。
新しい出会いと、希望の未来を求めて――
終わり。
――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『事故で記憶喪失になったら、婚約者に「僕が好きだったのは、こんな陰気な女じゃない」と言われました。その後、記憶が戻った私は……』を投稿しております。
明るく元気な性格だったヒロインは、事故で記憶喪失になったことで、大人しい性格になってしまいます。彼女の婚約者は、最初は『すぐに記憶が戻るだろう』と楽観視していましたが、いつまでたっても記憶が戻らないヒロインに苛立ちを募らせ、つらく当たるようになり、とうとうお見舞いにも来なくなりました。
それから時が経ち、地道な努力の結果、記憶が元に戻ると、婚約者は手のひらを返したように、再びヒロインの元に現れます。しかし、記憶喪失の最中、彼につらく当たられたことを忘れていなかったヒロインは……
という感じのお話です!
よろしければ見てもらえると嬉しいです!
私と公爵の間に子供はいなかったので、公爵家の血筋は完全に途絶え、新しい領主が、この辺りを治めることになった。新しい領主は、公正な人物であり、それでいて、厳しい人物でもあった。前領主の間違った政策により暴動がおこったことは理解したうえで、理不尽な暴力・略奪行為をおこなった者たちは皆、厳罰に処された。
暴動が起こったのは、肌寒さを感じるようになった初冬のことだったが、時間は見る見るうちに流れ、今は春だ。混乱続きだった領地も落ち着きを取り戻し、やっと、平和な日常が戻って来たのである。
私は、今も実家で、のんびりと暮らしている。『元公爵夫人』の肩書は捨てたものではなく、私の元にはいくつか縁談がやって来たが、すべて断った。……少なくとも、もうしばらくの間は、結婚どころか、男と付き合う気など、とてもしなかったのだ。
私の自室は、二階にある。
鉄格子のない、開かれた窓。
私はそこから、正門を見下ろす。
イザベルがウェインと、楽しそうに話している。
まったく、あの二人、いつになったら関係が進展するのかしら。
一度だけ抱きしめ合っているのを見たことがあるが、口づけするまでには至っていなかったので、あの調子では、本当に、いつになったら男と女の関係になるのか、想像もつかない。
ほんと、じれったいわね。
しかし、そういう、『奥ゆかしい恋』というのも、案外良いものなのかもしれない。武骨で奥手で、だけど、心には誠実な愛を秘めた、優しい男……か。本当に、メレデール公爵とは、正反対ね。
その時だった。
ウェインがイザベルを抱きしめ、そして、突然口づけをしたのだ。……と言っても、唇にではなく、頬に軽く口づけただけなのだが。それでもまあ、あの二人にとっては、大きな進展だろう。私は思わず、ガッツポーズをした。そして、小さな声で、囁くように言う。
「おめでとう、イザベル。でも、頬にキスするだけでこれだけ時間がかかったのだから、次の段階に進むまでには、いったいどれだけかかることかしら……」
まったくもって、じれったい。
でも、そのじれったい二人が、なんだか羨ましく思える。
……私も、もうそろそろ、新しい恋を探してみようかな。
空は明るく、どこまでも自由だ。
私は久しぶりに身なりを整え、町に繰り出すことにした。
新しい出会いと、希望の未来を求めて――
終わり。
――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『事故で記憶喪失になったら、婚約者に「僕が好きだったのは、こんな陰気な女じゃない」と言われました。その後、記憶が戻った私は……』を投稿しております。
明るく元気な性格だったヒロインは、事故で記憶喪失になったことで、大人しい性格になってしまいます。彼女の婚約者は、最初は『すぐに記憶が戻るだろう』と楽観視していましたが、いつまでたっても記憶が戻らないヒロインに苛立ちを募らせ、つらく当たるようになり、とうとうお見舞いにも来なくなりました。
それから時が経ち、地道な努力の結果、記憶が元に戻ると、婚約者は手のひらを返したように、再びヒロインの元に現れます。しかし、記憶喪失の最中、彼につらく当たられたことを忘れていなかったヒロインは……
という感じのお話です!
よろしければ見てもらえると嬉しいです!
67
お気に入りに追加
1,892
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(21件)
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!
杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。
しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。
対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年?
でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか?
え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!!
恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。
本編11話+番外編。
※「小説家になろう」でも掲載しています。
妹に勝手に婚約者を交換されました。が、時が経った今、あの時交換になっていて良かったと思えています。
四季
恋愛
妹に勝手に婚約者を交換されました。が、時が経った今、あの時交換になっていて良かったと思えています。
【完結】「婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが」
まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10
私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。
エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。
エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら?
それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。
エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。
そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。
なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。
柚木ゆず
恋愛
前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。
だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。
信用していたのに……。
酷い……。
許せない……!。
サーシャの復讐が、今幕を開ける――。
婚約破棄により婚約者の薬のルートは途絶えました
マルローネ
恋愛
子爵令嬢であり、薬士でもあったエリアスは有名な侯爵家の当主と婚約することになった。
しかし、当主からの身勝手な浮気により婚約破棄を言われてしまう。
エリアスは突然のことに悲しんだが王家の親戚であるブラック公爵家により助けられた。
また、彼女の薬士としての腕前は想像を絶するものであり……
婚約破棄をした侯爵家当主はもろにその影響を被るのだった。
婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
第一夫人が何もしないので、第二夫人候補の私は逃げ出したい
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のリドリー・アップルは、ソドム・ゴーリキー公爵と婚約することになった。彼との結婚が成立すれば、第二夫人という立場になる。
しかし、第一夫人であるミリアーヌは子作りもしなければ、夫人としての仕事はメイド達に押し付けていた。あまりにも何もせず、我が儘だけは通し、リドリーにも被害が及んでしまう。
ソドムもミリアーヌを叱責することはしなかった為に、リドリーは婚約破棄をしてほしいと申し出る。だが、そんなことは許されるはずもなく……リドリーの婚約破棄に向けた活動は続いていく。
そんな時、リドリーの前には救世主とも呼べる相手が現れることになり……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
思わず、自分を省みてしもたー読み応えあったー
考え深いお話でした😃人間が堕ちる深~い穴にお姉ちゃんは弱さのせいで自分から落ちたのね😞妹を神格化した⁉️(o゚Д゚ノ)ノ人間って常に醜さと素晴らしさとのバランスで出来ている存在かも(..)(__)(´~`)素敵なお話でしたありがとうございます💕✨
面白かったです
お姉ちゃん結果的には妹のためになることしかしてないのに、自分のことを恨みもしない妹天使扱いで笑いました、妹から見たらいい姉でしかないですよ
お姉ちゃん色々拗らせてるけ基本的に素直ですよね。
感想ありがとうございます!
>お姉ちゃん色々拗らせてるけ基本的に素直ですよね。
そうなんですよ~
あまりハッキリと描写はされていませんが、あの公爵が『自分のものにしたい』と思うくらいですから、実はヴァネッサも限りなく『完璧なお嬢様』に近い存在だったのでしょう。しかし妹が、ある意味常人離れした存在であったために、心が歪んでしまったんですね~