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第18話(ヴァネッサ視点)
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本当は、イザベルに勝つとか負けるとか、公爵夫人になるとかどうとか、そんなこと、どうでも良かったんだ。私はただ、なりたかったものになれなかった鬱憤を、周囲にまき散らしていただけだったのね。
それに気がついた時、ずっと私の心を蝕んでいた淀みが、消えていくような気がした。……そして、こうも思った。私が公爵の犠牲となったことで、清らかなイザベルの人生を守ることができたのだとしたら、後悔だらけの私の人生も、決して捨てたものではないと。
……そうね。
もしかして私は、天使のようなイザベルを、おぞましい公爵から守るために、生まれてきたのかもね。ふふ、まあ、そうとでも思っておかないとやってられないから、そういうことにしておきましょう。
私は、イザベルをそっと抱きしめ、言う。
「イザベル。自分を見つめなおすのに随分時間がかかっちゃったけど、私、やっと、色々なことを受け入れることができたわ。自分の人生も、コンプレックスも、全部ね。……だからこれからは、良い姉になるわ。今までいろいろ酷いことを言って、ごめんなさい」
イザベルは、きょとんとした顔で、言葉を返す。
「どうして謝るのですか? お姉様は、いつだって、私にとって、良いお姉様でしたわ」
こいつめ。
まったく、人の気も知らないで。
私が恨んでても、心を改めても、イザベルにとっては、私は常に、『良いお姉様』なのね。参ったわ、本当に。私のような俗人は、どうやったって、こんな子にはなれない。でも、なれなくても、別にいいのだ。だって、イザベルはイザベル、私は私、比べる必要なんて、最初からなかったんだから……
・
・
・
翌日、暴動は一応の落ち着きを見せ、あからさまな略奪行為をおこなう者は、大幅に減少した。公爵への憎しみで怒り狂っていた人々も、憎悪の対象であった公爵が死に、段々と、冷静になっていったのだろう。
残念なことに、しつこく暴力行為に及ぶ民衆も多少は存在したが、そういった悪質な連中は、我に返った人々の手で、逆に痛めつけられることとなった。『人々の善意』が、『暴徒の悪意』を討ち果たしたのである。
以前私は、『人間とはそもそも、おぞましいものなのかもしれない』と述べたが、人間は、決しておぞましいだけの存在ではなく、自身の心の醜さを反省し、行動を改める理性が存在するのだ。私が、自分の心の浅ましさを認め、イザベルを『大切な妹』だと思えるようになったみたいに……
そしてとうとう、町からは、一人の暴徒もいなくなった。
長い悪夢が、やっと終わったような気分だった。
それからしばらくは、混乱した領地をまとめるために、国王陛下の派遣した軍隊と重臣たちが、あれこれと事後処理に当たることになった。
それに気がついた時、ずっと私の心を蝕んでいた淀みが、消えていくような気がした。……そして、こうも思った。私が公爵の犠牲となったことで、清らかなイザベルの人生を守ることができたのだとしたら、後悔だらけの私の人生も、決して捨てたものではないと。
……そうね。
もしかして私は、天使のようなイザベルを、おぞましい公爵から守るために、生まれてきたのかもね。ふふ、まあ、そうとでも思っておかないとやってられないから、そういうことにしておきましょう。
私は、イザベルをそっと抱きしめ、言う。
「イザベル。自分を見つめなおすのに随分時間がかかっちゃったけど、私、やっと、色々なことを受け入れることができたわ。自分の人生も、コンプレックスも、全部ね。……だからこれからは、良い姉になるわ。今までいろいろ酷いことを言って、ごめんなさい」
イザベルは、きょとんとした顔で、言葉を返す。
「どうして謝るのですか? お姉様は、いつだって、私にとって、良いお姉様でしたわ」
こいつめ。
まったく、人の気も知らないで。
私が恨んでても、心を改めても、イザベルにとっては、私は常に、『良いお姉様』なのね。参ったわ、本当に。私のような俗人は、どうやったって、こんな子にはなれない。でも、なれなくても、別にいいのだ。だって、イザベルはイザベル、私は私、比べる必要なんて、最初からなかったんだから……
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翌日、暴動は一応の落ち着きを見せ、あからさまな略奪行為をおこなう者は、大幅に減少した。公爵への憎しみで怒り狂っていた人々も、憎悪の対象であった公爵が死に、段々と、冷静になっていったのだろう。
残念なことに、しつこく暴力行為に及ぶ民衆も多少は存在したが、そういった悪質な連中は、我に返った人々の手で、逆に痛めつけられることとなった。『人々の善意』が、『暴徒の悪意』を討ち果たしたのである。
以前私は、『人間とはそもそも、おぞましいものなのかもしれない』と述べたが、人間は、決しておぞましいだけの存在ではなく、自身の心の醜さを反省し、行動を改める理性が存在するのだ。私が、自分の心の浅ましさを認め、イザベルを『大切な妹』だと思えるようになったみたいに……
そしてとうとう、町からは、一人の暴徒もいなくなった。
長い悪夢が、やっと終わったような気分だった。
それからしばらくは、混乱した領地をまとめるために、国王陛下の派遣した軍隊と重臣たちが、あれこれと事後処理に当たることになった。
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