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第16話(ヴァネッサ視点)
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阿鼻叫喚の町を歩きながら、私は思った。
私の家は、大丈夫かしら――
このあたりの立派な家は、民衆の妬みを買い、ほぼ例外なく襲撃されている。
ならば当然、すぐ近くにある私の家も、暴徒の襲撃を受けているはずだ。
だって私の家は、この区域で最も立派な門構えの、豪邸なのだから。
お父様、お母様、そしてイザベルは、無事かしら……
家族のことを思うと、心配で心配で、胸が張り裂けそうだった。
自分でも、意外だった。
お父様やお母様はともかくとして、大嫌いだったイザベルのことまで、心配に思うなんて。……きっと、長く離れていたから、そう思うのね。それに、軟禁されてからは、人間らしい扱いを受けていなかったから、誰よりも優しいイザベルのことが、なんだか、たまらなく懐かしい。
……今にして思えば、私は何故、あれほどイザベルを憎んだのだろう。
『優秀な妹に対する単なる嫉妬心』という言葉で片づけるには、私はあまりにも、あの子に執着しすぎていた。自暴自棄になって、イザベルの婚約者を奪おうとしたくらいに。
残酷な略奪の光景から目を背けるように、一生懸命考えたが、イザベルを憎んだ理由は、どうしても分からなかった。
・
・
・
そして私は、実家に到着した。
そこには、信じられないような光景が広がっていた。
無傷。
なんと、実家は、まったくの無傷だったのだ。
私を送り届けてくれた男が、感心したような声を上げる。
「ほお、あんたの家、周りの連中から随分と慕われてたんだな。これほど町全体が混乱した状況で、まったく略奪を受けてないなんて、相当すごいことだぜ」
確かに、お父様もお母様も、周囲の人間たちから慕われていた。
イザベルの信奉者は、もっと多い。
少なくとも、顔見知りの人間で、私の家族を襲うような『ひとでなし』はいないだろう。しかし今は、領地全土を巻き込んだすさまじい暴動なのだ。どこか他の地区から流れてきた暴漢が家を襲っていても、おかしくないと思うのだが……
その時、正門の陰から、巨大な影がぬらりと出てきた。
私は一瞬、身構える。
そして、すぐに警戒を解いた。
出てきたのが、うちで長年門番をしている、あのウェインだったからだ。
異常な乱痴気騒ぎの中、古くから知っている顔に出会えたというだけで、涙がにじむほど嬉しい。私は掠れた声で、ウェインの名を呼んだ。ウェインは、突然私が帰って来たことに驚き、それから、丁寧に頭を下げ、言う。
「ヴァネッサお嬢様、よくご無事で……! メレデール公爵の館が襲撃されたと聞いて、心配していたのですが、この屋敷にも多数の暴漢がやって来たので、正門を離れるわけにはいかなかったのです。助けに行けず、申し訳ありません」
私の家は、大丈夫かしら――
このあたりの立派な家は、民衆の妬みを買い、ほぼ例外なく襲撃されている。
ならば当然、すぐ近くにある私の家も、暴徒の襲撃を受けているはずだ。
だって私の家は、この区域で最も立派な門構えの、豪邸なのだから。
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自分でも、意外だった。
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無傷。
なんと、実家は、まったくの無傷だったのだ。
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「ほお、あんたの家、周りの連中から随分と慕われてたんだな。これほど町全体が混乱した状況で、まったく略奪を受けてないなんて、相当すごいことだぜ」
確かに、お父様もお母様も、周囲の人間たちから慕われていた。
イザベルの信奉者は、もっと多い。
少なくとも、顔見知りの人間で、私の家族を襲うような『ひとでなし』はいないだろう。しかし今は、領地全土を巻き込んだすさまじい暴動なのだ。どこか他の地区から流れてきた暴漢が家を襲っていても、おかしくないと思うのだが……
その時、正門の陰から、巨大な影がぬらりと出てきた。
私は一瞬、身構える。
そして、すぐに警戒を解いた。
出てきたのが、うちで長年門番をしている、あのウェインだったからだ。
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「ヴァネッサお嬢様、よくご無事で……! メレデール公爵の館が襲撃されたと聞いて、心配していたのですが、この屋敷にも多数の暴漢がやって来たので、正門を離れるわけにはいかなかったのです。助けに行けず、申し訳ありません」
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