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第14話(ヴァネッサ視点)

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 そんなみじめな日々が一年ほど続いたある日。
 何の前触れもなく、牢獄は壊れた。

 民衆が、夫に対して反乱を起こしたのだ。

 以前、私はこのようなことを言った。

『夫は、裏ではそれなりにあくどいことをやっているのだが、それをごまかすのが上手く、夫に深い恨みを抱いているような者は、あまりいない』と。

 あまりいない――

 それは、言い換えれば、『少しはいる』ということである。その、『少しはいる』夫の敵が、民衆を巧妙に扇動し、大暴動を引き起こしたのだ。

 軟禁状態で、外の情報がわずかしか入らない私は知らなかったのだが、今年は記録的な不作で、まともな収入を得ることができなかった農民がほとんどだったらしい。それなのに、税率は例年通りだったので、農民たちは非常に大きな不満を抱いていたそうだ。

 不満を抱いていたのは、商人も同じである。

 領民の大多数を占める農民が困窮すれば、誰も商店で買い物などしない。何らかの商業振興策が必要だったのに、夫は有効な解決策を提示せず、それどころか、満足に税を納めることのできない農民の代わりに、商人から取る税を引き上げてしまったという。

 結果、夫は、農民からも、商人からも、大きく恨まれることになった。
 積もり積もった火薬のようなその恨みが、扇動によって着火され、凄まじい暴動へとつながったのである。

 税率の件も、商業振興策の件も、『美しき公爵』として、大衆の心理を操作するのが上手な夫にしてはめずらしい、明らかなる政策のミスだった。

 恐らく、長きにわたる安穏とした領地支配と、『自分は領民に慕われている』という過信が、そうさせたに違いない。……夫は、見た目は美しいが、その内面は、醜悪で欲深いケダモノだ。税収が下がってしまうのが、どうしても嫌だったのだろう。

 たったいま述べたばかりだが、夫は、『自分は領民に慕われている』と過信していたので、私兵はほとんど雇っておらず、屋敷の警備も、非常に甘かった。

 その、警備の甘い屋敷に、暴徒と化した民衆がなだれ込んだ。

 わずかだが、屋敷を守っていた衛兵は、鋭い農具を構えた何十人もの農民たちを前にして、一瞬で民衆側に寝返った。……彼らには、忠誠心など存在しない。だって、内心では、夫のことが嫌いだったのだから。

 見てくれだけは美しいが、色狂いで、人を『物』としか見ない男。
 近くにいればいるほど、夫の醜悪さは、よくわかる。
 そんな男が、衛兵たちに慕われるはずがない。

 夫は、怒り狂った民衆たちによって屋敷から引きずり出され、顔の形が変わるほど暴行された挙句、大木に吊るされた。赤黒く膨らんだ、不気味な果実のようになってしまった顔には、かつての『美しき公爵』の面影は、一切なかった。
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