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第7話(ヴァネッサ視点)

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 そして、イザベルの婚約が決まったとき、私の苛立ちは頂点に達した。

 なんとイザベルは、この地域一帯を治める『美しき公爵』メレデール様に見初められたのである。……その事実は、私の姉としてのプライドを、粉々に打ち砕いた。

 私は容姿、性格、能力、あらゆる面でイザベルより劣っているが、それでも、幼いころから、小貴族の長男と許嫁を結んでおり、結婚相手の格では、イザベルを上回るに違いないと、思っていた。それだけが、私の心の支えだった。

 それがまさか、公爵様と婚約だなんて、ふざけるにもほどがある。

 田舎のしょぼい貴族との婚約関係を心の支えにしていた私なんて、カス同然じゃない。自分がみじめでみじめで、そして、イザベルが妬ましくて、私は気が狂わんばかりだった。

 そんなある日のこと。
 イザベルの婚約者であるメレデール公爵が、うちを訪れた。

 彼の、涼やかで、美しすぎる姿に、私は一瞬で心を奪われた。

 悔しい……
 こんなに綺麗で、地位も名誉も権力も財力も持っている男と、イザベルが一緒になるなんて……

 神様は不公平だわ。
 何でイザベルばっかり、特別扱いするのよ。

 天候が急に悪くなったため、馬車が出せず、うちに泊まることになった公爵様を寝室に案内しながら、私は悔しさのあまり、涙をにじませた。

 ……私はその夜、荒れた。

 一人、自室にて、荒れて、荒れて、飲んで、飲んで、いったいワインを何本開けたのか、はっきり覚えていないほどである。泥酔し、ヤケクソになった私は、乱れた寝間着で、先程案内した公爵様の寝室を訪れた。

 私とて、本気で、彼を誘惑できると思っていたわけではない。

 ただ、私のように、ふしだらで、見苦しくて、酒乱の姉がいるということを知れば、公爵様もイザベルとの婚約を考え直すかもしれないと、そう思ったのだ。……ほんの少しでもいいから、イザベルの、完璧で美しい人生に、傷をつけてやりたかった。

 だが、驚くべきことに、公爵様は私を拒まなかった。それどころか、まるで私が訪ねてくることを待っていたかのように、貪欲に私を求めた。彼の腕に抱かれながら、私の胸は、『生まれて初めて妹に勝利した』という愉悦で満たされた。

 閉じた目に浮かぶのは、イザベルの悲しむ顔。
 閉じた目に浮かぶのは、イザベルの悔しがる顔。
 閉じた目に浮かぶのは、イザベルの怒りに歪んだ顔。

 どれも、今まで、一度も見たことのない顔だ。
 あの子、いつも悠然と構え、ニコニコと笑っているだけだからね。

 あはっ。
 あはっ。
 あはっ。

 ざまあみろ。
 ざまあみろ。
 ざまあみろ。
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