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scene30 夏の音、いたずらな風
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山本さんはコップを手に取ると、その小さな口にあてた。
ごくんごくんと二口飲むと、ちゃぶ台に戻した。
「ふぅ。美味しいですー」
と、グラスの中にまだ麦茶は半分以上も残っているのに、満足そうに笑った
僕らはスーパーの買い出しを終えて家に戻ってきている。
食材を冷蔵庫に入れ荷物を片付け、部屋着に着替えたところだ。
僕は黒いTシャツに紺の短パン。
山本さんは白いTシャツに、やわらかそうな薄いオレンジ色のショートパンツだ。
居間のちゃぶ台には水滴の滴る氷入りのグラスが二つ。
首を振る扇風機の風が心地よい。
「お買い物、楽しかったですー」
山本さんが弾む声を出した。
「普通のスーパですみません」
その笑顔に僕はなんだか申し訳ない気持ちになる。
うーん。
もっと、おしゃれなところの方が良かったかも。
今度の土日にでも隣の大きな駅にでも行ってみようか。
そんなことを考えていると、山本さんは、
「そんなことないですよー。今日のスーパーは昨日のところと違っていましたし」
と、楽しそうに笑った。
「とはいっても、生活用のスーパーですよ?」
僕は自身の気持ちにひっぱられるまま話す。
しかし山本さんは、
「はいっ」
と、元気のいい返事を返してくれる。
そして、
「日本で暮らしていくんだなって強く感じられましたー」
と、一層笑顔になった。
ふむ。
そんなものなのかな。
この楽しそうな笑顔を見ていると、僕まで山本さんの楽しい気持ちのお裾分けをもらったように感じる。
「山本さんが楽しいなら良かったです」
と、僕は麦茶を口に流し込んだ。
「今日もゆーとさんと初体験をしてしまいましたー」
おおぉ!?
咳き込む僕。
「あれ?」
山本さんの顔がみるみるうちに赤くなっていき、
「間違えましたっ。間違いです間違い。今のは無しで」
と、両手を顔の前に伸ばしぶんぶんと左右に振った。
「山本さんー」
僕は思わず笑ってしまう。
「失敗してしまいした」
と、山本さんも恥ずかしそうに笑った。
扇風機の風が山本さんの首筋にかかると、ブラウンの髪が揺れて舞い上がった。
麦茶が空になった僕のコップが、カランと涼しげな音をたてた。
「あ、そうでした」
山本さんは顔をあげると、
「ちょっと待っていてくださいー」
と、立ち上がり、とたとたと部屋へ戻った。
残された僕は、汗をかいたグラスに麦茶をたす。
氷がくるっと回って、また涼しげな音をたてる。
夕方と呼ぶにはまだちょっと陽が高い。
縁側に差し込む陽光が布団を優しく膨らませている。
風が庭の木の間を抜けると、葉が揺れ談笑するような音を奏でた。
セミは相変わらず、声の大きさを競っている。
「見てくださいー」
声とともに、山本さんの部屋の襖が開いた。
山本さんが立っていた。
制服姿だった。
「どうですかー?」
と、山本さんは腰に手をあてた。
白い半袖のブラウスに、胸元には赤いリボン、クリーム色のベストを着ている。
無造作に腰に右手をあてているだけなのに、そのスタイルはモデルのように見えてしまう。
「嬉しくて着てみちゃいましたー」
と、ちゃぶ台の向こう側で、山本さんはくるっと回った。
グレーのスカートの裾が広がり、際どいところまで見えそうになる。
おぉうっ?
僕はあぐらをかいて座っているわけで。
ちょっと覗きあげるような角度になってしまうわけで。
僕は思わず目をそらす。
「もーぅ。ゆーとさん、ちゃんと見てくださいよー」
山本さんは頬を膨らました。
僕の視線が山本さんに移るのを確かめると、
「日本の制服可愛いですよねー」
と、もう一度その場でくるりと回った。
座っている僕はどうしても下からの視線になってしまうわけで。
もちろん見えないよ?
見えないのは見えないけど白い太ももまでがちょっと覗けてしまうわけで。
「ね、ね。変なところはないですか?」
……返事に困る僕。
「ちゃんと可愛く着られています?」
……またもや返事に困る僕。
「もぅ。ゆーとさぁん」
……あのですね、男子高校生にそういうの求められても困るものなのですよ。
「ゆーとさん……わたし似合ってませんか?」
山本さんは顔をちょっと曇らせた。
「いえ、とても似合ってます」
と、返答するものの平凡な言葉しか選ぶことができない。
「本当ですかー?」
と、山本さんは今度は腕を後ろに組んで、少し屈んだ。
そして無邪気に僕の顔をまじまじと見る。
「はい」
と、僕もなんだか楽しくなってきて応える。
続けて、山本さんも、
「可愛く着ることができていますか?」
と、嬉しそうに首を傾け質問するから、僕も、
「はい」
と、テンポ良く返した。
すると山本さんは、もっと柔らかい顔になって、
「なんて、すみません。ゆーとさんに言わせちゃいましたねー」
と、本当に楽しそうに笑った。
「日本の制服に憧れていたのですー」
そして、山本さんはちゃぶ台の横を歩くと僕の側にきた。
「もっと楽しみな明日になりました」
と言うと、またくるりと回った。
目の前で、スカートが広がり浮かび上がった。
目のやり場に困り一瞬下を向く。
それでも続けて山本さんが、
「ゆーとさんっ!ゆーとさんっ!」
と、僕の名前を連呼して、
「本当に学校が楽しみですー」
と、元気よく言うので、僕は顔をあげて、
「そうですね」
と、応えた。
二人して笑顔になる。
やっぱり誰かいるっていいなあ。
セミの声は相変わず鳴り止まない。
小枝や葉のささやきが時折聞こえてくる。
扇風機のモーター音さえ心地よく響く。
山本さんは、もう一度元気な笑みをまく。
そして、嬉しそうに、
「楽しみですー」
と、またくるっと回ってスカートを泳がせた。
庭の木々が少し騒ぎ、扇風機の風と同時に僕の顔をなでた。
そして……。
その風は、山本さんの広がったスカートを、おへその位置までまくり上げたのでした。
ごくんごくんと二口飲むと、ちゃぶ台に戻した。
「ふぅ。美味しいですー」
と、グラスの中にまだ麦茶は半分以上も残っているのに、満足そうに笑った
僕らはスーパーの買い出しを終えて家に戻ってきている。
食材を冷蔵庫に入れ荷物を片付け、部屋着に着替えたところだ。
僕は黒いTシャツに紺の短パン。
山本さんは白いTシャツに、やわらかそうな薄いオレンジ色のショートパンツだ。
居間のちゃぶ台には水滴の滴る氷入りのグラスが二つ。
首を振る扇風機の風が心地よい。
「お買い物、楽しかったですー」
山本さんが弾む声を出した。
「普通のスーパですみません」
その笑顔に僕はなんだか申し訳ない気持ちになる。
うーん。
もっと、おしゃれなところの方が良かったかも。
今度の土日にでも隣の大きな駅にでも行ってみようか。
そんなことを考えていると、山本さんは、
「そんなことないですよー。今日のスーパーは昨日のところと違っていましたし」
と、楽しそうに笑った。
「とはいっても、生活用のスーパーですよ?」
僕は自身の気持ちにひっぱられるまま話す。
しかし山本さんは、
「はいっ」
と、元気のいい返事を返してくれる。
そして、
「日本で暮らしていくんだなって強く感じられましたー」
と、一層笑顔になった。
ふむ。
そんなものなのかな。
この楽しそうな笑顔を見ていると、僕まで山本さんの楽しい気持ちのお裾分けをもらったように感じる。
「山本さんが楽しいなら良かったです」
と、僕は麦茶を口に流し込んだ。
「今日もゆーとさんと初体験をしてしまいましたー」
おおぉ!?
咳き込む僕。
「あれ?」
山本さんの顔がみるみるうちに赤くなっていき、
「間違えましたっ。間違いです間違い。今のは無しで」
と、両手を顔の前に伸ばしぶんぶんと左右に振った。
「山本さんー」
僕は思わず笑ってしまう。
「失敗してしまいした」
と、山本さんも恥ずかしそうに笑った。
扇風機の風が山本さんの首筋にかかると、ブラウンの髪が揺れて舞い上がった。
麦茶が空になった僕のコップが、カランと涼しげな音をたてた。
「あ、そうでした」
山本さんは顔をあげると、
「ちょっと待っていてくださいー」
と、立ち上がり、とたとたと部屋へ戻った。
残された僕は、汗をかいたグラスに麦茶をたす。
氷がくるっと回って、また涼しげな音をたてる。
夕方と呼ぶにはまだちょっと陽が高い。
縁側に差し込む陽光が布団を優しく膨らませている。
風が庭の木の間を抜けると、葉が揺れ談笑するような音を奏でた。
セミは相変わらず、声の大きさを競っている。
「見てくださいー」
声とともに、山本さんの部屋の襖が開いた。
山本さんが立っていた。
制服姿だった。
「どうですかー?」
と、山本さんは腰に手をあてた。
白い半袖のブラウスに、胸元には赤いリボン、クリーム色のベストを着ている。
無造作に腰に右手をあてているだけなのに、そのスタイルはモデルのように見えてしまう。
「嬉しくて着てみちゃいましたー」
と、ちゃぶ台の向こう側で、山本さんはくるっと回った。
グレーのスカートの裾が広がり、際どいところまで見えそうになる。
おぉうっ?
僕はあぐらをかいて座っているわけで。
ちょっと覗きあげるような角度になってしまうわけで。
僕は思わず目をそらす。
「もーぅ。ゆーとさん、ちゃんと見てくださいよー」
山本さんは頬を膨らました。
僕の視線が山本さんに移るのを確かめると、
「日本の制服可愛いですよねー」
と、もう一度その場でくるりと回った。
座っている僕はどうしても下からの視線になってしまうわけで。
もちろん見えないよ?
見えないのは見えないけど白い太ももまでがちょっと覗けてしまうわけで。
「ね、ね。変なところはないですか?」
……返事に困る僕。
「ちゃんと可愛く着られています?」
……またもや返事に困る僕。
「もぅ。ゆーとさぁん」
……あのですね、男子高校生にそういうの求められても困るものなのですよ。
「ゆーとさん……わたし似合ってませんか?」
山本さんは顔をちょっと曇らせた。
「いえ、とても似合ってます」
と、返答するものの平凡な言葉しか選ぶことができない。
「本当ですかー?」
と、山本さんは今度は腕を後ろに組んで、少し屈んだ。
そして無邪気に僕の顔をまじまじと見る。
「はい」
と、僕もなんだか楽しくなってきて応える。
続けて、山本さんも、
「可愛く着ることができていますか?」
と、嬉しそうに首を傾け質問するから、僕も、
「はい」
と、テンポ良く返した。
すると山本さんは、もっと柔らかい顔になって、
「なんて、すみません。ゆーとさんに言わせちゃいましたねー」
と、本当に楽しそうに笑った。
「日本の制服に憧れていたのですー」
そして、山本さんはちゃぶ台の横を歩くと僕の側にきた。
「もっと楽しみな明日になりました」
と言うと、またくるりと回った。
目の前で、スカートが広がり浮かび上がった。
目のやり場に困り一瞬下を向く。
それでも続けて山本さんが、
「ゆーとさんっ!ゆーとさんっ!」
と、僕の名前を連呼して、
「本当に学校が楽しみですー」
と、元気よく言うので、僕は顔をあげて、
「そうですね」
と、応えた。
二人して笑顔になる。
やっぱり誰かいるっていいなあ。
セミの声は相変わず鳴り止まない。
小枝や葉のささやきが時折聞こえてくる。
扇風機のモーター音さえ心地よく響く。
山本さんは、もう一度元気な笑みをまく。
そして、嬉しそうに、
「楽しみですー」
と、またくるっと回ってスカートを泳がせた。
庭の木々が少し騒ぎ、扇風機の風と同時に僕の顔をなでた。
そして……。
その風は、山本さんの広がったスカートを、おへその位置までまくり上げたのでした。
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