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scene22 魚が地味な大阪の馴染み

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「そ、そうだよね、あは、あはは」
 知香はいろいろな方面に引け目を感じたのだろう、強引に笑顔を作って返している。
 
 全く。
 早とちりにしても爆速過ぎじゃないか?
 
 とは言っても、山本さんが大リーガー並みのストレートでセリフを放ったのが原因なのだけれど。
 
 知香は知香でそんな剛速球を真正面で受け止めて。
 さすがの運動神経というべきか。
 高校入学早々、部活のハンドボールでレギュラーになっただけあるな。っていうか、そんなキャッチング上手なら彼氏野球をすればいいのに。
 
 山本さんは山本さんで“一緒に寝る”ということが、そういう意味で捉えられるということを知って、顔を真っ赤にしている。
 
 一同納得した僕らだけど、三者三様で何だかいたたまれない気持ちになっている。
 結果としては全員敗者だ。
 まあ、勝ち負けなんてないけどね。
 
「ま、確かに優人が言ったように、しばらくは一緒に住んでいることは内緒にした方がいいかもね」
 と、知香が取り直してアドバイスをする。
 
 うん。
 積極的にそう思う。
 とにかく僕は注目が集まるのは避けたいし。
 
 山本さんは素直にうなずく。
「はいそうします」
 
「でも、そうなんだー。すずばあちゃんのお手紙を頼りにきたんだね」
 事情を知った知香は、話すことでいろいろ整理をしている。
 
「わたしも優人とは親戚みたいなものかな。保育園からの友だちなんだ」
「保育園からの、ですか?」
「うん。たまたまなんだけど。うちの母の家政婦としての働き先が、おばあちゃんと二人暮らしの優人の家だったのよ」
「そうなんですか」
「すずばあちゃんって書道教えていたから留守にすること多かったし。で、遊び相手としてわたしも保育園終わったあととか、優人の家にお邪魔していたの」
 
 二人は学校へと足を進めながら、話に華を咲かせている。
 
「小さい頃からの仲良しなのですね」
「そう。幼なじみってやつ」
「おさな……じみ?」
「ううん、幼なじみ」
「おさなななじみ?ですか?」
「うん?“な”が多いよ?」
「おさなじみ?あれ?」
 
 同じ音が続くと、うまく言えない子どもとか、いたよなあ。
 そんな場面でも、山本さんは可愛く見えるから不思議だ。
 
「お、さ、な、な、じ、み」
 知香は口を大きく動かし一音一音区切って話しかけた。
 その口元を真剣にみていた山本さんは、
「お、さ、な、な、じ、み」
 と、間違わずに繰り返した。
 
「そうそう。幼なじみ。小さい頃からの友だちって意味」
「そうなのですね……。日本語難しいです」
 と、山本さんは少し元気が薄れたような表情をした。
 
「まあ、久々の日本だものね。上手く話せないこともあるわよ。わたしだって英語なんか全然だめだし。一緒ね」
「ありがとうございます。それで高校までもご一緒なのですか?」
「そうなの。まあわたしがこの高校に誘ったようなものね」
 
 まてまて。
「違うぞ、知香」
 と、僕は会話に割って入った。
 
「えーだって、そうじゃない?じゃあ大介がわたしを誘った?」
「元々ここが僕の志望校だったの知っているだろ?」
「そぅお?わたしは優人を結構一生懸命誘ったつもりだったけど」
 知香は得意顔で僕に言い返す。
 
「あの、その、お二人はお…き合いを」
 
 山本さんが何か言っているけど、知香はお構いなく続ける。
 
「だって、本当じゃない。私が誘ったのは」
「うるさいなー、知香」
「なによ。そっちこそ、認めないとか男らしくないし」
 
「あの、その、喧嘩はいけないと思うのです」
 山本さんが会話に加わる。
「ねー。いつからこんなに、ひねくれちゃったんだろうねえ」
 知香はすかさず、文脈を無視してその言葉に上乗せする。
 
「ゆーとさんは、ひねくれているのですか?」
「昔は一緒にサッカーしたり、素直な子だったんだけどね」
  
 全く。
 どこまで、マイナスな言葉を追加すれば気が済むんだろう?
 
「ひねくれているとか、いいすぎだろ?」
「だって優人って、テストとか宿題とか、そうじゃない」
「人の生き方なんだからほっとけ」
 とか馬鹿話をしていると、学校の門を過ぎた。
 
「あ、わたしは職員室に行かないといけないのです」
「職員室ならそこの正面玄関入ってすぐ右だから」
 知香がすぐに案内する。
 こういう優しさもあるヤツなんだよなあ。
 
「ありがとうございます。ではここまでで」
 山本さんは、別方向に歩き出した。
 と、思ったら振り返って、こう言った。
「それにしても、お二人は仲良くて羨ましいです。良いですね……おさかなじみ」
 
 ん?
 川魚とかの方が好きなのかな?
 なんだか、熱帯魚みたいな魚の反対を指す言葉が聞こえなかった?
 
 
 
 
 
 
 もしくは、浪速に染まりたいのかな?
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