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044 気持ちの変化
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「それって、どういうこと? 親に反対されているの?」
シンシアが、リリーが言った意味がわからなかったようで再度訊ねてくる。リリーは、話をするかどうか迷ってしまう。
自分のあれこれを話して、嫌われたらどうしようという気持ちが少なからずある。それと同時に、同じ年代の子が自分のことを知ったらどんな風に感じるのか興味もあった。
「ねえ、シンシア。私に子供がいるって言ったら、信じられる?」
リリーは、思い切って聞いてみる。シンシアの反応を観察した。彼女は、瞳を見開いて、え? と驚いていた。
「それって、すでにリリーは結婚しているってこと?」
シンシアは、とても不思議そうだ。
「結婚はしていないの。非公式な存在だったから……」
リリーは、声を落として俯きがちに言う。シンシアは、想定外の内容で眉間に皺が寄っている。やはり嫌な気分にさせただろうか? と彼女の顔色を窺った。
「それって、つまり……。俗に言う愛人ってやつ?」
シンシアが控えめに訊ねる。聞いて良いことなのか計りかねているようだった。
「そう……。でも、今は違うよ。目が覚めて、自立したくてここにいるの」
リリーは、腰かけていたベンチの正面を見据える。目を背けたくなる過去があるけれど、今はリリーなりに頑張っているところなのだ。それは、シンシアにもわかってもらいたい。
「そうなんだ……。みんな色々あるんだねー。あっ、でもだから恋をしてもいいのかってなるのか……」
シンシアが、とても納得したように一人頷いている。リリーは、何も言わずにシンシアの反応を見ていた。
嫌われるのが怖いと思っていたが、今のところそんな兆しはない。
「うーん。意外にリリーの方が経験豊富だとは……ちょっとショック……」
シンシアが、リリーが思っていなかった部分を気にしている。
「ねえ、シンシア。それ、ちょっと失礼なんじゃ……」
リリーは、可笑しくって笑ってしまう。もしかしたら、初々しい恋愛の話を期待していたのかもしれない。
他の人からみると、リリーは年齢よりも幼く見えるみたいだから……。
「ごめん……。私、別に今好きな人が初恋って訳ではないんだけど……でも今まで、恋愛経験ってそんなになくて……。リリーもそう見えたから、同類同士話ができるかと思っていた訳……」
シンシアが、ちょっと恥ずかしそうに俯いている。
「こんな話になる方が珍しいだろうしね……。嫌いになる?」
リリーが、恐る恐る訊ねる。
「えっ? 何で? ならないよ。そりゃー、リリーのこと全く知らなくてそういう人がいるんだって聞かされたらちょっと色眼鏡で見ちゃったかもしれないけど……。もうリリーのこと知っているし、同じくらい医学のこと勉強してて頑張っているんだもん。悪い人とか嫌だとか、それだけで判断できる訳ないよ」
シンシアが、必死に否定してくれる。リリーをちゃんと見て、嫌わないでいてくれることが本当に嬉しかった。
「ありがとう。そう言ってくれて救われる。自分じゃもう、過去の行いはなかったことにできないから……。後悔ばっかりだよ」
リリーが、諦めたように寂しく呟く。
「でもさ、人生って長いから、また誰かを好きになることもあるよ。私が偉そうなこと言うなって感じだけど……。いいよ別に。一生懸命生きているんだもん。ご褒美あったっていいじゃんよ」
シンシアは、無邪気に笑顔を向ける。リリーは、シンシアに言ってもらえて何だかとても心が清々しい。
もう、愛されることが怖かった。グレンを思い出すと、何とも言えない恐怖心が襲う。だけど、ダニエルは違うのだ。
最初からリリーを、一番に想って行動してくれた。ダニエルのことを思い浮かべると、優しい気持ちに包まれる。だから、彼からの愛が怖いなんて想像ができなない。
愛し方って、人それぞれ色んな方法があるのだと最近思うようになった。愛の形が色々あって、上手く組み合わせることができる者同士が結ばれる。そんな風に思えるようになった。
「ありがとうシンシア。でもまずは、イーストリー学園を無事に卒業する!」
リリーは、拳を握って気合を入れる。
「恋愛が優先じゃない辺りが、リリーらしいよね。私もそうなんだけど!」
シンシアが、苦笑いを浮かべつつ後半は諦めたように強調する。
「じゃあ、ちょっとさっきの授業の質問なんだけど……」
リリーは、さっきわからなかったことを早速シンシアに訊ねる。シンシアは、え? 今から? と若干ゲンナリしていたがお互い真面目なので丁寧に教えてくれた。
この日以降シンシアとは、貴族、平民の垣根を越えて結びつきを強くした。
◇◇◇
イーストリー学園に通い出してもうすぐ三カ月が経とうとしていた。シンシアとは、相変わらず仲良くしている。
休日の日も、シンシアと一緒に勉強をするほどだ。心配していた定期テストは、問題ない点数を取り続けている。
授業料免除の対象の生徒は、本当にごくわずかの生徒のみ。先生たちからも、よく頑張っているとリリーは褒められていた。
そしてダニエルは、まめに手紙を送ってくれた。内容は、バーバラにリリーの手紙を渡した報告やヴォリック国の天気や食べた物の感想など。いつも、生活していて気になったことをこまめに書いていた。
一番リリーがびっくりしたのは、ダニエルとバーバラが会って話をしたことだった。
アレンには会えなかったそうだが、バーバラもアレンも元気にしていると書いてあった。リリーが学園で頑張っていると話をしてくれたそうで、バーバラもとても喜んでいたらしい。
リリーは心から安心した。リリーの心配事と言えば、バーバラとアレンなのだ。二人が元気にしていることが一番の願いだ。
手紙の数が積み重なっていくたびに、リリーの気持ちにも変化が生まれていた。ダニエルからの手紙が、毎日の楽しみになっていった。
リリーも忙しい勉強の合間に、手紙の返事だけは欠かさずに書いた。その手紙をダニエル喜んでくれて、これのお陰で仕事が頑張れるとあった。
リリーは、手紙からもダニエルの愛情を常に感じていた。シンシアと恋愛の話をして、自分の中にある気持ちに気づいた。
たぶん自分は、ダニエルに恋をしている。できることなら、リリーの愛する気持ちをダニエルに届けたいとまで思っている。
こんな風に愛してくれるダニエルとなら、誠実に愛を育めるだろうという信頼もある。
でも、やはりあと一歩足りないと思うのだ。今はまだ早いと。
リリーが無事にイーストリー学園を卒業して、ダニエルの役にたつ自分になりたい。そうなれたら、きちんと気持ちを伝えたい。
もちろん、アレンのことをこのままにはできない。だから気持ちを伝えることと、アレンのことをどうしたらいいのか相談するのはセットになってしまう……。
こんな都合の良い自分でいいのか疑問だ。でも、ダニエルは我儘になっていいって言ってくれた。
きっと、誠実に愛し合うって自分の負の部分もさらけ出すことなんだ。それを相手が受け止めてくれないなら、きっと諦めたほうがいい。リリーは、それができなかったから破綻した。
今度は、上手く行かない覚悟もする。一人になっても、生きていける術も自分にある。この人がいないと駄目だとか、自分がいないと駄目なんだっていう依存関係ではない対等な関係を築きたい。
シンシアが、リリーが言った意味がわからなかったようで再度訊ねてくる。リリーは、話をするかどうか迷ってしまう。
自分のあれこれを話して、嫌われたらどうしようという気持ちが少なからずある。それと同時に、同じ年代の子が自分のことを知ったらどんな風に感じるのか興味もあった。
「ねえ、シンシア。私に子供がいるって言ったら、信じられる?」
リリーは、思い切って聞いてみる。シンシアの反応を観察した。彼女は、瞳を見開いて、え? と驚いていた。
「それって、すでにリリーは結婚しているってこと?」
シンシアは、とても不思議そうだ。
「結婚はしていないの。非公式な存在だったから……」
リリーは、声を落として俯きがちに言う。シンシアは、想定外の内容で眉間に皺が寄っている。やはり嫌な気分にさせただろうか? と彼女の顔色を窺った。
「それって、つまり……。俗に言う愛人ってやつ?」
シンシアが控えめに訊ねる。聞いて良いことなのか計りかねているようだった。
「そう……。でも、今は違うよ。目が覚めて、自立したくてここにいるの」
リリーは、腰かけていたベンチの正面を見据える。目を背けたくなる過去があるけれど、今はリリーなりに頑張っているところなのだ。それは、シンシアにもわかってもらいたい。
「そうなんだ……。みんな色々あるんだねー。あっ、でもだから恋をしてもいいのかってなるのか……」
シンシアが、とても納得したように一人頷いている。リリーは、何も言わずにシンシアの反応を見ていた。
嫌われるのが怖いと思っていたが、今のところそんな兆しはない。
「うーん。意外にリリーの方が経験豊富だとは……ちょっとショック……」
シンシアが、リリーが思っていなかった部分を気にしている。
「ねえ、シンシア。それ、ちょっと失礼なんじゃ……」
リリーは、可笑しくって笑ってしまう。もしかしたら、初々しい恋愛の話を期待していたのかもしれない。
他の人からみると、リリーは年齢よりも幼く見えるみたいだから……。
「ごめん……。私、別に今好きな人が初恋って訳ではないんだけど……でも今まで、恋愛経験ってそんなになくて……。リリーもそう見えたから、同類同士話ができるかと思っていた訳……」
シンシアが、ちょっと恥ずかしそうに俯いている。
「こんな話になる方が珍しいだろうしね……。嫌いになる?」
リリーが、恐る恐る訊ねる。
「えっ? 何で? ならないよ。そりゃー、リリーのこと全く知らなくてそういう人がいるんだって聞かされたらちょっと色眼鏡で見ちゃったかもしれないけど……。もうリリーのこと知っているし、同じくらい医学のこと勉強してて頑張っているんだもん。悪い人とか嫌だとか、それだけで判断できる訳ないよ」
シンシアが、必死に否定してくれる。リリーをちゃんと見て、嫌わないでいてくれることが本当に嬉しかった。
「ありがとう。そう言ってくれて救われる。自分じゃもう、過去の行いはなかったことにできないから……。後悔ばっかりだよ」
リリーが、諦めたように寂しく呟く。
「でもさ、人生って長いから、また誰かを好きになることもあるよ。私が偉そうなこと言うなって感じだけど……。いいよ別に。一生懸命生きているんだもん。ご褒美あったっていいじゃんよ」
シンシアは、無邪気に笑顔を向ける。リリーは、シンシアに言ってもらえて何だかとても心が清々しい。
もう、愛されることが怖かった。グレンを思い出すと、何とも言えない恐怖心が襲う。だけど、ダニエルは違うのだ。
最初からリリーを、一番に想って行動してくれた。ダニエルのことを思い浮かべると、優しい気持ちに包まれる。だから、彼からの愛が怖いなんて想像ができなない。
愛し方って、人それぞれ色んな方法があるのだと最近思うようになった。愛の形が色々あって、上手く組み合わせることができる者同士が結ばれる。そんな風に思えるようになった。
「ありがとうシンシア。でもまずは、イーストリー学園を無事に卒業する!」
リリーは、拳を握って気合を入れる。
「恋愛が優先じゃない辺りが、リリーらしいよね。私もそうなんだけど!」
シンシアが、苦笑いを浮かべつつ後半は諦めたように強調する。
「じゃあ、ちょっとさっきの授業の質問なんだけど……」
リリーは、さっきわからなかったことを早速シンシアに訊ねる。シンシアは、え? 今から? と若干ゲンナリしていたがお互い真面目なので丁寧に教えてくれた。
この日以降シンシアとは、貴族、平民の垣根を越えて結びつきを強くした。
◇◇◇
イーストリー学園に通い出してもうすぐ三カ月が経とうとしていた。シンシアとは、相変わらず仲良くしている。
休日の日も、シンシアと一緒に勉強をするほどだ。心配していた定期テストは、問題ない点数を取り続けている。
授業料免除の対象の生徒は、本当にごくわずかの生徒のみ。先生たちからも、よく頑張っているとリリーは褒められていた。
そしてダニエルは、まめに手紙を送ってくれた。内容は、バーバラにリリーの手紙を渡した報告やヴォリック国の天気や食べた物の感想など。いつも、生活していて気になったことをこまめに書いていた。
一番リリーがびっくりしたのは、ダニエルとバーバラが会って話をしたことだった。
アレンには会えなかったそうだが、バーバラもアレンも元気にしていると書いてあった。リリーが学園で頑張っていると話をしてくれたそうで、バーバラもとても喜んでいたらしい。
リリーは心から安心した。リリーの心配事と言えば、バーバラとアレンなのだ。二人が元気にしていることが一番の願いだ。
手紙の数が積み重なっていくたびに、リリーの気持ちにも変化が生まれていた。ダニエルからの手紙が、毎日の楽しみになっていった。
リリーも忙しい勉強の合間に、手紙の返事だけは欠かさずに書いた。その手紙をダニエル喜んでくれて、これのお陰で仕事が頑張れるとあった。
リリーは、手紙からもダニエルの愛情を常に感じていた。シンシアと恋愛の話をして、自分の中にある気持ちに気づいた。
たぶん自分は、ダニエルに恋をしている。できることなら、リリーの愛する気持ちをダニエルに届けたいとまで思っている。
こんな風に愛してくれるダニエルとなら、誠実に愛を育めるだろうという信頼もある。
でも、やはりあと一歩足りないと思うのだ。今はまだ早いと。
リリーが無事にイーストリー学園を卒業して、ダニエルの役にたつ自分になりたい。そうなれたら、きちんと気持ちを伝えたい。
もちろん、アレンのことをこのままにはできない。だから気持ちを伝えることと、アレンのことをどうしたらいいのか相談するのはセットになってしまう……。
こんな都合の良い自分でいいのか疑問だ。でも、ダニエルは我儘になっていいって言ってくれた。
きっと、誠実に愛し合うって自分の負の部分もさらけ出すことなんだ。それを相手が受け止めてくれないなら、きっと諦めたほうがいい。リリーは、それができなかったから破綻した。
今度は、上手く行かない覚悟もする。一人になっても、生きていける術も自分にある。この人がいないと駄目だとか、自分がいないと駄目なんだっていう依存関係ではない対等な関係を築きたい。
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