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一章
出会い
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朝食を終えたアルトはそのまま稽古場に向かう。
もちろん道場などこの街には存在しない。
アルトが向かうは街の外だった。
アルトが住む街は周囲を大きな塀で囲われている。外に出るには四方にある門を潜らなければならない。
一歩、門を出れば馬車が行き交う街道と少し離れて森が存在している。
アルトはそのまま森に歩みを進めた。獣道を通り、出た先には湖があった。
そう、ここがアルトの稽古場である。
森といってもただの森ではない。魔獣と呼ばれる動物よりも力の強い獣が住んでいる。もし出会えば子供だと人溜まりもない。
そんな危険と隣り合わせの場所こそ、アルトが稽古場に選んだ理由でもある。
そもそもアルトは道場で稽古をしたことがなかった。前世の頃は師匠と二人で旅をしなが修行をしていた。
そのときの場所で修行をしており、ほとんどが山や森、危険と隣り合わせの所だった。
彼の師は世捨て人の風来坊だった。どこに定住するわけでもなく、気の向くままに旅をしていた。そんな折りに出会い弟子になった。
そして十八歳になるまで共に旅をした。
『もう教えることはない。
俺の技をどう使うかは、お前自身で考えろ。
自分の好きなように生きることこそ人生よ』
そう言って別れ、終ぞ再会することはなかった。
アルトはいつも通り鍛練を始めようとしたが、それができなかった。
何故なら・・・。
「ねぇねぇ、君はいつもここで遊んでいるの?
年齢は?私と同い年なのかな?」
この場に自分以外の者が居たからだ。
それは少女だった。
さらさらとした長い金髪にサファイアブルーの瞳。陶磁器のような白い肌をしていた。まさに西洋人形のようだった。
アルトは街の門を出る前から、この少女がつけてきているのは分かっていた。どこかで諦めるだろうと無視していると、ここまでやって来た。
「ねぇねぇ!お名前は何ていうの?」
「アルトだ。アルト=エーテリオン。
6歳だ。そっちは?」
「私はね、『レイナ』っていうの!
『レイナ=フォル=クラーク』
わー、同い年だね。
よろしくね!アルト!」
それからというものレイナは喋る喋る。
「いつもここにいるの?」
「何をしてるの?」
「何で他の子と遊ばないの?」
何で?何で?何で?
同い年のレイナにはアルトがしてることが分からないからと言うのもあるが、単純にレイナは知りたがりのようだった。
(このままじゃあ、日が暮れるな)
アルトが思っていると、レイナがムズッと顔を近づけていた。
「アルト君、聞いてるの?」
「聞いてるから、顔を近づけるな」
レイナをもとの位置へと押し戻す。
「そうですよ。お嬢様。
異性に対して近づきすぎです。」
二人のどちらでもない女性の声。
その声の主はアルトとレイナの直ぐ隣にいた。
「ひにゃー」とレイナが変な奇声をあげて距離を取る。
アルトはこの女性もレイナとともに来ていることには気づいていた。だが、姿を表さなかったので、特段危険はないと思い放置していた。
「何でミスティがいるの!?」
「お嬢様。私はお嬢様のメイドでごさいますよ。
お嬢様のいるところに私ありでごさいます。」
「撒いてきたのに!」
「あの程度で私を撒いた気でいるとは笑止でごさいます。」
よく分からないがメイドだった。
ミスティというメイドはアルトの方に向き直り、ロングスカートの両端を少し上げて頭を下げる。
「お初にお目にかかります、アルト様。
私は、ミスティ=ハートレイと申します。
レイナお嬢様のメイド兼護衛兼下僕でございます。」
「ご丁寧にどうも。
改めて、アルト=エーテリオンです。
様つけは結構ですよ。」
「口癖のようなものです。
気にしないでください。」
自己紹介も済んだので、アルトはいろいろと聞いてみた。
「それで?
ミスティさんはレイナのメイドだと言ったが、もしかしてレイナは貴族の娘とか?」
「はい。その通りですよ。アルト様。
レイナお嬢様はこの地を納めるクラーク辺境伯家のご令嬢でごさいます。」
「へぇ。」
ミスティとレイナは「あれ?」という顔をする。
「あのぉ。アルト様は驚かないのですか?」
「何が?貴族のご令嬢だったことにですか?」
「はい、普通なら驚くのですが?」
貴族のご令嬢がここに居ればそれは驚く。
現にアルトも内心驚いてはいた。
が、貴族と聞かされてもあまりピンとこない。
ふと、アルトはあることに気が付いた。
「そもそも顔も名前も知らないしなぁ。
そういやぁ、俺。
この国の名前も知らないなぁ。」
「「え?」」
二人の声が重なった。
アルトは身体を鍛えることのみを目標にし生きてきた。
基本的な知識は後でいいと思い、気づけば三年も経っていたのだ。
もちろん道場などこの街には存在しない。
アルトが向かうは街の外だった。
アルトが住む街は周囲を大きな塀で囲われている。外に出るには四方にある門を潜らなければならない。
一歩、門を出れば馬車が行き交う街道と少し離れて森が存在している。
アルトはそのまま森に歩みを進めた。獣道を通り、出た先には湖があった。
そう、ここがアルトの稽古場である。
森といってもただの森ではない。魔獣と呼ばれる動物よりも力の強い獣が住んでいる。もし出会えば子供だと人溜まりもない。
そんな危険と隣り合わせの場所こそ、アルトが稽古場に選んだ理由でもある。
そもそもアルトは道場で稽古をしたことがなかった。前世の頃は師匠と二人で旅をしなが修行をしていた。
そのときの場所で修行をしており、ほとんどが山や森、危険と隣り合わせの所だった。
彼の師は世捨て人の風来坊だった。どこに定住するわけでもなく、気の向くままに旅をしていた。そんな折りに出会い弟子になった。
そして十八歳になるまで共に旅をした。
『もう教えることはない。
俺の技をどう使うかは、お前自身で考えろ。
自分の好きなように生きることこそ人生よ』
そう言って別れ、終ぞ再会することはなかった。
アルトはいつも通り鍛練を始めようとしたが、それができなかった。
何故なら・・・。
「ねぇねぇ、君はいつもここで遊んでいるの?
年齢は?私と同い年なのかな?」
この場に自分以外の者が居たからだ。
それは少女だった。
さらさらとした長い金髪にサファイアブルーの瞳。陶磁器のような白い肌をしていた。まさに西洋人形のようだった。
アルトは街の門を出る前から、この少女がつけてきているのは分かっていた。どこかで諦めるだろうと無視していると、ここまでやって来た。
「ねぇねぇ!お名前は何ていうの?」
「アルトだ。アルト=エーテリオン。
6歳だ。そっちは?」
「私はね、『レイナ』っていうの!
『レイナ=フォル=クラーク』
わー、同い年だね。
よろしくね!アルト!」
それからというものレイナは喋る喋る。
「いつもここにいるの?」
「何をしてるの?」
「何で他の子と遊ばないの?」
何で?何で?何で?
同い年のレイナにはアルトがしてることが分からないからと言うのもあるが、単純にレイナは知りたがりのようだった。
(このままじゃあ、日が暮れるな)
アルトが思っていると、レイナがムズッと顔を近づけていた。
「アルト君、聞いてるの?」
「聞いてるから、顔を近づけるな」
レイナをもとの位置へと押し戻す。
「そうですよ。お嬢様。
異性に対して近づきすぎです。」
二人のどちらでもない女性の声。
その声の主はアルトとレイナの直ぐ隣にいた。
「ひにゃー」とレイナが変な奇声をあげて距離を取る。
アルトはこの女性もレイナとともに来ていることには気づいていた。だが、姿を表さなかったので、特段危険はないと思い放置していた。
「何でミスティがいるの!?」
「お嬢様。私はお嬢様のメイドでごさいますよ。
お嬢様のいるところに私ありでごさいます。」
「撒いてきたのに!」
「あの程度で私を撒いた気でいるとは笑止でごさいます。」
よく分からないがメイドだった。
ミスティというメイドはアルトの方に向き直り、ロングスカートの両端を少し上げて頭を下げる。
「お初にお目にかかります、アルト様。
私は、ミスティ=ハートレイと申します。
レイナお嬢様のメイド兼護衛兼下僕でございます。」
「ご丁寧にどうも。
改めて、アルト=エーテリオンです。
様つけは結構ですよ。」
「口癖のようなものです。
気にしないでください。」
自己紹介も済んだので、アルトはいろいろと聞いてみた。
「それで?
ミスティさんはレイナのメイドだと言ったが、もしかしてレイナは貴族の娘とか?」
「はい。その通りですよ。アルト様。
レイナお嬢様はこの地を納めるクラーク辺境伯家のご令嬢でごさいます。」
「へぇ。」
ミスティとレイナは「あれ?」という顔をする。
「あのぉ。アルト様は驚かないのですか?」
「何が?貴族のご令嬢だったことにですか?」
「はい、普通なら驚くのですが?」
貴族のご令嬢がここに居ればそれは驚く。
現にアルトも内心驚いてはいた。
が、貴族と聞かされてもあまりピンとこない。
ふと、アルトはあることに気が付いた。
「そもそも顔も名前も知らないしなぁ。
そういやぁ、俺。
この国の名前も知らないなぁ。」
「「え?」」
二人の声が重なった。
アルトは身体を鍛えることのみを目標にし生きてきた。
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