転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹

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飯屋の娘に転生した現代人が、ただ特別な日をお祝いしたいだけのお話。

その4 赤くて白くて黄色くて

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「……え、えっと、もしかしてって、お貴族様のお菓子……なの?」

 ごっこ遊びではない、いつもの口調でひそひそとシーちゃんが小声で聞いてくるので、わたしもいつもの口調でひそひそと答えます。

「うーん……?    わたしも他で見たことないからよくわかんないけど……このケーキは今日だけの内緒ね……?」

 しー、っと人差し指立てて、彼女が安心できるように茶目っ気たっぷりにウインクをかまします。
 ……まあ、そもそもこのケーキはわたしの現代の知識からひっぱり出してきたお菓子なので、お貴族様のお菓子に似たような料理ものがあるのか、ほんとによくわかんないですけどね(´・ω・`)

 あと基本的にはこの国、貴族は貴族、平民は平民の領分というものがありまして、平民が下手に貴族のもの(この場合物質的なものから文化的なものまで様々です)に手を出すとどうなるかわかりません。……まあ、普通の貴族は平民の存在なんて気にもしてないらしいので、特に何かあるわけではないみたいですけどね。
 ただ、平民なのに貴族の領分である《魔法》が使えるわたしのような中途半端な存在はその限りではないらしく、わたしの師匠である先生には魔法はもちろん、それ以外にも、貴族に関わること、平民が知らないことは、なるべく周囲には秘密にするように、と言われております。ですので、判断に困るもの──今回はこのケーキですね──も秘密にしておいた方がいいですよね……? 
 ……その理屈だと、お屋敷で働く以上最低限は身に付けてね? と習ったこの行儀作法もアウトな気がしますが。でもまあ、今日のお嬢様とメイドごっこは平民の子どもならみんなやっているおままごとの延長だから、だ、大丈夫ですよね……?(震え声)

「ではお嬢様、お取り分けしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、よろしくてよ♪」

 気を取り直しまして再びメイドモードに切り替えると、形を崩さないように慎重に、念のためほんのちょっぴりの《風》魔法で少し切れ味を上げたナイフで、ホールケーキをスィーッ、スィーッ、と切り分けると、現代ではお馴染みの、二等辺三角形の形となったショートケーキを小皿にそっ、と乗せます。

 ……よし、綺麗に切れましたね。

 そんな内心を悟らせないよう表情は崩さず、習った通りに、ゆったりとした優雅な動きで彼女の前に配膳いたします。

「お待たせいたしました。苺のケーキになります」

 苺の赤、ホイップクリームの白、パンケーキの黄色、という見事なトリコロールカラーの柔らかくて甘そうな苺のケーキを、彼女の前に音を立てないように、そっと置きます。そのケーキをキラキラとした笑顔でしばしの間見つめていたシーちゃんですが、やがて意を決したのか、わたし特製の金属製のフォーク(下町は木製の食器が普通なので、以前先生に錬金を習ったときに作りました)を手に取り、恐る恐るケーキに差し込み、そのふわふわさに驚き、形を崩さないように一口分だけ切り取ると、あーん、と大きく開けた口に、パクっ、と吸い込まれました。
 もぐもぐと咀嚼そしゃくする彼女をドキドキしながら見つめます。ホイップクリームは味見したので大丈夫だと思いますが、苺はものによっては甘かったり酸っぱかったりと当たり外れがありますし、パンケーキはホールケーキに仕上げる都合上、切り取って味見とかできませんからね。練習はしましたがぶっつけ本番、そもそもどんな料理であっても一発勝負です。

 固唾を飲んで見守っていますと、やがてこくん、とケーキを飲み込んだシーちゃんが、こちらを向いて口を開きました。
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