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飯屋の娘に転生した現代人が、ただ賄いを食べるだけのお話。

[プロローグ] ようやくこの日がやってきた、なのです。

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「まかない、できましたっ……!」

 味見に使った小皿をコトリ、と置くと、わたしはそう料理長――お父さんに告げた。

「おう。なら今のうちに飯食ってこい」

 ジュウジュウと美味しそうな音を立てて焼けるお肉から目を離さずに、お父さんはぶっきらぼうにそう答えた。

「うん、じゃあ休憩入りま~す」

 自分の分のまかないを手早く木の器に盛りつけていると「ついでに持ってけ」と肉と一緒に焼いていたものを差し出されたので「ありがとっ♪」とお皿のはしに受け取ると、木製のトレーにまとめて乗せて調理場の隣の休憩室へと移動する。


 わたしの名前はデリシャ。

 好奇心に輝く(自己申告)あめ色の瞳、そこそこサラサラ(自己判断)な栗色の髪を左右で三つ編みにし、紺色のワンピースに白いエプロンというメイドさん風味な衣装に身を包んだ、たぶんかわいい(身内談……というか、たぶんってどういうことです……?)八歳の女の子です。

 みんなは愛称でディー、とか、リーシャ、って呼びます。『宿里木亭やどりぎてい』という宿屋さんの食堂も兼ねているこのご飯屋さんの、店長兼料理長であるお父さんの娘で、今はここの厨房でお手伝い中な、料理人見習い志望です。……ええ、料理人見習い志望です(大事なことなので二回言いました)。見習いですらない、ただのお手伝いなのです……(悲しい)。

 ところでなぜ子どもでただのお手伝いさんであるわたしが、仮にもプロの厨房で賄いを作っているのかというと、これには、深ーいワケがあるのです。

 実ですね、わたしには…………なんと!    前世の!    記憶が!    あるのです!(ドヤ顔)

 ……といっても、自分の事とか家族や友達との思い出とか、個人的な事はほとんど覚えていないんですけどね。しょんぼり。自分の名前や性別も思い出せないとか相当ですよね……?

 ただ、自分が日本という国で暮らしていたこと、現代の常識や知識なんかはわりと覚えていること、特に料理に関してはいろいろと思い出せるので、少なくとも前世の私は料理が好きだったか日常的にしていたのかなー?    と、思っております(根拠はありません)。

 さて、賢明な方ならすでにおわかりであろうこととは思いますが、あくまでも現代の料理が基準である私にとって、この、剣と魔法の中世ヨーロッパ風ファンタジーな世界の料理は……その……味が……ですね、…………うん……微妙、だったのです……。

 いやですね?    中世よろしく基本煮るか焼くしか調理方法がないのは仕方ないですし、胡椒なんかの香辛料が平民には有り得ない値段だったりするのもわかるんですけどね?    調味料も基本、塩とお酢くらいしかないので、しょっぱいか酸っぱいか素材の味しかしないのが毎日三食続くのはちょっと……ですね……?    栄養は豊富ですし食べられるだけでもおんの字なのはわかりますし、むしろうちはご飯屋さんなので周りよりはマシまであるのですが。例外的に元冒険者であるお父さんの料理はおいしいのですが、普段の食事を作るのは料理長のお父さんではないわけでですね……正直にいってこの国の平民の料理って、元日本人としては……その………………もうこの話やめましょうか……。

 とまあそういうわけで! (ポジティブ) 美味しいごはんを食べたいしみんなにも食べてもらいたいわたしは、お父さんにお願いしたりプレゼンしたり駄々をこねたりした挙げ句、最終的には気合と根性で厨房に入ってお手伝いする権利と、賄いを一品だけ作らせて貰える大役をもぎ取ったのです!

 そうしてこつこつと努力と信頼を重ねて、ついに賄いの全てを任せてもらえるようになったわたしは、目の前でほかほかと美味しそうな湯気を立てている、初めて全ての品を自分の手で作った賄いを笑顔で見つめると、両手を合わせ、心を込めて呟いた。

    「いただきます」
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