僕は神様、君は人

はんぺん

文字の大きさ
上 下
22 / 30
第1章 望まれぬ献身

17話 叶われた平穏

しおりを挟む
 
 朝早く、鳥の綺麗な声とともにボクらは出発する。


「んじゃ行くか!」


 元気よくバロンは集落にあった4輪の荷車を引く準備をした。今は空っぽだけど集落を回ったあとはこれがいっぱいになるらしい。


「バロン、いつも通り左回りで行くよ」


 りょー、とバロンはダグラスの声に返事をする。進み出した2人について行く形でボクも歩き出す。見たところダグラスは商品を持っていないけど、どんな風に集落の人と取引をするんだろう。


「お、早いじゃねえかバロン。少し待ってくれ」


 隣の家の男性がボクらを見つけて声を掛けてきた。家の中に戻ったと思ったら大きな袋を持ってボクらの方に駆け寄って来た。


「おお、今回も沢山だな」


「ダグラスさんの持ってくる酒だけが俺の楽しみなんだ! 」


「分かるわー、酒って大事だよな!」


 がはは、わははとお酒の話で盛り上がる男2人を置いてダグラスはしゃがんで袋からなにやら取り出していた。どんな物が入っているのか気になってダグラスの横にしゃがむ。


「ふむ、中々……」


「わ、すごい」


 ダグラスの手には押し花の栞があり、袋の中にも色鮮やかな栞がたくさん入っていた。


「ああ、ノマ。これが私の買う商品のひとつだよ」


「へぇー、確かにこれは売れそうだね。特に女の人とか」


「それだけじゃないんだ、よく見てご覧。ここユグルには美しい草花が豊富でね、こんなに綺麗な色の出る栞は中々無いんだ。形も様々で見栄えがとても良い」


 綺麗な色、と言われ確かにと思った。昔に隠れて街へ出た時のことだけど、街で売っている押し花の商品は少し花の色が薄かったりぼやけていたり、色褪せてる印象があった。勿論わざとそうしている商品も有るだろうけど、もう少し濃くても良いかなって思う物が多かったかもしれない。

 この栞は紫と水色の花に緑の細長い草をあしらっている、ありふれた色合いかもしれない。だけど、上品な紫色をした1つの花を支えるように下から生えた細長い薄緑色の草、寄り添うように飾られた涼し気な水色に彩られたこの栞の雰囲気は、街ではかんじられないものだった。

 他にも可愛らしい小さな花や、大ぶりの真っ赤な花など沢山の種類の栞が袋には詰まっていた。一つ一つじっくり見たいと思ったけどダグラスは5つくらい手に取って眺めたあと、盛り上がってる2人の方に向かいこう言った。


「ちゃんと酒は持ってきたから、落ち着いてれんかね」


「ああ、ああ、すまんな。で、どうだ? 家内の作った栞は」


「相変わらずとても綺麗だと伝えておくれ。前回頼んでた紫や青色の栞も多く作ってくれたみたいだし、このくらいでどうかね」


 そう言って何かを書いた紙を男に渡すダグラス。なんか数字っぽいのを書いてたけど……


「おお! こんなにいいのか?」


「ああ、落ち着く色合いが街では人気でね。次も頼むよ」


 伝えとくぜ!と男は渡された紙を持ち家に戻っていく。バロンが袋を荷車に載せて再び出発する。


「ねぇダグラス、さっき何を渡してたの?」


「紙のことかい? あれには後で渡す商品の種類と数が書いてるんだよ。場合によっては作ってもらう材料もね」


「へぇ、後で渡すんだ。信頼されてるんだね」


「昔からの付き合いだからね、重たい商品を持ちながら回るのは大変だからそういうやり方にして貰えたんだ」



 昔からの付き合いと聞き、ボクは昨日抱いた疑問を思い出した。髪飾りが描かれた絵について聞こうと思っていたんだった。でも今は聞けないか……もう次の家に着きそうだ。また後で聞こう。


 次の家では濃淡の緑色の草を使った草籠が、また次の家では押花を使ったネックレスや指輪など。家によって様々な種類の商品が荷車に載せられていく。そして集落を1周した頃にはもう載せられないくらいの量になっていた。


「2人とも、お疲れ様。なんとか今日中に終えることが出来たよ」


「ダグラスもお疲れ様。草花って色んな用途があるんだなって改めて実感したよ」


「俺も初めて見た時は魔法かと思ったぜ、道端に生えてるやつがこんなんになっちまうんだからよ」


 バロンはある家の子供から貰った草花で作られた腕輪を掲げながら笑う。ボクもダグラスもお揃いの腕輪を嵌めている。なにかお返しできるものがあれば良かったんだけど、お礼の言葉だけで別れてしまったのが申し訳なかった。


 集落の人々はみんな明るくて、仲がいいように見えた。ここに来るまでは、どんな辛いことがあって街では無く離れた地に居るのか思っていた。実際に見て、考えが変わった。
 此処に住み着いた理由は辛いものだったのかもしれない。だけど、いまここにいる人はきっとこの集落が好きだから此処に住み続けている。そう考えられるようになった。子供達も街に憧れはあるみたいだけど集落が好きなんだ、と小さいのに自分の意見をちゃんと持っていた。


「じゃ、自由時間ってことで!」


 夜ご飯の時間には少し早いから、バロンは出掛けてくると言い、ボクとダグラスは部屋に戻るべく階段を上がった。


「あの、少し聞きたいことがあるんだけど」


「ん? なんだい」


「この髪飾りって、見覚えある?」


 踊り場でポケットから髪飾りを取り出す。


「これは……ノマの……?」


 髪飾りをじっと見た後驚いた顔をしてボクの左耳を見つめる。そういえば、とダグラスはボクの耳に石が無いことに気づく。


「理由はよく分からないんだけど、ぴったり嵌って。おばさんにも見せたらダグラスがこれに似た髪飾りの絵を見せてくれたって聞いて」


「確かに、たしかに、まさかこんな、本当に」



 誰に聞かせるわけでもなく、自分に言い聞かせるようにつぶやくダグラス。おそるおそるボクの手から髪飾りを持ち上げて、揺れる瞳で見つめている。いつの間にか止まった足、しばらく考える素振りをした後、ダグラスは言った。


「ノマ。どこでこれを」


「それは……」


 リドリー家のことをボクが勝手に言っていいものか悩み言い淀んでいると、察したかのように


「……ああ、そうか。いや、いいんだ。すこし気になってね」


 首を力なく横に振りながらダグラスは言った。明日フォトナさんに確認しよう。丘に誰も行けないようにしてたり、リグルやリアナの事は集落の人は知らないのかもしれない。本当は髪飾りについても隠さなきゃいけないのかもしれない。だけど、これだけは気になるんだ。知りたいんだ。


「ごめんなさい。その、髪飾りについて聞きたいことがあって」


「……そうだね、私も話したいことがある。私の部屋においで」


 踊り場で止めていた足を再び動かしてダグラスの部屋に入る。部屋は特にこれといった特徴はなく、ボクの部屋と同じような間取りだった。ダグラスに促されてボクは椅子に座る。

 ダグラスは部屋に置いてあったカバンから1つの細長い包みを取り出して、中を机に広げた。


「これが、その絵だよ。確かに似ている、というよりそのものだろう」


「ほんとだ……形も、色も、石の場所も一緒だ」


「これはね、父から渡されたものなんだよ。そして父は私の祖父から。代々受け継がれてきたんだ」


「……なるほど」


 それなら納得がいった。でももうひとつ疑問が出てきた。どうして髪飾りの絵が受け継がれているのかな、綺麗な絵だけれど、わざわざ残す理由はなんなのだろう。


「この絵はどっかで手に入れた物?」


「いや。髪飾りに一目惚れした祖先が絵描きに描かせたそうだよ」


 あまり、詳しいことは知らないんだ。とダグラスは申し訳ないように俯く。いつ、誰が手に入れて、描かせたのかも分からず、何故髪飾りがこのユグルに渡ったのかも分からないとダグラスは言った。でも、と続けた。


「この集落には祖先も商売に来ていたから、もしかしたら売ったのかもしれない。だれが売ったのかも分からないが……」


 残念ながら知りたかった髪飾りの事は分からなかったけど、リグルはダグラスの祖先から髪飾りを買ったのかもしれないと予想を付けることはできた。そろそろ部屋に戻るね、とボクはお礼を言って部屋を出た。




 そのまま夜ご飯まで自室で時間を潰し、ボクは窓辺に飾られた花の隣に子供から貰った腕輪を置いた。









______________________________


彼の願いは叶った、きっと


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...