僕は神様、君は人

はんぺん

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第1章 望まれぬ献身

14話② 遺書

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これは遺書です。遺言書はまた別にありますので、難しいことはそちらを見てください。


何故こんなものを残すのか、それは私がまだ愚かな子供だった頃まで遡ります。

貴方たちは言葉でしか知らないだろうけれど、このユグルでは恐ろしい病が有りました。病名も治療法も分からす、罹ったものは為す術なく死んでいきました。私の父と母と弟が順々に病にかかり、みな数年で死にました。そしてたった1人になって数ヶ月後、私もその病に罹ったのです。

私は丘に作られた小屋に連れてかれました。仕方の無い事でした。当時の集落では病気に罹った者を救う術が無かったのです。しかも私は世話をしてくれる家族を既に失った身。仕方の無い事だったのです。

小屋には数人が居ました。私と同じように1人きりになった者達です。小屋の中は暗く、どんよりとした空気で満ちていていました。誰も喋らない寒い小屋の中。床に寝そべりながら私は、絶望しかない未来だとしても、笑って死にたいと思いました。

次の日、花を小屋の中に飾ろうと思って外へ出ました。勿論、集落とは反対の方へ。あの子、リグルが好きだと言ったあの花を探しに歩き出しました。そんなに時間はかけずに何本か花を見つける事が出来たので、嬉しくて駆け足で小屋に戻りました。そして花を挿すものが無いかを探しましたが、そんなものは無く、仕方ないので床にまとめて置きました。


次の日、年老いたおばあさんが亡くなりました。まだ病の進行の遅かった私が外へ運び出して、お墓を作りました。そして薄桃色の花を添えました。


それ以降も数人亡くなったけれど、あまり覚えてません。つぎに覚えているのは、リグルが小屋を訪れた事。とても驚きました。彼のご両親が此処へくるのを許すわけが無いと知っていたので、まだ生きていた他の人も驚いていました。

彼は私の顔をみて、驚愕だったのでしょうか、歪んだ表情をみせました。どうやら私の顔に黒いアザがあったようで驚かせてしまったようでした。

そんな彼の顔をいつもの、暖かな陽だまりのような笑顔に戻したくて、大丈夫だからと萎れてしまった花を手渡しました。そして早く集落に戻るように言い聞かせました。けれど、彼は花を受け取ったあと


『必ず、果実をもって、戻ってくる』


そう言って、走って小屋を出ていってしまいました。急いで彼の後を追おうと思いましたが、脚が動かなかったのです。足を見ると黒いアザが広がっていました。思っていたよりも進行が早くて驚きました。小屋の中は寒くて風邪をひいたのか、常に発熱状態だったので、仕方の無いことだったのです。それでもその時はどうして動かないのだと、他の人に止められるまで足を思い切り叩き続けました。

今でも後悔しています。どうしてあの時、彼を止められなかったのか。どうして私は追いかけなかったのか。

あの後、小屋の中で塞ぎ込み、ただ死を待つのみの私は夢を見ました。恐らく、彼が去ってから数日後。その夢はとても不思議な夢で、美しい女性が私にこう言うのです。


『その花弁を食みなさい』


そこで目が覚め、萎れたはずの花がまた元気になっているのに気づきました。その言葉に従い、私はその花弁を食べました。すると体が軽くなったのを感じました。結果を書くと、その花弁は病を治す薬だったのです。小屋にいた人にも食べさせて、集落の人にも伝えました。最初は信じてくれなかったけれど、なんとか最終的には信じてくれました。


それから、集落は以前と同じようにとはいかないけれど、次第にもとの明るさに戻りました。でも、そこにリグルは居ませんでした。リドリー家の人ももはや彼のことは諦めて、次男に継がせるようでした。


私はといえば、リグルのお墓をこっそりと家の裏に作り、毎日手を合わせていました。そこにある日、リグルの弟アウリが訪れました。彼はリグルとそっくりな笑顔で


『兄の墓を作ってくれて、ありがとう』


と私に笑いかけました。どうか、どうか私を蔑んでください。私はリグルとよく似た彼に惹かれてしまったのです。当時は分かりませんでしたが、あれはリグルへの恋心の延長でした。何度か逢瀬を交わし、私はアウリに言いました。リグルに申し訳ない、これ以上は会えないと。貴方はリドリー家の後継ぎ。私は集落の端にすむただの女だと。

けれど彼は言ったのです。


『家の者の説得は済んでいる。あの日の兄と君のやり取りも知っている。それを説得材料にした。皆、兄の思いを知ってたんだ』



『兄は、君と一緒になりたいようだった』



ここで始めて私とリグルは両思いだったのだと知りました。私は泣きわめきました。どうして気づかなかったのだと、どうして何も伝えなかったのだと。
泣き続けて、泣き続けて、その日は家に戻りました。


『君のしたいように。兄は君の笑顔が好きだった』


帰り際にそれを言われて、また泣きました。そして考えて、考えて、数ヶ月後に私はリドリー家をまた訪れました。そこでアウリの気持ちを聞きました。


『僕は丘に墓を作ろうと思っていた。その途中で土を掘る音が聞こえてそっちに向かった。そこに、兄が愛した君がいた。何を作ってるのか気になって毎日眺めていた』


『兄の墓を作っているとこに気づいた。泉に向かってしまった兄の墓は誰も作ろうとしなかったから、とても嬉しかった。多分、あの日がきっかけだった』


そして、あの日から私と会話をしているうちに私の人柄に惹かれたのだとアウリは言いました。また兄の愛した人を自分勝手に奪うような真似はしたくないとも。だから、私の返事がどんなものでも待っていると。


また家に戻り、考えて、考えました。リグルの事は忘れるべきではない。私のために泉に向かって戻ってこなかったのです。忘れるべきではない。だから、断ろうと思いました。

そして決心した次の日、お墓にむかい、リグルに会いに行きました。そのお墓を見て、私は泣きました。どうしてかは分かりません。分からないけれど、薄桃色の可愛らしい花たちが、リグルのお墓を囲んでいたのです。まるで訪れた私を見守るようなそのお墓は、とても優しかった。ふらふらと近づくと懐かしい花の匂いと、リグルの笑顔が思い浮かびました。

そして、私は決心したのです。リドリー家に嫁ぐと。

これは私のためでもなく、アウリのためでもなかった。ただ、リグルのために。今思えばリグルのためではなく、結局は私の自己満足だったのでしょうけれど。

リグルの犠牲を忘れないように、最後に会ったあの場所に美しい花畑を作りたいとお義父さまとお義母さまにお願いをしました。それが、あの花畑です。






ここに書いた内容は、決して忘れてはいけない私の罪の一部にすぎません。


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