僕は神様、君は人

はんぺん

文字の大きさ
上 下
20 / 30
第1章 望まれぬ献身

『幼さゆえの錯綜』

しおりを挟む
 

 とても気分が良い。ようやく、買うことが出来た。まったく、換金用の商品はとっくに出来てたのに、中々行商人がなかなか来なくてやきもきしてたんだ。


「ふんふふーん」


 つい柄にもなく鼻歌を歌ってしまう。それを聞かれてたようで周りの人には笑われてしまった。


「なにかいいことでもありましたか?リグル様」


「ああ、なんでもない!」


 これは俺だけの秘密、知られてはいけない恋心。どれだけ効果があるかは分からないけど、行商人には口止めをしておいた。


 家に戻り、おざなりに両親に挨拶してから自分の部屋に入る。


「ここなら、バレない、きっと」


 机の引き出しの奥の奥。偽物の仕切りを使って、ただ引き出しを開いただけでは見えないように、大事に大事にしまい込む。


「どうやって渡すか……」


 そこが問題だ。さりげなく、だけど少し気にして欲しい。でも重く受け止めて欲しくない。ああ、なんて難しいんだ。少なくとも、18歳になるまでには渡したいな。それまでならあの子もまだ結婚しないだろうし。
  

「手紙は流石におもい、か?」


 悩む。手紙はどうしても直接言えないときの最終手段だ。まずはやっぱり言葉だな。



「こ、これ買ったんだが貰ってくれないか?」



 いや、これは違うな。
  


「良かったら、これ付けてくれ」


 いや、これは強引か? 難しい。本当に難しい。世の恋人たちはどうやって言葉を伝えたんだ? どうやってその愛を言葉に……。



「……そうか、違うんだ」



 ふっ、と体の力が抜けた。

 そうだった。俺は、愛を言葉にしてはいけないんだった。だから、こんなにも難しいのかもしれない。そもそも、髪飾りを贈ること自体間違っているのかもしれないのだから。



「……でも、似合うと思ったんだ」



 様々な飾り物の中で、それは一際目を引いた。商品を並べる茶色の板に載せられたそれ。それを一目見た時に『ああ、似合う』と、そう思った。そしてその日の夜、どうやって渡そうか考えた。あぁ多分、それが間違いだった。

 似合うと思って買いたかったのなら、悩む必要なんてない。『似合いそうだったから買ったんだ』の、一言で良い。だけど、俺はそれ以上の思いを言葉にしようとして、あの子にもその思いが伝わることを望んでいる。


 そこから間違っていたのだと今更気づく。だから、もっと、もっと軽く。


「コホン、これ、綺麗な色の石だろ? 一目惚れしてさ、つい。でも俺には必要ないから」


 ぐいっと手を差し出して、荒く渡せばきっと大丈夫。似合うとか言わないで、付けて欲しくて買ったのだと伝わらないように渡そう。


「……ふぅ」


 椅子に腰をかけて、目を瞑って考える。

 もしも、俺が集落の長の長男じゃ無ければ。せめて、次男であれば。もしかしたら、許されたかもしれない。別の集落の女性なんかと結婚なんてせずに、もしかしたら。

 小さな家の中。2人で食卓を共にしたり、一緒に洗い物をしたり、散歩では時間なんて気にせずそよ風を楽しんだり。子供が出来たりしたら、もっと楽しい日々だろう。人を育てる事は大変だろうけど、あの子とならきっとそれすら楽しい。そうだ、庭にはあの花を植えよう。なんてことない花だけど、それは必須だ。
 ああ、なんて幸せな未来なんだろう。自然と口許が緩み、胸が満たされた。胸が、苦しくなって、唇を噛みしめる。



━━でも、そうはならなかった。そうはならない。



 そもそも、リアナが俺との未来を望んでいる訳では無い。髪飾りを渡すのだって自己満足。欲しがられた訳でも無い。


「ごめんな」


 髪飾りがある辺りを、机越しに撫でる。もしかしたら、渡せないかもしれない。少なくとも俺の気持ちが落ち着くまでは、ここで待っててくれ。


 そっと窓から見える景色をみる。ちょうど夕暮れが集落を照らしていて、暖かな雰囲気を作り出していた。この景色は、この部屋だけのもの。もちろんほかの部屋からも似たような景色は見えるだろうけど、これは此処からしか見れない。



━━━リアナにも、見せてあげたい。



 リアナはずっと先の集落の端っこにいるから、こんな集落の顔は見たことないだろう。きっと喜んでくれる。


「リグル兄さん!ちょっと来てくれない?」


「っああ!いまいく!」


 夢想していた俺を呼ぶ弟の声が俺を現実に戻す。その声に応えるべく、部屋の扉へ歩き出した。







 ちゃんと引き出しは閉じたままで。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

笑福音葉 🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

処理中です...