12 / 30
第1章 望まれぬ献身
10話 哀の声
しおりを挟む「ああ、ノマ、良かった。どうだったんだい?」
「あ、ダグラスにバロン! 探す許可、得たよ!」
「そりゃよかった、まさかこんなに簡単にいくとはな」
どれだけ話していたのだろう、バロンも門の前に来てくれていた。
『条件がある』
そうオシグルさんは言った。条件と言うからどんな難しいことを言われるのかと思ったら、『集落の外を探す際はフォトナさんと共に行動すること』と言われた。しかも気が済むまでユグルに居て良いと。
確かに好きに行動できない点ではやりにくいけど、逆に大事な娘さんをこんなボクと行動させていいんですか?って聞きたい。まあ、聞けないし、変なことをするつもりもないけど。
家の中でオシグルさん達と話した経緯を2人にも伝える。2人ともピアスの件は怪訝な顔をして聞いていたけど、条件を聞いてから驚いた顔になった。
「私のときはもっと渋られたんで、驚きですねぇ……」
「そのピアス、クラウス様から貰ったんだって?そのおかげか」
「元々はダグラスから買ったって聞いたよ? それをくれたクラウス様には感謝しないと」
「……それは初耳だね。クラウス様にそれを売った覚えはないよ」
「え、薦められたって聞いたけど」
あれ、聞き間違えたかな。たしか買ったって聞いたんだけど。
「……進めた覚えはないがそのピアス、いや、その石、どこかで見たことがある気がするねぇ」
「どこかでって、どこだよ」
何処だったかなぁと悩むダグラス。話が違うぞ、と後で詳しくクラウスに聞かないとな。どんなつもりでダグラスから買ったってボクに言ったのか。
まあ、このピアスに助けられたことは変わらない。旅のお守りとして貰ったけど、違う意味で助かった。これはお土産を豪華にしなければ。
門から離れながら、セリスファナ王宮へお土産を持ち帰った時のクラウスの喜ぶ顔を思い浮かべた。
※
無事に話し合いを終えたボクは、いつも2人が泊めてもらっているという家に泊めてもらえることになった。
「じゃあ、いつも通り食材はダグラスさんの物を使わせてもらうわね」
「はい、今回は1人多いですが、また大体2週間程度です、よろしくお願いしますね」
「えぇ、勿論。ダグラスさんの持ってくる物は何でも美味しいからねぇ。料理しがいがあるってもんよ」
恰幅の良いおばさんが朗らかに笑う。実はおばさんの先祖が大家族だったらしく部屋を増築したはいいものの、今は部屋が余ってるらしい。そしてその部屋をダグラス達に部屋を貸す代わりに、泊まる間の食材をおばさんの分も提供している。だからダグラスは衣料品類の他に沢山の食料を毎回持ってきていると言っていた。
おばさんと挨拶を終え、ボクらはそれぞれ荷物を部屋に置くことになり、それぞれの部屋に向かう。ボクの部屋は階段を上った2階の右端、バロンが隣で、そのまた隣がダグラスの部屋だった。
「ふぅ、つかれたー」
荷台から持ち帰った鞄を机の上に置き、椅子に身体を預ける。今日は知らない人に囲まれたり怖いお爺さんに睨まれたり、色々大変だった。
「……空色、似てたな」
左耳のピアスを取り外して眺める。やっぱり彼女の瞳の色と似ていた。そこてボクは思い出す。
「アトニアさんの瞳も、こんな色だった気が……遺伝かな」
アトニアさんの瞳は、石の色よりもうちょっと青みがかってたけど、アトニアさんの両親から引き継がれたものなのだろうか。
コロコロと手の中でピアスを転がしていると
『これじゃない』
急に、前触れもなく、そんな言葉が頭に過ぎった。
「━━━なにか、ちがう……?」
自分が自分じゃないような、そんな違和感。
『こうじゃない』
頭に響く声は、とても悲しくて、寂しくて。
「なにが、違うの……」
繰り返し、声はボクに訴えかける。
『こうじゃなかった』
悲しい、悔しい、もどかしい……怒り。色んな感情が、ボクを襲う。
「……やめて、ボクは、ボクには、分からないよ」
響く声に拒絶の言葉を返す。椅子から落ちそうなくらいにボクは前屈みになり、頭を抱えていた。
カランカラン
ピアスは床に落ちてしまい、視界に映らないように、見ないようにしていたら声は聞こえなくなった。
「な、んだったんだ、いまのは……」
集落に来てからというものの、何か変なことが続いている。見たことも無い風景なのに懐かしくなったり、初めて会うはずなのに知ってる気がしたり、声が聞こえたり……。
「ああ!もう、わかんない!」
頭をふって思考を止める。そうだ、ロイも言ってたじゃないか。分からないことは分からなくて良いって。まずは、手がかりだ。バリバラナの手がかりを探そう。ああ、何なんだ、ほんとに。
トントントントン
「どうした、ノマ。声が聞こえたが」
はっ、と現実に戻る。声、隣だったから聞こえたのかな。そんな大きな声になってしまってたか。
……ボク、何やってんだか。石を見てたら変な声が聞こえたなんて言えないよね。
「ご、ごめんねバロン! 虫が居て!」
「……はぁ?おいおい!虫ごときで何ビビってんだよ!声デカすぎだろ!」
ガッハッハ、とこれまた大きな声で笑うバロン。その声にダグラスも来たのだろう。
「騒がしいねぇ、何してるんだい」
「聞いてくれよ! ノマの野郎、虫にびびったんだってよ!ハッハッハッハッ!」
扉の向こうで笑う2人の声が聞こえる。こ、これ以上笑われるのは沽券に関わる。ボクは止めるべく扉をあけた。
※
荷物を部屋に置いたあとは、特に3人でする事はないから夕食まで自由時間となった。集落の中なら1人でも行動して良いって言われてるからボクは遠慮なく外へ出た。
集落に着いたのはお昼頃だったけど、もうそろそろ日が沈む頃になっていた。オシグルさん達と交渉してもらったり、ボクが交渉したりしたから、あっという間に時間が過ぎていた。1時間くらいは探索できるだろう。
おばさんの家を出たら、小さいけど家々が道に並んでるのが目に入った。集落と言っても、ここは人数が多い方なんじゃないかなって思った。麓にも近いし、なにより子供も若い人そこそこ居る。これなら農作業や魔物の対処もしやすいだろう。
オシグルさんの家とは反対方向に、道に並ぶ家々や話し込んでる住民達を眺めながら道を進む。道に沿って進んでいくと、密集していた家がだんだんとチラホラとしか存在しなくなり、ゆっくり歩いて30分くらいで集落の端まで来てしまった。
「あの、集落はここで最後ですか?」
集落の見張り役なのだろう、男の若者が2人で外からくる魔物を警戒しているようだった。2人に確認をとるとやはりここで集落は終わりらしい。頑張ってください、と一言告げて来た道をもどる。日の傾きを見て時間が結構経っっていることに気づき、早歩きで戻る。
彼らがいた先、まだ行けるとこがありそうだなと思い返す。確かに正面には遠くに森が見えたけど、左にそれた道があり、それは丘に続いていた。道があるのにどうしてあの場所で集落を切ったのか。あの先に別の集落があるのかもしれないけど、別の何かがあるかもしれない。
それに、
「なんか、気になるんだよね」
なんとなくあの丘に行ってみたかった。フォトナさんの都合が良い時に行ってみよう。彼女には子供が二人いるみたいで、ボクと会ってくれた日は預かってもらってたらしい。子供なんてボクには無縁だから凄いなぁっておもう。
フォトナさんは獣混種だから見た目通り30歳半ばくらいかな、もうちょっと若いかもしれない。弟さんも1人子供がいるらしいし、いつか2人の子供も見てみたいな。きっとそれぞれの色を引き継ぐに違いない。
そんなことを考えながら帰り道を急いだ。
※
ガラガラガラ
「おや、ちょうどいい時に来たね。もうすぐ夕食ができるよ」
家の扉を開けたらおばさんがそう言って料理場に向かった。危ない、ギリギリだったみたいだ。ダグラスもバロンももう居間にいるようだったから、部屋に荷物を置いてからボクも居間に向かった。
「お、来たなノマ。どこ行ってたんだ?」
「ん? ああ、家を出て右にずっと進んで行って集落の端までいってたんだ」
「おや、そんな所まで行ってたのかい。何も無かっただろう」
確かに集落の端には何も無かったけど、その先に何かあるかもしれない。2人なら、何か知ってるだろうか。
「建物とかは無かったけど、なんか丘に続く道があったんだよね。あの先って別の集落があるとか?」
「いや、地図上にはないね。実際に行ったことはないから分からないが」
「あの道は集落の奴も使用禁止なんだとよ」
「使用禁止? 誰が、もしかしてオシグルさん達が禁止してるの?」
まさか集落の人も通ってはいけないなんて、ほんとにあの丘には何かあるのかもしれない。
「そうさ、オシグルさんらが入るなって言うんだよ」
料理を持って来たおばさんがそう言った。やはり集落の決まりとしてオシグルさん達が禁止してたんだ。
「美味しそうですね、ありがとうございます。
……という事は、誰もあの道の先に行ったこと無いんですか?」
「そうさねぇ、わたしが生まれる前はそんな決まりはなかったらしいけど、決まりが出来てからは誰も行ってないんじゃないかねぇ」
「へー、理由って知ってるのか?」
「恐ろしい魔物が住んでるとか、二度と帰って来れないとか呪われるとか言われてるよ」
「おいおい、ガキじゃねえんだからよ」
おばさんが言うには、あの道はオシグルさんの親族達が一日中見張りをしているらしくて、誰も通ったことがないらしい。あの見張り役の2人は親族の人だったのか。魔物の警戒かと思ってたけど、道への侵入者も警戒していたのかもしれない。
んー、フォトナさんとでもあの先には行けなそうだな。仕方ない、ダメって言われたら夜中にでもバレないように行ってしまおう。オシグルさんに最初に断られた時には失念してたけどボクには魔法があるんだ、見張りなんて関係ない。
明日はフォトナさんにいつなら一緒に行動できるか聞いてみよう。あと、ピアスについて何か知ってる様子だったから聞いてみたい。
ボクは左手でピアスを弄りながら、並べられる料理を眺めた。
______________________________
その声は、ずっと深くから
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
笑福音葉 🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる