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第1章 望まれぬ献身
『願われた日々』
しおりを挟む「おはよう!今日も早いね、━━━」
「━━━こそ。おはよう、今日もいい天気だな」
「そうだね、森で日向ぼっこでもしようかなぁ」
朝焼けを背景に、━━は花が咲くような笑顔を向けてきた。優しい風がふさぁ、と━━の薄茶色の髪を優しく吹き上げる。乱れた髪を右手で耳にかける仕草。
とても穏やかな朝、ありふれた日々。長男として仕事に追われる毎日で、この朝の何気ないやり取りにどれだけ癒されているか。━━は知らないだろう。
このやり取りをするために早起きしている事や、━━に似合いそうな髪飾りを買うためにコツコツとお金を貯めていること。知らないだろうし、教える気もない。
幼い頃から━━の存在は特別だった。そもそも数少ない歳の近い子供だったってのもあるけれど、それ以上に何か惹き付けられるものが━━にはあった。
最初に生まれた息子として厳しく育てられた幼少期、叱られて泣いていたら、そっと近づいてきて優しく慰めてくれたこと、その時くれた花がとても綺麗だったこと、次に出会った時に見せてくれた、花が綻ぶような笑顔。
理由なんて沢山あった。いや、ここまでくると理由なんて無かったのかもしれない。━━に対する自分の感情。幼い頃は分からなかったけど、今ならもう分かる。
これは、『恋』なのだと。
「そろそろ行かなきゃ、また明日ね!」
「ん、また明日」
ひらひらと手を振って、井戸の水を掬いに行く後ろ姿。なんでもない朝の出来事。また明日も、明後日も、来年も続けばいい。このまま大人になんか成らずに、終わらなければいい。そう、いつも願って別れを告げる。
登りゆく太陽を横目に、そろそろ髪飾りの分のお金が貯まりそうだから、いつ渡そうか、なんて考える。喜んでくれるだろうか。
……きっと、似合う。髪飾りをつけて笑う━━を想像する。
まだ、先のことなんて分からない。きっと━━とは幸せにはなれないだろうけど、そんな悪いものにはならないと思う。たとえ━━が誰と家庭を築こうとも、たとえ━━が朝の何気無いやり取りを忘れてしまっても。笑顔で、幸せにさえなってくれれば、それで構わない。なんて強がる。
誰にも言えない秘めた思いを、胸にしっかりとしまい込んで前を向く。
「そろそろ帰らないと」
顔を出し始めた太陽を背にして、重い足を動かす。
先のことなんて分からない、分からないけど、神様……。
『どうか、幸せに……』
無意識に溢れるその願いは、人知れず積み重なっていく。
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