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四章 熱願冷諦
-79- 熱波災物
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「――あら。目が覚めたかしら?」
目覚めて一番最初に視界に映ったのは――がま口財布の異形頭の人だった。
「……あの…………――」
「無理に喋らなくて大丈夫よ。今、冷やしてるところだからね」
太蝋さまと同じように、どこに口があって目があるのか分からないけれど、聞こえてくる声は男性のものだ。口調が女性らしいから、もしかしたら声が低い女性……?
ぼんやりとする意識の中で考えていると、どこからか涼しい風が吹いてきていることに気が付いた。熱風が吹き荒ぶ環境の筈なのに。
不思議に思って視線だけ動かすと、横たわっている私の足元に団扇の異形頭の人がしゃがみ込んでいるのが見えた。その人が手扇で私を仰いでくれているみたい。普通の手扇とは思えない風量がきていることから、霊力で風量を増させていると分かった。
「他に痛むところがあったら指差しで教えてもらえるかしら? 動くのが辛いなら目線でも良いわ」
「いえ……何処も、痛くないです……」
「そう。なら良かった」
そう言って、がま口さんは安心した様子で息を吐いた。手扇で仰いで下さっている団扇さんも同じような反応をしている。
――……一体、何が起こったのかしら。
私はシロの後を追いかけながら、朱町の中を歩いていた。でも、あまりの暑さに耐えきれなくなって倒れてしまった。そこを、この異形頭の人達に助けてもらった……と言うことかしら……?
「もう少し待っていてね。貴女が一番安心できる人を呼ぶように頼んでいるから」
「……え?」
穏やかな声色でがま口さんがそう言う。どう言うことだろう?
そう不思議がっていると、遠くの方から走ってくる足音が聞こえてきた。
そして……。
「八重!」
私を呼ぶ声が聞こえた。それは、確かに私を安心させてくれる声だった。
「たろう……さま……?」
――いけない。旦那様の前で、こんなみっともない姿、見せられない。
私はまだ少しくらくらする頭を抱えながら、何とか起きあがろうと腕に力を込めた。がま口さんが「無理しないで」と心配そうに言いながら、手を貸してくれる。団扇さんも手扇をしながら、私が倒れた時を考えてか手を差し伸べてくれていた。
何とか起き上がれた頃、目の前の地面で砂埃が上がって、射し込んでいた太陽の光が遮られた。見上げると蝋燭頭の――太蝋さまが私を見下ろしていた。
「八重、大丈夫か?」
「あ……その……」
何が起こっているのか良く分からない。そう伝えようとしたけど、頭が上手く回らなくて言い淀んでしまった。
すると、太蝋さまは神妙な雰囲気を漂わせながら、がま口さんに訊ねた。
「釜戸。八重の容体は? 熱は?」
「先ほどまで濡れ手拭いで頭や首を冷やしていました。その間からずっと、風間少尉に仰いでいてもらっています。保護当時は随分と熱を持ってらっしゃいましたが、今は微熱程度まで下がられています。他に怪我もないようです。起きたばかりで少々混乱されているようですが、深刻な状態ではありません」
「そうか……」
釜戸さんが今の私の状態を太蝋さまに説明すると、太蝋さまは安堵の息を吐かれて私の頬を撫でられた。よく知った絹の手触りが心地良い。
「風間。状況説明を」
「は」
次に太蝋さまは団扇さんを風間さんと呼んで、今の状況について訊ねられた。
私も今の状況がどうなっているのか知りたい。シロは何処へ行ったの?
風間さんは太蝋さまに向かって敬礼しながら話し始めた。
「雀通り近辺で熱猫の捜索をしていたところ、小さい結界に守られた親子を保護いたしました。その親子から火蝶の人間だと名乗るご婦人に助けられたとの情報を得、ご婦人が立ち去られた方向へ私、風間が率いる分隊で向かいました。道中、道端の日陰で座り込んでいた老人を保護し、ご婦人の情報を聞き出したところ、白い猫を追いかけて行ってしまったとの情報を聞き、指し示された方角へ進みました。そして、火焚夫人が熱猫に襲われている状況に遭遇し熱猫と戦闘となりましたが、隊員の殆どが戦闘不能に追い込まれ、取り逃してしまいました。現在は隊員らと、火焚夫人の救助を優先している状況となります」
「そうか、分かった。よく熱猫から妻を救い出してくれた。礼を言う」
「いえ、とんでもありません」
風間さんは報告を終えると敬礼を解いて、釜戸さんと共に他に倒れている隊員さんの看病へ向かって行った。
私は風間さんの話の中で気になった単語を太蝋さまに訊ねた。
「太蝋さま……ねつびょう、って……?」
「……」
私の問いに太蝋さまはすぐに答えられなかった。代わりと言いたげに私の両手を握り締める。
嫌な予感を覚えながら、私は次の質問を投げ掛けた。
「……シロを、見かけませんでしたか? 私、シロを追い掛けて、ここまで来たんです。あの子、私について来いって言うみたいに先を歩いて行って――」
「八重」
私の言葉を遮るように太蝋さまは私の名前を呼んだ。
「……シロは……熱波を呼び起こす災物――熱猫だ」
災物、と言う単語に頭が一瞬、真っ白になった。それは火ノ本全国で発生する災害の動物の呼び名。
太蝋さまはシロが熱波の災物だとおっしゃった。
目覚めて一番最初に視界に映ったのは――がま口財布の異形頭の人だった。
「……あの…………――」
「無理に喋らなくて大丈夫よ。今、冷やしてるところだからね」
太蝋さまと同じように、どこに口があって目があるのか分からないけれど、聞こえてくる声は男性のものだ。口調が女性らしいから、もしかしたら声が低い女性……?
ぼんやりとする意識の中で考えていると、どこからか涼しい風が吹いてきていることに気が付いた。熱風が吹き荒ぶ環境の筈なのに。
不思議に思って視線だけ動かすと、横たわっている私の足元に団扇の異形頭の人がしゃがみ込んでいるのが見えた。その人が手扇で私を仰いでくれているみたい。普通の手扇とは思えない風量がきていることから、霊力で風量を増させていると分かった。
「他に痛むところがあったら指差しで教えてもらえるかしら? 動くのが辛いなら目線でも良いわ」
「いえ……何処も、痛くないです……」
「そう。なら良かった」
そう言って、がま口さんは安心した様子で息を吐いた。手扇で仰いで下さっている団扇さんも同じような反応をしている。
――……一体、何が起こったのかしら。
私はシロの後を追いかけながら、朱町の中を歩いていた。でも、あまりの暑さに耐えきれなくなって倒れてしまった。そこを、この異形頭の人達に助けてもらった……と言うことかしら……?
「もう少し待っていてね。貴女が一番安心できる人を呼ぶように頼んでいるから」
「……え?」
穏やかな声色でがま口さんがそう言う。どう言うことだろう?
そう不思議がっていると、遠くの方から走ってくる足音が聞こえてきた。
そして……。
「八重!」
私を呼ぶ声が聞こえた。それは、確かに私を安心させてくれる声だった。
「たろう……さま……?」
――いけない。旦那様の前で、こんなみっともない姿、見せられない。
私はまだ少しくらくらする頭を抱えながら、何とか起きあがろうと腕に力を込めた。がま口さんが「無理しないで」と心配そうに言いながら、手を貸してくれる。団扇さんも手扇をしながら、私が倒れた時を考えてか手を差し伸べてくれていた。
何とか起き上がれた頃、目の前の地面で砂埃が上がって、射し込んでいた太陽の光が遮られた。見上げると蝋燭頭の――太蝋さまが私を見下ろしていた。
「八重、大丈夫か?」
「あ……その……」
何が起こっているのか良く分からない。そう伝えようとしたけど、頭が上手く回らなくて言い淀んでしまった。
すると、太蝋さまは神妙な雰囲気を漂わせながら、がま口さんに訊ねた。
「釜戸。八重の容体は? 熱は?」
「先ほどまで濡れ手拭いで頭や首を冷やしていました。その間からずっと、風間少尉に仰いでいてもらっています。保護当時は随分と熱を持ってらっしゃいましたが、今は微熱程度まで下がられています。他に怪我もないようです。起きたばかりで少々混乱されているようですが、深刻な状態ではありません」
「そうか……」
釜戸さんが今の私の状態を太蝋さまに説明すると、太蝋さまは安堵の息を吐かれて私の頬を撫でられた。よく知った絹の手触りが心地良い。
「風間。状況説明を」
「は」
次に太蝋さまは団扇さんを風間さんと呼んで、今の状況について訊ねられた。
私も今の状況がどうなっているのか知りたい。シロは何処へ行ったの?
風間さんは太蝋さまに向かって敬礼しながら話し始めた。
「雀通り近辺で熱猫の捜索をしていたところ、小さい結界に守られた親子を保護いたしました。その親子から火蝶の人間だと名乗るご婦人に助けられたとの情報を得、ご婦人が立ち去られた方向へ私、風間が率いる分隊で向かいました。道中、道端の日陰で座り込んでいた老人を保護し、ご婦人の情報を聞き出したところ、白い猫を追いかけて行ってしまったとの情報を聞き、指し示された方角へ進みました。そして、火焚夫人が熱猫に襲われている状況に遭遇し熱猫と戦闘となりましたが、隊員の殆どが戦闘不能に追い込まれ、取り逃してしまいました。現在は隊員らと、火焚夫人の救助を優先している状況となります」
「そうか、分かった。よく熱猫から妻を救い出してくれた。礼を言う」
「いえ、とんでもありません」
風間さんは報告を終えると敬礼を解いて、釜戸さんと共に他に倒れている隊員さんの看病へ向かって行った。
私は風間さんの話の中で気になった単語を太蝋さまに訊ねた。
「太蝋さま……ねつびょう、って……?」
「……」
私の問いに太蝋さまはすぐに答えられなかった。代わりと言いたげに私の両手を握り締める。
嫌な予感を覚えながら、私は次の質問を投げ掛けた。
「……シロを、見かけませんでしたか? 私、シロを追い掛けて、ここまで来たんです。あの子、私について来いって言うみたいに先を歩いて行って――」
「八重」
私の言葉を遮るように太蝋さまは私の名前を呼んだ。
「……シロは……熱波を呼び起こす災物――熱猫だ」
災物、と言う単語に頭が一瞬、真っ白になった。それは火ノ本全国で発生する災害の動物の呼び名。
太蝋さまはシロが熱波の災物だとおっしゃった。
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