片翅の火蝶 ▽お家存続のため蝋燭頭の旦那様と愛し合います▽

偽月

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一章 雨だれ石を穿つ

-9- 丁か半か

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 一か八か。

 八重は立ち上がった。それから、太蝋の視界に映る所に正座する。

 そして。

「だ……旦那様……っ」

 目を閉じていた太蝋の耳に、切羽詰まった八重の声が聞こえた。
 畳を歩く足音や、空気の流れから顔の前に八重が座ったことが分かっていたが、目を閉じていて八重の行動の全てを太蝋は見ていなかった。

 太蝋は目を開けて、目の前に座っている八重を見上げた。

 自身の頭の炎に照らされたのは、八重の白い肌。

 普段の格好では分からなかった豊満な胸。
 目を奪われる桃色の突起が、空気に晒されている姿に太蝋は息を飲んだ。
 頭の火が大きく揺らめく。

 消極的な態度だった八重が自ら寝巻きを脱いで誘惑してくるとは思わず、太蝋は密かに動揺した。

 だが、その誘惑に乗ることはできない。
 そう思った太蝋は冷静を装いながら、やめるように言おうと口を開いた。

「八重……――」

 しかし、太蝋は三度目の拒否を口にできなかった。

 真っ赤に染まった頬や、目の縁に溜まっている涙が見えてしまったから。

 強い羞恥心に見舞われながらも八重は務めを果たす為に肌を曝け出したのだ。
 小刻みに震える肩や唇から、拒絶されることへの恐怖も伝わってくる。

 涙で潤んだ瞳が泳ぐ姿や、緊張で丸まった背筋。
 絹のような白い肌に、柔らかそうな胸。

 太蝋は起き上がり、八重の前で胡座をかいた。
 そして、八重の両乳を持ち上げるように手を添える。

「あ……っ」

 手袋をはめたままの太蝋の手が、自分の胸を触り始めた光景を見て、八重は頭が沸騰しそうなほどの羞恥に見舞われた。
 感触を確かめるような手付きがこそばゆく感じて息が浅くなる。
 羞恥で溢れた涙が、瞬きと共に胸へ落ちていく。

 手触りの良い手袋で触られる感覚。
 手袋の下から現れた無骨な大きい手。
 明らかに人よりも高い体温。

「――キツそうだな」

 太蝋の言葉を聞き、八重は顔面蒼白になった。
 男を受け入れ、子を成すと言うことの意味を突き付けられた気がした。

 今、やめたいと言ったら、太蝋はどんな言葉を返してくるだろうか?
 その言葉には、どんな感情が乗せられるのだろうか? 失望? 嘲笑?

 いずれにしても、次の機会を与えられることなく見放されるかもしれない。

「大丈夫です……っ。つ、続けてください……っ」

 務めを果たせないままではいられない。
 どれだけ身体的な苦痛が伴おうと、これまで経験してきた心痛を思えば、どうと言うことはない。
 身体の痛みなら耐えれば済むことだ。
 待ち構えている辛い現実を思えば尚のこと。

「……お前は案外、強情だね」
「え……?」

 言われたことがない評価を聞き、八重は目を丸くさせた。
 だが、太蝋の指が中で動き始めたことで、言葉の意味を考える余裕が奪われる。

 寝巻きに隠された大きな身体に組み伏せられる。
 かと思いきや溢れる涙を拭われる事も。
 事が進む度に強風に煽られたかのように太蝋の頭の炎は大きく揺れた。

(奇麗……)

 八重は太蝋の炎に魅入られた。
 まるで光に引き寄せられる羽虫の如く。
 火に身を焦がされる蝶の如く。
 片翅かたはねしかない背中のあざが熱を宿した気がしたのだ。

 太蝋の炎によって、本来の熱を取り戻したかのような錯覚すら覚える。
 八重が炎に魅入っていると一瞬、ぼわっと勢いが増した。

 それから少しして太蝋の口から〝終わり〟を告げられた。

 何も答えられない状態の八重を見た後、太蝋はおもむろに立ち上がった。
 箪笥から手拭いを取り出して八重の元に戻ってきて言う。

「自分で拭けるか?」
「……あ。……はい……」

 差し出された手拭いを受け取ると、太蝋は八重に背を向けて、もう一枚持ってきていた手拭いを使い、身支度を整え始めた。
 その姿を横目に八重も涙や汗などの体液を拭う。
 手拭いに付着した僅かな血を見て、八重は改めて破瓜したのだと実感した。手拭いに移った体液はそれだけ。

 諸々の体液を拭き取り終わり、身支度を整えていると太蝋が背を向けたまま口を開いた。

「……明日あすの早朝、火縄のお二人が帰られる」
「…………はい……」
「それに合わせて、私も遠征任務に出発する」
「……はい…………」

 事が終わったばかりで茫然としている様子の八重。
 そんな姿が痛ましく見え、太蝋はぐっと口を一文字に閉じて奥歯を噛み締めた。

「……見送り、出来るように休みなさい」
「……はい」

 最後に眠るよう促すと、八重は隣に敷かれた布団にもぞもぞと入り込んだ。

 布団の中で小さく丸まっている姿を見ているだけで、太蝋の中に罪悪感が込み上げてくる。欲に溺れた自分が情けなく感じてくる。
 太蝋は小さく首を横に振った後、八重に背を向けるように布団に横たわった。

 徐々に部屋を照らす灯りが小さくなっていく中、八重はうとうとと眠気に誘われる中、一連の情事を思い返す。

(……あ)

 すると、とあることに気がついてしまった。
 情事中は太蝋の頭の炎の揺らめきに気を取られていて、気が付けなかった。

(旦那様……手袋以外、脱がれなかった……)

 寝巻きの下に着込んだ、とっくり襟と下履き。
 手袋だけでなく足袋まで完備していて、肌を見たのは片手とモノだけ。

 腰紐を結んだまま乱れた寝巻き姿で、事に及んだ自分の様子を客観視すると酷く滑稽に思えてくる。
 八重は恥ずかしさから逃げるように頭から布団を被り直す。
 迫り上がってくる将来の不安に、じわじわと涙が浮かんでくる。

(駄目。まだ、始まったばかりなんだから……)

 不安を押し殺すように八重は布団の中で身を丸めた。
 閉じた目の縁から涙が溢れてきても、隣で寝ている太蝋に泣いていることを気付かれる訳にはいかない。
 旦那様である太蝋を失望させたらいけない。必ず務めを果たさなければ。

 そう自分を言い聞かせながら、八重は微睡まどろみの中へ落ちていった。
 生糸を手繰る夢を見れることを願って――
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