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一章 雨だれ石を穿つ
-4- 火蝶本家・火焚
しおりを挟む翌日。火縄家は揃って帝都に向かって出発した。
道中の殆どを馬車で移動し、帝都まで走る蒸気機関車に乗っていく。
八重の嫁入り道具の殆どは、前以って火焚家に送られているため、三人の手荷物は道中の旅支度程度だ。
しかし、それでも帝都に到着するまでに長い旅路を辿った。
そして、いよいよ帝都に到着し、火蝶の本家――火焚家の本宅に到着した。
「――ようこそ、お越しくださいました」
火縄親子を出迎えた古参の女中は、何処か薄寒い笑顔を浮かべている。
火縄夫妻は気にする素振りを一切見せず、古参の女中の案内に従って屋敷の中を進んでいく。
列の一番後ろを歩いていた八重は、すれ違う使用人や女中からの冷ややかな態度を感じ、肩身が狭くなった。使用人たちからは歓迎の色は見られない。
これが八重でなく千重だったら、頭を下げたままでも笑顔を浮かべていただろうに。そんな、どうしようもない卑下をついつい思ってしまう。
三人は古参の女中の後をついていき、当主と長男が待つ部屋へと向かう。
部屋の前で使用人が膝をつき、火縄家の到着を知らせた。
「――御当主様。火縄家の方々がご到着なされました」
「お入りなさい」
ハキハキとしていて艶めいた女の声が返ってきて、八重達は緊張で体を強張らせた。古参の女中が部屋の襖を開けると同時に先ず、桑治郎が頭を下げる。
「ご当主様、お久しゅうございます。火縄家一同、ご当主様とご子息様にご挨拶申し上げます」
桑治郎に倣い、透子と八重も静々と頭を下げる。
そんな三人の姿を見て火焚家当主――火焚玲子は、快活さを思わせる笑顔を浮かべた。
火蝶一族をまとめ上げる、本家の当主としての威厳を感じさせる。
「おほほ。遠方からご苦労様でした。さ、御三方ともこちらへ」
当主は品良く笑いながら、自身の前に置いてある三組の座布団を手で指し示した。
当主の勧めを受け、火縄家は桑治郎、透子、八重の順に座布団に正座する。
当主の前に火縄夫妻。火焚家長男の前に八重。
火縄夫妻が当主と和気藹々と話す中、八重は緊張した面持ちで揃えた脚の上に置いた両手を見つめたまま俯いている。
そうして暫く過ごしていると、当主が隣に座っている息子――火焚家長男に話しかけた。
「太蝋。私は桑治郎さんたちと別室で話してきます。しっかり八重ちゃんと話しなさいね」
「言われずとも」
母親の言葉に対し静かに溜息を吐きながら答え、火焚太蝋は部屋の襖の方へ手を差し向ける。
どうぞ構わず出て行ってくださいとばかりに。
そんな太蝋を横目に当主は「これだから息子って可愛くないわ~」と愚痴を溢しながら、火縄夫妻と応接室を出て行った。
所謂、後は若い二人でごゆっくり……と言う奴だ。
当主と火縄夫妻が応接室を出て行って数分経った頃。それまで、静かだった応接室に声が響いた。
「八重。顔を上げなさい」
無情の声で呼び掛けられ、八重はビクリと肩を揺らした。両手をぎゅっと握り込み、ひたすらに目が泳ぐ。
「八重」
二度目の呼び掛けには同じことを言わせるなと言う意味が篭っているように聞こえた。
八重は生唾を飲み込み、意を決して太蝋を見上げた。
きっちりとした軍服を身に纏い、しっかりと胸を張って鎮座する男が居た。
目鼻立ち所か、口や耳の位置まで分からぬ白い頭。小さな火が揺らめいていて、思わず目が奪われそうになる。
――火焚太蝋は、人間の体に蝋燭の頭がくっついた異形だ。
火ノ本には初代巫女の時代以前から、異形の頭をした人間が存在していた。
その者達は頭の特性を身に宿し、膨大な霊力を誇る存在だったが、見た目からして恐れの対象であった。
そして今の時代でも、恐れや軽蔑の対象となっている。
尤も、それが顕著なのは田舎に限った話である。
火焚家がある帝都では異形頭は、そう珍しくもない。
その上、異形頭の中でも一目置かれる者達がいる。
火の信仰が篤い火ノ本では、太蝋のように火を司った異形頭は田舎でも信仰の対象になり得るのだ。
更に言えば、太蝋は火蝶の本家の生まれであり、特殊な軍役に就いている。
火蝶の血族だけでなく、外部の人間からも一目置かれる優秀な男だ。
周囲から篤い信頼を寄せられ、自身も優秀である太蝋の存在は八重には遠い存在に思えて仕方がなかった。
元々、優秀な姉の千重が婚約者であったと思うと余計に。
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