31 / 88
二章 恋の病に薬なし
-31- 地を這う雀
しおりを挟む「――ヨネちゃんは、何処も調子悪くない?」
「あたしは平気。熱もないし」
斬島がヨネに体調を訊ねると、ヨネは自分の額に手を当てながら答えた。
太蝋に噛み付くほどの勢いで騒いでいたことから元気そうには見えるが、弟の一人が昨日から寝込み始めたと聞くに、今日にでもヨネが寝込んだとしても不思議ではない。
懸念を思った斬島はヨネに聞く。
「念の為、熱を測らせてくれないかな? 自分で分かってない内に体調を悪くすることもあるからさ」
斬島の言葉を聞き、ヨネは少し考える様子を見せてから渋々と言った様子で答えた。
「いいけど……あたしの言葉、信用してないでしょ」
「えぇ? 違うよぉ。信じてないんじゃなくて心配してんの」
「……」
「ちょっと、おでこ触らせてもらうね~」
「……うん」
そう言って、斬島は口を尖らせるヨネの額に手を伸ばした。
「触るな」
触れる直前、ヨネの声が響いた。
先ほどまで小生意気な態度で話していた姿からは想像できないほど物々しい。
何事かと思いヨネの顔を覗いた瞬間、不気味な笑みと目が合う。
「斬島!」
太蝋の呼び掛けと同時に斬島は思い切り後ろへ引っ張られた!
尻を打った痛みで襟元を掴んで引っ張られたのだと理解し、斬島は即座に体勢を立て直して身構える。
腰に差している軍刀の柄に手を掛け、ただならぬ気配を漂わせているヨネを見据える。
「……ヨネちゃん?」
「気安く呼ぶな。下郎めが」
気が強いだけの普通の少女とは思えぬほどの圧と殺気。
確かにヨネが喋っている筈なのに、全くの別人が話しているとしか思えない。
ヨネの姿をした何者かが言った。
「ヨネは吾の花嫁。吾以外の雄が触って良い雌ではない」
恵みの気候で生き生きとしていた草花が、たちまちの内に萎れていく。
ヨネから漂っている霊力に当てられ、病に罹り、生気を失っていっているようだ。
神聖な霊力の気とは言えないだろう。瘴気と言った方が説得力がある。
明らかに何者かがヨネの身体を操っている状況を前にして、斬島は太蝋の前を陣取り、いつでも抜刀出来る構えを取った。
「――隊長」
斬島の呼び掛けに対し、太蝋は手袋を外しながら答えた。
「あぁ。災物憑きだ」
災物憑き。
それは人間に災物が憑く事を言う。
滅多に無い事例であり、火ノ本全国でも目撃された例は数百件程度に留まる。
基本的に災物は意志無きまま災害だけを振り撒く存在であるが、稀に明確な意志を持って行動する災物が現れることがある。
そう言った災物は自身の力を増す為に霊力を吸収しようと人間を襲う。
中には人間に憑く事で人間に近付き、より多くを殺し、霊力を奪おうとするのだ。
そう言った被害に見舞われた人間を、狐憑きに因んで災物憑きと呼んでいる。
だが、ヨネに取り憑いた災物は、稀な事例の中でも更に稀な状態だった。
「災物憑きって、こんなに元気でしたっけ? 普通、もっと衰弱してますよね?」
災物に憑かれた人間は、憑かれている間も霊力を吸収される為、どんどん衰弱していき最後には死に至る。
だが、目の前のヨネは災物が顔を見せるまでは至って健康そのものの少女だった。
その疑問に太蝋が答える。
「ヨネ自身の霊力が通常より多いから抵抗出来てるんだろう。頭災物の取り憑きには抵抗できなかったようだが」
「隊長みたいに霊力馬鹿高い人間なんて、そうそう居ませんからね?」
「火蝶の家系には多いんだがな」
「そもそも、それが珍しいんですって!」
災物対策炎護隊は霊力が高い軍人で構成されている。
殆どの隊員は子災物の影響を受けないほどの霊力を保持しているが、頭災物に対抗出来るほどの霊力持ちは滅多に居ない。
ヨネは炎護隊の一般隊員並みの霊力を持っていると言うことだ。
だが、頭災物に抵抗出来るほどではなかった。
つまり――
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる