片翅の火蝶 ▽お家存続のため蝋燭頭の旦那様と愛し合います▽

偽月

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一章 雨だれ石を穿つ

-14- 暗雲立ち込める鷺

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 災害の種類によって災物は姿を変える。
 更には頭災物とうさいぶつ子災物こさいぶつに分類され、災害の始まりに子災物が出現し始める。
 子災物が増えていくと災害の勢力が増し、頭災物が現れ、本格的な災害が出現箇所に対して猛威を振るうのだ。

 今回の場合、子災物である雨鴨が水田に現れ始め、虫などの動物から霊力を吸収して勢力を増した結果、頭災物である雨鷺が現れたのである。
 災物を完全に討伐するためには霊力の核を破壊しなければならない。
 霊力がある限り再生し続けるからだ。
 が、頭災物は子災物を吸収し勢力を増すため、霊力の補給をさせないために子災物の討伐から始まるのが通例だ。

 太蝋率いる第一炎護中隊は四個小隊で構成されており、今回の任務では内二個小隊が災物討伐に当たっている。
 残り二個小隊は周辺地域の警護と、災物が警戒網から抜けた時に討伐する役目を担っている。
 順調に雨鴨討伐が進み、頭数が減ってきた。
 上空で雨を降らせている雨鷺は一向に高度を落とさず、旋回し続けている。

「鳥系の災物はこれが面倒だな」

 心底から面倒臭そうに言って溜息を吐く太蝋。
 それに対し、斬島はイキイキとした表情をしている。

「トリあえず、片翼落としますか!」
「高度は落としてやるから早く準備しなさい」

 一々指摘するのも面倒だと言いたげに太蝋が素気なく言うと斬島は「お願いしま~す!」と言って、雨鷺を落とす為に〝跳ぶ〟準備を始めた。
 その様子を見ながら、太蝋は太蝋で隊員に雨鷺を落とした後の指示を伝えている。

 斬島の方で準備が終わると、太蝋は手の中で蝋を捏ねて何かを作り始めた。
 出来たのは細長い投げ矢だ。それを箸を扱う時のように握り、上空を旋回している雨鷺を標的に捉える。

 そして、曲げた肘を伸ばすだけの最小限の動きだけで投げ矢を放つ!

 放たれた蝋の投げ矢は雨鷺の大きな翼に突き刺さった。
 更に刺さった所から火が上がり、遥か上空を飛行していた雨鷺の高度が、がくんと下がった。
 地上から見上げた時に豆粒ほどの大きさだった雨鷺が、拳大ほどの大きさに見える。

 すると、地上から大きな弾丸のような影が雨鷺に向かって跳んでいった。
 そして、目にも止まらぬ速さで片翼が斬り落とされる。
 数人の隊員の手を借りて、空に跳んだ斬島が一閃したのだ。

 雨鷺は空に向かって鳴き声を上げながら墜落した。
 雨で水位が上がった水田にボチャンと落ち、水の中で再び飛び立とうともがいている。

 しかし、雨鷺は翼を再生している間に網で捕獲されてしまった。
 自身が降らせている雨が網に当たる度に蒸発するような音が鳴り響く。
 じわじわと身体が焼かれていくような熱さを網から感じる。

「首を落とせ」

 太蝋の指示を受け、傍に控えていた包丁の頭をした異形頭の隊員が、雨鷺の首に向かって手を振り下ろした。
 刃物のように鋭い手刀が雨鷺の首を捉え、ごとりと首が落ちる。
 翼の再生が止まり、首の再生が始まる。だが、翼より再生速度は遅い。

 雨鷺が身体の再生に手間取っている間に太蝋が手に炎を纏わせながら近付いて行った。
 そして。

「そこか」

 太蝋は雨鷺の身体で最も光を放っている箇所に手を突っ込んだ……!

 雨鷺の体内で光を放っていたのは霊力の塊。雨鷺の形を成している核であり、心臓だ。

 太蝋は霊核を握ったまま業火を放った。
 降り注ぐ雨が水蒸気に変わり、雨鷺と太蝋の存在を包み込んでいく。

 上空に立ち込めていた黒雲が徐々に晴れていき、雨の勢いが小さくなる。
 雲の向こうには、夏の青い空が広がっているのが見えた。
 大雨の災物・雨鷺の討伐が完了し、本来の天気を取り戻したのだ。

 太蝋は斬島に討伐完了を称えられながら、戦後処理を行なうように指示を下していった。
 避難させた周辺住民への討伐完了通達。怪我人の救助。災物被害を被った住民への補償金支給に於ける案内。
 その他諸々の戦後処理を行なう中、斬島は晴々しい笑顔を浮かべながら言った。

「――雨鴨あめがも発見報告から約二週間……! 移動期間までに雨鷺あめさぎが現れることも考慮に入れての討伐作戦! 久々の遠征になりましたね~! 戦後処理も終われば、やっと帰れる~!」

 それに対し、太蝋は乾いた手袋をはめながら答えた。

「そうだな。帰っても仕事は山積みだけどね」
「あ~~~! 考えたくね~~~!!」

 太蝋の言葉に斬島は心底嫌そうに頭を抱えて悶絶打つ。
 そこへ追い討ちを掛けるように太蝋は言う。

「ついでに言ってやろう。災害の時期はこれからだとな」
「大雨、台風、竜巻、雷、土砂崩れ、熱波ぁあ~~~!!」

 今回発生した大雨災害を含め、夏の時期に起こる災害の代表格を羅列したことで、斬島は自らを追い込んだようだ。
 その場にしゃがみ込んで現実逃避しようとしている。
 しかし、太蝋はそれを許さなかった。

「疫病、地震、津波、噴火も忘れるなよ。季節関係なく発生するぞ」
「嫌だ~~~!!」

 斬島は地面に寝転がって駄々をこね始めた。
 とても中尉等級の軍人であり、太蝋よりも年上の男には見えない。
 その様子を呆れながら横目で見つつ、太蝋は他の部下達から被害報告などを受け取っている。
 それらを共に聞いていた斬島は起き上がりながら言った。

「――……まぁ、これでようやっと新米が作られて、美味い飯が食えると思えばいっか~」

 部下達から報告される内容から、雨鷺による被害は最小限に抑えられたことが分かった。
 死傷者はなく、怪我人も少ない。討伐作戦が繰り広げられた周辺水田への被害は主に増水によるもの。
 日が経てば、それも少しずつ解消される筈だ。戦闘の余波で傷付けられた土地への補償も行なわれる予定である。
 それらの事情を鑑みながら言われた言葉に対し、太蝋はフッと笑い声を漏らした。

「お前の前向きな所は見習うものがあるよ」
「災物相手にムキになっても仕方ないですからね!」
「そうだな。じゃあ、仕事してくれるか?」
「はい。します」

 太蝋から細かな報告が記述された紙の束を渡され、斬島は報告書作成に動き出した。
 なんだかんだ言って、斬島は仕事も戦闘も出来る男だ。
 その上、蝋燭ろうそく頭で感情が顔に出ない太蝋を補うように感情豊かで、人に好かれる剽軽ひょうきんさを兼ね備えている。
 死と隣り合わせの軍に於いて、部隊内の雰囲気を和らげることが出来る貴重な存在だ。
 そんな斬島が副隊長だからこそ、太蝋も軽口を叩きながら任務に当たれている。

 無事に戦後処理が終わると太蝋率いる第一炎護中隊は居を構えている帝都へと帰還した。
 基地に戻ってからも仕事に追われる日々が続き、あっという間に一ヶ月の時が過ぎたのである。
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