北海帝国の秘密

尾瀬 有得

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一章⑩

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 それから俺は後始末を行った。ヨーム戦士団内の、兄貴の息のかかった連中の生き残りを粛正したのさ。大体ひと月くらいかけてじっくりとな。

 秘密を知ると思しき奴は全員殺したよ。もちろん、その家族もすべてだ。幼かろうと、女だろうと。生き残った者は仇討ちの権利を有するからな。

 理解できない? ああ、そうかい。してもらおうとも思わねえよ。それが俺たちの流儀ってもんだが、記憶のねえお前さんにはピンと来ないのかもしれねえな。まあ、いいさ。

 当たり前だが、俺は兄貴の策謀についちゃ口を噤んだ。ビョルンにさえもな。だから、この時点でヨーム戦士団にあってクヌートの秘密を知っている者は俺だけになった。

 後始末が済むと、俺はヨムスボルグを出ることを決めた。元々兄貴を快く思っていなかった残りのヨーム戦士団の連中に、この先のことは任せるから好きにしろ、と告げたんだ。

 俺が首領の座に座ればよかったって? おいおい、忘れたのか。俺はもう、カンタベリーの一件でスヴェン王に目を付けられていたんだぜ。

 事実、後に使者がやってきてスヴェン王は大層お怒りということでな。俺をデンマーク軍から追放するという沙汰が下った。

 となりゃあ、俺がそのままヨーム戦士団の首領に収まったりすれば、全体がその責を負うことになる。軍団内の大半、なにも知らねえ他の連中にはそれは酷ってもんだ。

 言ってみりゃこの一件、兄貴の死は、ヨーム戦士団の内紛ってことになる。まあそんな噂が広まってもうまくねえから、公式にはシグヴァルディは病没って形に収まってるがな。

 へっ、病没か。便利な言葉だよ、まったく。

 で、仕方がなかったこととはいえ、俺と手下どもはヨムスボルグ内で刃傷沙汰を起こしたことになるわけだが、そこは頭である俺が軍団の永久追放という形で責任を取ることにした――

 とまあ、これが建前だ。

 本心を言えば、ヨーム戦士団の首領なんて立場は邪魔でしかなかったのさ。
 俺がこれからすべきことを考えれば、とっとと自由の身になりたかった。

 すべきこと? 決まってるだろ。

 『魔女』と、その娘、俺の娘は海に消えた。
 だが、少なくとも息子はクヌートとして生きている。
 そんな、いつ露見するとも知れない秘密を抱えて、たった一人でだ。

 だったら、俺が助けてやらずに誰があいつを助けてやれるっていうんだ。そうだろ?

 出立の準備は簡単だったよ。俺はヨムスボルグに家族もいないし、公式な妻もない。剣ひとつ身ひとつ、小舟ひとつで十分だった。

 ところが……いざ出発するとなった折だ。

 竜頭の船がずらりと並ぶ港にはビョルンが待っていた。あいつだけじゃない、手下ども五百名余りが総出でな。

 訝る俺に、手下どもは全員、俺についてくると言い出した。

 何故かをビョルンに問うたんだ。そうしたら、

「理由なんかねえ。俺がそうしたいからだ」

 ……だってよ。他の連中も似たり寄ったりだ。殺ししか能のねえ男どもが五百ばかりも揃いも揃って、どいつらも馬鹿な奴らさ。

 こいつらが暴れた罪は不問にさせたはずなのによ。ったく、なんのために俺が骨を折ってやったと思ってんだって話だ。

 ……へっ、分かってるよ。そのことに俺はずっと感謝してる。あいつらのほとんどが、俺を置いてヴァルハラに行っちまった今でも、ずっとな。

 生き残った連中も、こんな耄碌した俺を見限らねえ。本当、手下に恵まれたのは俺の数ある幸運の一つさ。

 まあ、あいつらには口が裂けても言ってやらねえがな。
 お前さんも余計なことを口走るんじゃねえぞ。分かったな?
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