愛と死を乞う

嶼船井

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小さな少女

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  彼は多くの場所を歩いてきた。
  都市や海を越え、雑草と花々の間を歩いてきた。彼は歩き、歩き続けた。コオロギが必死に鳴く中、群衆のざわめきと雨音の中を歩いていた。
  いや、彼はただ歩いているだけだ。彼は空虚の中を、無の中を歩いている。ただ、歩くという動作をしているにすぎない。彼の歩みに何の意味もない。もしあなたが二歩前に進み「ねえ、どこへ行くの?」と尋ねても、彼は数秒考えてから首を横に振り、再び歩き出すだろう。
  彼は自分が望んでいた自由を見つけたようだった。
  彼は歩く、ただ歩き続ける。
  ——
  そのとき、鋭い音が私の鼓膜を裂いた。
  我に返ると、その音はそれほど耳障りなものではなかった。ただ、長らく閉ざされていた耳が荒々しく、あるいはやさしく開かれただけのことだった。
  私は視線を下ろした。そこには小さな少女が私の前に立っていた。彼女はさっき質問をしていたが、私は全く反応できていなかった。私は死んだのか、それとも頭まで一緒に死んでしまったのか?
  「もしもし?おーい!」
  「……うん。」
  少女は不思議そうに私を見つめた。「歩いているのに、ぼーっとしているの?あなたも変な大人だね。」
  「ああ……ごめん、さっきは聞こえなかったんだ。」
  「あなたも死んだの?」
  私はどう答えればいいのか分からなかった。私は死んだのか?確かに、私は死んだ。ほんの少し前に……いや、それはずっと前のことだったかもしれない。私の死体と花が湾岸で死んでいるのを見た。
  「確かに、私は死んでいる。」
  「じゃあ、どうしてここで歩いているの?お墓はないの?」
  「私はそんなものは必要ない。君はどうだい?」
  小さな少女の生き生きとした細い体が、私の目の前で鮮やかに動いていた。「私も分からない。きっと未練があるんだと思うけど。」
  「未練があると死なないのか?」
  「何言ってるの、私はもう死んでいるじゃない。」
  そうだ、彼女は死んでいる。私も死んでいる。そう考えればすべて辻褄が合う。だが、さっきまでの出来事がまるで川のように流れていき、私にはまったく実感が湧かなかった。それはたぶん、私がもう死んでいるからだろう。
  思わず聞いてしまった。「君の未練って何?」
  「私は花を探しているんだ。」
  花。
  あの脆いバラが再び脳裏に浮かんだ。私は自分勝手に彼女を墓に連れて行き、海にその肌や骨を引き裂かせた。涙を流しそうになり、顔を背けて目を覆った。
  「……具合が悪いの?」
  「死んでいるのに、具合が悪いも何もないだろう。」
  私は顔を上げて、真剣に少女に尋ねた。
  「どんな花を探しているの?」
  「小さな白い花だよ。でも、今は本を持っていないから見せられないけど、ちょっと待って……」彼女は何もない空を見上げて、一生懸命に考えているようだった。「その花は茎が細くて、花びらが六枚あるの。どれもかわいい白色だったはず。葉っぱは……ほとんど忘れちゃったけど、見れば思い出せると思う!」
  その頑張っている姿は、どこか滑稽だったが、私の空っぽの心にかわいらしさがふと芽生えた。
  歩こう、続けて歩こう。私は彼女と一緒に都市や海を越え、雑草や花の中を歩く。彼女の願いが叶うまで、足を止めないでおこう。
  さあ、歩こう。
  ——
  都市。
  私は死を求めた理由を思い出し始めた。
  私は外に出るのが嫌いだ。ショッピングも嫌いだし、人混みに埋もれるのも嫌いだ。
  この目まぐるしい世界で、何度迷子になったか分からない。
  立ち並ぶビルは巨人であり、私はその巨人の足元でアリのように行き交っていた。
  他人を見ても、そこにあるのは同じような仮面ばかりだった。彼らが追い求めているのは、風のように駆け抜ける車や、鳴り続ける携帯電話、そして巨獣のような高層ビルだ。
  このまるで小学生の作文のような考えが、私に恐ろしい考えをもたらした。誰も自分の魂を追い求めていないのだ、と。
  だから私は恐怖を感じた。そして、その恐怖の先にあったのは、果てしない虚無と孤独だった。
  「名前は何ていうの?」
  「羽島。」
  考える間もなく、私は自分の名前を言っていた。
  「羽根の『羽』?小さな島の『島』?」
  「……うん。」
  少女は私を見て、少し不思議そうな感情を浮かべた。
  「外国人みたいな名前だね。」
  「そうだね、偽名だから。」
  「えっ!」
  まずは驚き、次に拗ね、最後にはまるで納得したかのように微笑んだ。彼女の表情は生きている人間のように豊かで、彼女の魂は死んだ体と共に再び生き返ったかのようだった。
  「君の名前は?」
  「どうして教えると思うの、大嘘つき。なんで偽名を使うの?」
  「その名前で生きていたからさ。」
  「本当の名前は?」
  「忘れた。」
  「またあの大人と同じだね。これ、何かの流行?」
  隣の少女は再び考え込むような表情を浮かべ、私は歩き続けた。私たちはこうして、都市を、湖を、小山を、村を越えて歩いた。でも、今では群衆を通り抜けるのが怖くなくなり、高層ビルが崩れ落ちるのではという心配も消えた。
  少なくとも、私たちはまだ生きていたときと同じだった——まるでこの世を通り過ぎる旅人のように。
  「そういえば、どうして偽名で生きていたの?」
  まさかこの話題がまだ続いているとは思わなかった。子供の好奇心というのは本当に恐ろしいものだ。
  「その名前をペンネームとして使っていたんだ。それ以外ではほとんど誰も本名を知らなかった。」
  私の存在は、インターネット上の哀れな一席に過ぎなかった。
  「へえ……それって、すごく……」
  なぜか少女は私に同情していた。でも、私自身が自分を哀れんでいないのに、どうして他人がそんなふうに感じるのだろうか?死んでから疑問が増えたばかりで、苦笑すべきか皮肉めいた笑いを浮かべるべきか、迷ってしまった。
  ——
  私たちは廃墟となった遊園地を歩いていた。ここはかつて私が憧れていた場所だが、地域的な事情で政府が経済支援をやめ、この子供時代の思い出の場所は壊されてしまった。
  「ここは都市の郊外だ。私はここで育った。」
  「素敵な場所だね。」
  「錆びついた鉄だらけの素敵な場所さ。」
  「錆びついた鉄だけじゃないよ、花が咲いてるじゃない!」
  彼女は不満げに片隅を指さし、私もその方向に目をやった。確かに、腐敗した鉄の中に、見知らぬ小さな花がぽつんと生えていた。少女はしゃがみ込み、その花びら一枚一枚をじっと観察していた。
  「これがそう?」
  「違うよ、花びらは死んだような灰色だった。」
  私は顔を上げ、この遊んで育った場所を見回した。子供時代の記憶が波のように押し寄せ、死んだ私の童年を懐かしむ気持ちが湧き上がった。
  タバコ、錆びた鉄、チョコレート。
  ——
  私たちはついに墓地にたどり着いた。
  そこには、夕日が崩れたかのような光景が広がっていた。きらめくビルの窓からは刺すような光が溢れ、わずかな暖かさだけが木々の間を抜け、乱雑に墓の上にこぼれ落ちていた。
  「ここが私の墓だよ。」
  少女は小さな墓石の前に立っていた。
  「君の墓がここにあるなら、どうしてあんな遠くにいたの?」
  彼女が振り返ると、彼女の笑顔と体が一緒に朽ち果てていた。
  ——
  「ある日、私はいつもより軽くなったことに気づいて、ベッドから飛び降りたんだ。
  鍵のかかったドアを開け、病室の前にいた使用人をすり抜けたとき、生まれて初めて自由を感じた。
  嬉しかった。本当に嬉しかった。たぶんそのとき、私はもう死んでいることに気づいていたんだろうけど、それでも喜んで走り回ったんだ。存在しない空気を思い切り吸い込んでね。
  どれくらい走ったか分からないけど、超能力を得たみたいに、知らない場所を駆け巡った。そのうちに、何かしらの未練を思い出して、私は自分を悼むための花を探そうと思ったんだ。
  その花のことは、もうよく覚えていないけど、白い花びらだけは記憶に刻まれている。それから私は花を探し始めた。都市や海を越え、山や平原を走り抜けて、そして湾岸の端であなたに出会った。」
  「みっともない姿だったね。」
  少女は笑った。確かに、彼女はとても面白い冗談を言った。だから、私も一緒になって自分を笑った。どれくらいの間、私たちは黙り込んでいたのだろう。まるで、何かしらの無言の約束があるかのように、私たちは同時にお互いに哀しみを感じていた。
  「その花、もう見つけたよ。」
  彼女は自分の墓を指差した。私もその方向に目を向けた。そこには、腐った花束に混じって、すでに枯れ果てた「花」が挟まっていた。それは死んだような黒色に覆われ、ねじれた姿が私を絶望させた。
  「それは葬花じゃない。それはもう死んでいる。白い花びらがないじゃないか。」
  「白い花びらがなくても、これが葬花なんだよ。事実だから。」
  少女は生きている人のようにしゃがみ込み、そのやせ細った花を手で掴もうとしたが、彼女の手はまっすぐ土の中を通り抜けてしまった。
  「やった、私の願いが叶った。」
  それは、もはや人間だったもの、あるいは今の幽霊から発せられる声ではなかった。彼女はすっかり人間ではなくなり、その希望や思考も、この場所のすべてと一緒に死んでしまった。彼女はもはや絶望すら感じていなかった。彼女はただ、私の目の前で死んだ。
  私の目の前には、何もなかった。
  ここには小さな少女などいなかった。
  ここには何もなかった。
  ——
  私は石欄に寄りかかる動作をしていた。
  わずかな温もりがゆっくりと足元に忍び寄っていた。私はそれを責めなかった。ただ、虚ろな目でビルに映る夕日を見つめていた。
  もう歩けない。私の精神は疲れ果て、これ以上、私を苦しめるものを見たくはなかった。それでも私は死んでおらず、私の思考はなおも痛みを伴って働き続け、私の求める死は何一つとして実現しなかった。
  私は自分の思考を手にかけて殺す必要があった。
  私の足は再び歩き始めた。それなら歩こう。私は自ら都市や海を越え、かつてと未来を歩き抜けよう。私は安息の地を目指す。神の住処に辿り着くまで歩き続けよう——もしその場所が本当にあるなら、そこに足を踏み入れて、神の前に立ち、その衣を掴んで叩きのめしてやるんだ。
  もう祈りはしない。私は自分の目を神から取り戻す。神が私の思考を殺せないなら、私自身がそれを破壊しよう。自分で、自分の思考を破壊するんだ。
  さあ、歩こう。
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