この眼の名前は!

夏派

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十八章

147話 vs妖術隊隊長 あと1人の『長』

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 妖魔島西側。

「黒魔法 隠。白魔法 浮」

 眩い光が突如として現れて、巨大なキツネのバケモノのところで爆発を起こす。

「眼光の翼」

 怯んでいる隙にクジャクの妖魔シャムルは自分の羽根をそのモンスターへと飛ばす。

「霊化」 それに対して全てをすり抜けさせる特徴を妖術隊隊長アートは発動させる。

 だがそれは読んでいた。

「よっしゃあ!!!」 空中からネコの妖魔ミューは肉球のある拳を振り下ろした。

 殴ッッ!!!! 霊化したはずのアートが殴られて体勢が崩れる。

 そう全てをすり抜けさせるのではなく、ひとつだけ、ミューの攻撃は当たるのだ。

「グワァ!! …………小賢しいことをしやがって、この貧乳が」

「「あぁ?!」」 ミューとネネが反応しましたとさ。

「いやなんでネネちゃんまで反応してるの? お姉さん的に、ネネちゃんは超貧乳だと思うけど」

「あ?」 クジャクのシャムルに煽られてさらに不機嫌になるネネ。彼女は今日は生理かな。

 機嫌が悪そうに見えてもネネは内心期待していた。

(このメンバーなら押せる。あのバケモノの全ての形態に対応できているのがその何よりの証拠ですね)

 と思った時、巨大キツネの口から真っ赤に燃える灼熱の炎がこちらへと襲いかかってきた。

「フライハアト!!!」

 ネネは空飛ぶ大きな翼を持つハト型モンスターに身を任せて、滑空しながらそのまま後方の眠っている王女様とその隣にいる魔法長まで行く。

「…………すまんな。王女様護衛のために、戦線から少し後ろに我輩がいて、戦闘に参加できないのが」

「…………大丈夫ですよ。アムールさんはしっかり王女さんを見張ってて下さいね。戦闘はボクらが受け持つので」

 心配そうに言うアムールに優しく告げた時であった。

「その通り!!! アムール! お前は片腕も魔力も無いんだから、しっかり休んでやがれ!!」

 突如として戦場にそんな声が聞こえてきた。しかも拡声器を使っている大きくうるさい声が。選挙カー並みだぜこれ。

 近くにある巨大な岩に立っていたのは。

「お前は…………」

 ビールの飲み過ぎだろと思えるほど出た腹によって、サスペンダーが今にもはち切れそうである。水色のワイシャツは今にもボタンが取れそうではあるのだが、何故か何かしらのドレスコードを彷彿させる。

 その男はキツネを見ながら拡声器を使う。

「そこのキツネ、今すぐその炎を吐くのをやめなさい!! 一体どんな大きなロウソクに火をつけるだ!! ここは既に私によって包囲されている」

 その人物はもはや誰もが知っているあのキャラクターである。

「アイツは…………」

 魔法長は驚愕しながら叫ぶ。

「警備隊隊長肥える者マンジャレ!!!!」




「いや誰だよッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ネネは絶叫する。

「いやホント誰ですか?!! ソレ。数行前の地の文で、『誰もが知ってる』とか書いてありましたけど、ホント誰? むしろ誰が知ってるんですか。ハイオクどころか、軽油にすらならないほどのキャラじゃないですか!! 植物油くらいのキャラじゃないですか!!」

「ん? 白髪超貧乳よ、何を言うか。マンジャレさんを知らないのか?」

「知らないですよ。誰ですかあのデブ」

「デブとはなんだ。クレオパトラ、ナポレオン、マンジャレと言うだろ?」

「言いませんよ。てかなんですか、そのまとめ。◯ouTuberの経歴まとめサイト並みにテキトーじゃないですか」

 そんな会話をしていると、肥えた豚じゃなくて、警備隊隊長が地面に降りて来て、拡声器を構えて戦場に声をかける。今は炎焼状態のキツネにキジシマウマネコが立ち向かっているところである。

「あと3秒後に、2時方向から、炎の息ブレス攻撃が来るぞ!!!」

 刹那。ちょうど2時方向から炎が放たれた。

「なっ」 思わずその様子に声が漏れた。

 2時付近にいた彼らはあらかじめその場から離れることに成功していた。

「なんで…………当てることが…………できたんですか」

「マンジャレは魔法は基礎中の基礎しか使えない。武術はその辺の一般人にすら負けるほどだ。酒癖は恐ろしいほど悪いし、食べ方は汚いし、女性隊員にはセクハラするし、息くさいし、足臭いし、汗臭いし、霜降り肉並みに油ギトギトだし」

「ちょっと魔法長さん? 私、流石にそこまでボコボコに言われると、悲しくなっちゃうゾ」

「だが、奴は観察能力に優れているんだ」

 観察能力? とネネは聞き返す。

「警備隊の主な目的は警備と監視だ。不穏な動きがないかどうかを監視してあらかじめ悪事が起きるのを抑える。その部隊のトップになっている男だ、観察能力は優れている。例えば、奴は対象の動きを見るだけで、ある程度の次の動きを読むことができるんだ」

 未来予知とはまた少し違うがな。あくまで推測の域だが。と魔法長は説明した。しかしこれで、なぜあんな的確な指示が出せたのか理解できた。

「へぇー、そんな凄い人が来てくれたら百人力じゃないですk」 ネネの言葉が最後まで続かなかったのは、この2人が言い争いを始めたからだ。

「てか私の説明してくれたのは嬉しいんだけど、それでも言い方ってもんがあるんじゃないのかな?!! あれじゃあ悪口だよ!」
「悪口じゃねぇだろ! 事実を言ったまでだ!! てかお前、なんでここにいるの? お前までここに来たら、誰が領主様を警護すんだよ!!!」
「…………しまった!!!」
「しまったじゃねぇだろ!!」
「いい匂いにつられてたらここまで来てた」
「ここまで船で2週間ですけど?!」

 戦闘しろよ!! と思うかも知れないけど、さっきまでの会話の中でも警備隊隊長は、『4時方向』『6時から9時にかけて』などと的確な指示を出して、それを当てているのでびっくりだ。

 すり抜ける霊化にはミューが、燃やす体の炎焼にはゼブレータとシャムルが完全に対応しきっている。

 妖術隊隊長アートから見れば劣勢なこの状況で、そのゴーストとキツネを取り込んだクリオネの人工妖魔は咆哮する。

「九尾 柿落こけらおとし 流灼剣星グランマイウィッシュ

 光ッッ!!! 満月輝く星空が赤色に不気味に光った。正確にいえば、炎でできた剣が空に浮かんでいた。その数、星の数ほど。

 そして今それが、流星群のように落ちてきた。
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